カテゴリー「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」の13件の記事

2024/12/13

最近のコミック新刊から 『身代わりの花嫁は、不器用な辺境伯に溺愛される(4)』『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(29)』

Photo_20241213185101 『身代わりの花嫁は、不器用な辺境伯に溺愛される(4)』 一ノ瀬かおる、原作 椎名さえら、キャラクター原案 一花 夜 / KADOKAWA フロースコミック

タヌキ目のクラリスがキツネ目のジーン(ジークフリート・グーテンベルグ辺境伯)をともなって生まれ育ったファーレンハイト家に再訪し、ファーレンハイト家の歪み、姉マチルダの秘められた真実が明らかになる・・・という痛快無比な第2巻をピークに、3巻、4巻はクラリスよいしょ持ち上げのやや落ち着いた展開。

とはいえ、3巻4巻に登場する“ファーレンハイトの宝石”姉マチルダの執拗な嫌がらせはその手振り、台詞ともに実に陰湿、いずれも実際はクラリスの回想や空想の中の姿でしかないにもかかわらず、マンガ史上まれに見る凄まじさ。塗り絵のお姫様物語のような本作が大人の読むに足る物語にしている理由の1つはこのマチルダの異様な存在感が大きいのではないかとも思われる。

さて、クラリスとジーンの2人には執務室で勝手に仲良くしていただいて、残る興趣はお調子者シド・ハンゼンとメイドのメアリーの関係の行く末。そして(若干見え見えの)メアリーの氏素性。

そしてもう一つ、「言われてみれば」と面白く思ったのは、まま子扱いされていたお姫様がめでたく白馬の王子様とハッピーエンドになったとしても、その時点で彼女は社交のマナーも、ドレスのセンスも、ダンスの足さばきも、何一つ身についていないだろう、ということ。
シンデレラは王子様に見初められて幸せに暮らしたことになっているが、はたして本当にそうか。慣れない王室での生活にあれこれ苦労が絶えなかったのではないか。
幸い、4巻は、ダンスが不得手なクラリスをジーンがステップの練習に誘うシーンで幕を閉じる。
表紙もその2人の踊る・・・

  ・・・ちょと待て。表紙画像が間違ってる。
  今週の担当、誰だよ!

4_20241213185101 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(29)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

  ああ、まだ表紙画像が直ってない。
  では、その時間を借りて、ちょっと話がくどくなるけど、

先日、岩波文庫の『英国古典推理小説集』 を読んで、英国の古典推理小説といえば
ちくま文庫から出ていたR・オースティン・フリーマンの『オシリスの眼』(渕上痩平訳)を買ったまま放置していたなと思い出し、本棚から取り出して読み始め、
その「訳者あとがき」にはフリーマンが短篇集『歌う白骨』において犯人を最初から明かしたうえで探偵による解明のプロセスを描く「倒叙」推理小説(刑事コロンボや古畑任三郎がそうですね)を最初に提唱・実践した、といったことが書かれていて、そういえば昔読んだはずの
「歌う白骨」ってどんな話だったっけと創元推理文庫の『ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ』を取り出して短篇「歌う白骨」を読んでいたら、

すみません、↑は読み飛ばしてかまいません、ともかくその「歌う白骨」の中に、ソーンダイクの研究所の助手ポルトンについて、

すべての科学的研究には、肉体的な労働が必要で、学問は長く、人生は短いから、科学者が何もかも全部やってしまうというわけにはいかない。(中略)骸骨の標本をつくるときには、薬液に浸したり、漂白したり、骨を一つずつ接合したりする仕事は、それほど忙しくない助手にまかせるのが普通だ。(中略)知識をそなえた科学者の背後には、かならずすぐれた実験の技術をもつ技術者がひかえているものだ。

との一節があった。

フラジャイル』第29巻のテーマは、まさしく、科学者(岸京一郎)をサポートする臨床検査技師、森井久志の物語である。

ただし、森井は「それほど忙しくない」などありえない激務であり、さらに技術者の常として、後輩への技術の引き継ぎが必ずしもうまくいかない・・・という表現がバファリンの半分のやさしさでできているくらい厳しい。
引き継ぐべき後輩の1人は黙って病院を辞め、1人には森井の教え方が「カス」だとののしられる。ページ半分の大ゴマで、「カスです!!」。

