クリティカルヒット! 『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ (11)』 青木祐子 / 集英社オレンジ文庫
前回、第10巻を取り上げた際には、沙名子さんの「攻撃力」について触れ、
> その「攻撃」が遠隔操作をもってなされ、かつ決して深追いをせず一撃必殺を旨とするため、攻撃を受けた側は沙名子から攻撃を受けたことに気がつかないままに撃沈する。
とかいったようなことを書いた。
新刊の第11巻では(ネタバレになるが帯の惹句にも書かれているので良しとしよう)森若さんと営業・山田太陽の結婚にいたる確認工程が主題であり、それぞれの家族への挨拶、家事はどう分担するか、式を行うかどうか、婚約指輪はどうする、どちらが姓を変える、といったこまごまがサブテーマとなる。
つまり、前回書いたような「遠隔操作」などでなく、太陽は至近距離から直撃弾を喰らいまくる、と、そういう1冊である。
ちなみに、正論の語り手ゆえ、沙名子もまた無傷ではいられない。
森若沙名子は、若干発達障害の気味のある、処理能力は高いがコミュニケーション面で少し融通の利かない女性である。
それゆえ結婚についてのさまざまな手続きが、いわば剥き出しになって沙名子と太陽の間に隔壁として立ちふさがるが、それらは本来的にはこの国に住むあらゆるカップルがかかえているはずの障壁に違いない。
結婚する若者が減っている、少子化が進んでいる、そういった事態に対して岸田内閣や東京都は(いやだなあ、どこかのコメンテーターみたいな口ぶりになっちゃったよ)子育て支援だの教育費無償化だの、現金ばら撒き先の枠組みばかり議論しているが、若い男女が抱えている問題は単にお金が足りないことだけではないんじゃないか。
沙名子と太陽は結婚におけるさまざまな手続きについてスプレッドシートを用意して一つひとつ埋めていくが、実はそこには意外なほど住居費、生活費といった経費の項目は書かれない。彼らが務める天天コーポレーションが安定ホワイト企業だから、というだけではない。結婚にまつわる支出よりやっかいな諸問題を「融通の利かない」沙名子の目線が洗い出し、並べ立てていく。
いつもとはかなり趣の異なる11巻で、読み応えは少々重い。
重いので読むのはしんどいが、そのぶんごくまれにではあるがツンデレ沙名子さんも描かれていて、それはそれでクリティカルヒット。







シリーズ最新刊出来。
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ちょっと、狼狽(うろた)えている。