『2022 ザ・ベストミステリーズ』 日本推理作家協会編 / 講談社文庫
講談社文庫から1974年以来発行されてきた「ミステリー傑作選」(日本推理作家協会編)──最近は「ザ・ベスト・ミステリーズ」とタイトルされている──の紹介も数がたまってきたので、「ミステリ・サスペンス」とは別に複数の作家によるミステリ短篇を集めたオムニバス、アンソロジー専用に「ミステリー傑作選」というカテゴリーを起こすことにした。
まあ、書き手である烏丸が過去分を確認するための索引が主たる目的なのでどうぞお気になさらず。
さて、その「ザ・ベストミステリーズ」の新作である。
目次は以下のとおり。
逸木 裕「スケーターズ・ワルツ」
大山誠一郎「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」
芦沢 央「アイランドキッチン」
川瀬七緒「攻撃のSOS」
杉山 幌「光を描く」
大門剛明「手綱を引く」
笛吹太郎「コージーボーイズ、あるいは謎の喪中はがき」
米澤穂信「ねむけ」
このところガブリエル・ガルシア=マルケスやホセ・ドノソら、ちょっと面倒で面妖なラテンアメリカ文学にはまっていたせいか、今回はわりあい素直に「短篇ミステリって楽しーい!」気分を味わえた。
「殺人事件があり、探偵が天才的推理で謎を解く」という黄金パターンが少ないのが最近の傾向なのだが、それでもいくつかの作品では明確な「悪」が描かれ、その分明確な「悪」の登場しないいわゆる「日常の謎」界隈の作品も新鮮な気持ちで読むことができた。
以下、雑感。
逸木 裕「スケーターズ・ワルツ」は音楽家の世界をテーマに10年前の事件を解きほぐす。伏線から後味まで、よい仕事、綺麗な仕上げ。
一点だけ、(ほとんどいちゃもんの類だが)探偵役の主人公は父親の興した探偵事務所に務め、ドイツ料理のレストランでメニューを見ると「見たこともない料理名で埋め尽くされていた」、ピアニストに指揮者の名前を問われると「小澤征爾なら知ってます。あとは、カラヤンって人、いましたよね?」と答えてヴィルヘルム・フルトヴェングラー、カルロス・クライバー、ヴァレリー・ゲルギエフについては「聞いたことすらない」。
ところが、そういうはっきりいえばガチャなキャラクター設定の一方でたとえば「気まぐれを起こして休まなければ、このワインがわたしの舌を撫でることはなかったし、この音楽がわたしの耳に触れることもなかった」云々という地の文はどうだろう。
大山誠一郎「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」、時計店店主の女性がアリバイ崩しのスペシャリストという設定に覚えがあると思ったら、テレビ朝日の連続ドラマ「アリバイ崩し承ります」の原作であったか。
犯人は同時に起こった2つの殺人事件の容疑者として警視庁と所轄の那野県警を混乱させる・・・という設定も、精緻なアリバイ崩しも面白い。面白いのだが・・・これ、警視庁か所轄の一方が怠惰、もしくはほかの容疑者を追ったとしたら、犯人、普通に逮捕されて有罪になるんじゃないか・・・?
「アイランドキッチン」、芦沢央が巧いのはもうわかった。いわゆるイヤミス、逮捕されない悪。黙って読むから許して。
川瀬七緒「攻撃のSOS」、極めて特殊な技能をもった主人公が事件にあたる、という設定はシリーズものの設定として悪くはないのだけれど、その特技についてスーパーマンに過ぎると、そこ以外で制限をかけないと締まったお話にならない。という作家の苦労がしのばれる作品。その制限のほうで、少し読むのがつらい。
杉山 幌「光を描く」、高校野球の公式戦で、実力では上回っているはずの相手校にストレートを狙い打たれてリードされる。サインが盗まれているのではないか・・・?
青春の、光と影を描いて秀逸だが、イジワルな読み手はこの作品も「味方が相手ピッチャーをカンカン打ち崩して大量リードしていたらどうなったろう」と余計な心配が残った。むしろ、そうなった場合のほうがよほど大変だ。
笛吹太郎「コージーボーイズ、あるいは謎の喪中はがき」、今回の1冊のなかで、いちばんお気楽、呑気な風体で、実際殺人も悪人も登場しない作品なのだが、「身内に不幸が起こったわけでもないのに姉が喪中はがきを出した」という謎(ホワイダニット)に対し、登場人物たちが毒入りチョコレートもかくやの議論伯仲、最後にこの上ない見事な伏線返し。構成といい爽やかさといい、文句なし。
「ねむけ」、米澤穂信の学園モノは正直言って少し苦手なのだけれど、こういう作品を読むとその力量は評価せざるを得ない。ストーリーや謎解きの巧さのみならず、全体をみっしりと押し包む雰囲気が同時にプロットでもある、という構図のすさまじさ。これは単行本『可燃物』も読まないといけないなあ(こういう出会いがアンソロジーを読む楽しみでもあります)。
大門剛明「手綱を引く」、これだけ順番が入れ替わっているのは、ほかの各作品はあーだこーだと重箱の隅を楊枝でほじくりつつ根っこのところでは楽しみ、また感心したのに比べ、鑑識犬を扱う本作品は素直に面白がることはできなかったため。
登場人物はある事実に気がつき、2つのうちどちらを選ぶかで迷う・・・。
いや、待て。私立探偵を主人公にする探偵小説ならいざしらず、警察小説で迷うのはその2つのどちらかではないでしょう。回りもそれを許すんじゃない。