その森井が、医療機器メーカーの営業担当には「医療革新の勇者」と期待され、大学病院の病理からは渡米する技師の後釜に誘われる。

仕事とはそのように渦を巻いて恐ろしいものである、というのが29巻への感想。

ちなみに「歌う白骨」の上の引用部分の数ページあとには

溺死とみてよさそうだ。もちろん検死(ポスト・モーテム)の結果を待たないと、

という1行もあった。40年前に目にしていていながら、学ぶべき言葉を素通りしていたのだ。
読書も恐ろしいものだ、と思う。

  それで、表紙画像担当、まだつかまらないの??
  きさまの大切なフィギュアがどうなっても知らな・・・
  って貼り紙しといてっ!

2023/09/29

最近読んだマンガから 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(26)』『マグメル深海水族館(9)』

Photo_20230928235601 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(26)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

今回より緩和ケアへの配属を希望した専攻医 朝加飛生の仕事の話。
仕方ないことだが医療は無敵ではない。治らない病、死に至る病はある。
そのとき、(緩和ケア医に限らず)医者に何ができるか、何をすべきか、何をしてはいけないのか。
朝加飛生という医者は、今回こそただ熱心さがやや暴走気味、程度に描かれているが、20巻における登場の際は舞い上がった勘違い専攻医としてかなり問題児扱いされている(読み返してみたが、20巻、21巻はそんなお調子者ごときは叩きのめされる、医療マンガとしては図抜けて厳しいエピソードの1つと思われた)。次巻、作者は彼を穏便に一人の医者としてその成長した姿を描くのだろうか? それとも。
という表向きのストーリーはさておき、今巻で一番ウケたのは、完治の望めない患者への対し方に迷った朝加が病理医の岸に相談に赴いたところ、
「人として正常な判断ができていないんだな かわいそうに」
と岸本人に言われる場面。そう言える岸が羨ましい。
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

Photo_20230928235602 『マグメル深海水族館(9)』 椙下聖海 / 新潮社 バンチコミックス

深海魚を飼育、展示する架空の水族館を舞台に、さまざまな人間模様を描く。
その副菜として、本巻ではたとえばウシマンボウ、サンコウメヌケ、シンカイクサウオなどがストーリーを飾り、加えてラブカの人工保育や樹脂標本など、いろいろ技術的な話題がちりばめられて科学マンガ好きにはたまらない。
ただ、この『マグメル深海水族館』、一話単体で読んでもあまりテンションは上がらない。よくある人情噺かな、程度の感想が残るばかり。数話集めた単行本を1冊読んでも、まあ、いいシリーズだな、と。
ところが、この表紙のお嬢さん誰だっけ、とか、思い立って過去の数冊を続けて読み返すと、これがなかなか胸にくる。
それぞれの登場人物の生きる姿、とか、深海生物の不思議な生態、などが柔らかくからまって、なんだか不思議に豊かな読後感に満たされる。
これはなんだろう? ということで、とりあえず「マグメル現象」と名付けてみることにした。
・・・まあ、そんなことは3日もすると忘れてしまうわけだが。
で、またときどき取り出しては読み返す。
で、予想していたより読み応えがあって驚く。喜ぶ。お得である。

2023/06/01

短評 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(25)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo_20230601160401 3巻費やした「JS1治験フェーズ3編」決着。

表紙は妙にほわほわしたおポンチ絵だが、内容はいつも通りレベル10辛なので心配ない。

ただ、この作品でなら本来単なるトッピングだったであろう医療や科学とは少しずれたところが癌治療の新薬「JS1」編の決定打となってしまっていて、そこはちょっと、いいのかどうか。
まあ作品としての面白さ、痛烈さは十二分にスパイシーなのでそれはそれ、いいのだろう。

「虫の理屈なんても  お前達が知る価値もないだろ」
「この世に確信的な大悪党なんていねぇのよ そこには無数の保身があるだけなんだ」
「一番近くにいるのが 僕じゃだめなんです」

などなど、今回も登場人物たちのわざと水の底をくぐるような比喩に満ちた言葉遣いが各ページに炸裂するが、そんな中でも168ページから170ページにわたっての「放送事故」は凄い。
この作者たちは、なぜこんな切ない「勝利」を思いつけるのだろう、描けるのだろう。
遠国にはなたれて怨念の鬼神となった者でもなければ思いつかないような。

2023/01/26

最近の新刊から 『エロスの種子(7)』『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(24)』『一応探偵局(1)』

7_20230126180101 『エロスの種子(7)』 もんでんあきこ / 集英社 ヤングジャンプコミックスGJ

今回はエロ要素少なめ。
というか、まてまて、収録6話(うち4話は実質連作)ともざっくりハッピーエンド。どうしたもんでんあきこ

容貌に自身のないエロマンガ家が得恋する「フィルター」、イージーといえばイージーな話だが、彼の、また彼女の描写が巧みでとても好もしい。

いや、本当に好もしいのは、この1冊の中でハッピーエンドを迎える男女の、両者もしくは少なくとも片割れが、マンガ家だったり陶芸家だったり、北国のカルデラ湖で心中をはかる夫婦の失敗した事業というのもなんとなくモノ造りの町工場を想起させられて、つまりこの1冊がそういう人々のためにあるようで、それが嬉しい。

マンガは技術に務める者を描くとき、冴える。彼らを称えるとき、光る。

24 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(24)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

ここしばらく、マンガが取り上げる技術といえば一にスポーツ、二に医療。

大手病院の病理医を主人公に医療のあるべき姿を描く『フラジャイル』、新刊も相変わらずのテンションの高さ、病理と臨床、看護と患者、医師と製薬会社をめぐる綿密な論理展開。

一点、気になったこと。
作中の癌の特効薬「JS1」が、野球マンガの魔球のように扱われてはいないか。それは、このマンガの十年後にとって良いことなのかどうか。
もう一点。
ファイザーやモデルナのワクチンについて、これまで膨大な比較試験がなされてきたと推察されるが、その中、偽薬(水?)を打たれて結果コロナに罹患し、重症化して亡くなった被験者も少なからずいたに違いない。彼らは何を信じ、何を見たのだろう。

Photo_20230126180101 『一応探偵局(1)』 坂田靖子 / 双葉社 JOUR COMICS

『バジル氏の優雅な生活』や『マーガレットとご主人の底抜け珍道中』等で知られるベテラン作家坂田靖子だが、最近も年に1冊くらい、コンスタントに新刊を出していることを記しておきたい。

この10年でいえば、それなりに新規ファンをつかんだ『ベル デアボリカ』シリーズ、『サタニックブランチ』『ゴブリンズ・ライ』『ランプシェード』の変人探偵エムシリーズ、そして『ツビッキーコレクション』シリーズ。
いずれも坂田得意の1人がもう1人に振り回されるパターンで、(少しシリアスな『ベル デアボリカ』を除き)その素っ頓狂かつファンタジックな展開を気楽に楽しめる。

新作『一応探偵局』も、「一応探偵局(ほか なんでも)」と気の抜けた看板を掲げたあまりやる気のない探偵マクスとそこに派遣された会計士のジョージが、あまり収入にならないゆるい依頼にときどき応える、というお題。
大雑把なタイトルといい、主要キャラ2人が髪型くらいしか区別がつかず、生真面目で堅物の主人公に破天荒で非日常的な人物をあてるというお馴染みのパターンが崩れるなど、かたちへのこだわりはずいぶんと薄くなった印象ではあるが、続きの読めないドタバタ展開とぬるめの余韻は安心の品質、おこたにミカンに坂田でステイホーム。

ちなみに筆者(烏)は坂田靖子で無理やりベストを選ぶなら、単行本『エレファントマン・ライフ』を一に推す。収録作中、「トマト」の奇妙な浮遊感、「タマリンド水」のエンディングの切なさ、妻を交通事故で亡くした作家のあわただしい一日を描く「砂浜の家」の可笑しくも哀しい大人感覚。いずれもコミック短篇として比較対象の相手を知らない。

2022/09/22

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(23)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo_20220922174601 前巻で「ああこの物語もこの1冊で最後か」と思わせる再三のメタファー、あげくに全員そろっての「明日からも頑張ろう」記念撮影大ゴマ。
にもかかわらず巻末にいつものような続刊告知があって、これはもしや作者サイドの「終わりたい」に編集側の「そこをなんとか」があったか、などなどなど。

そんな状況下で作品の品質、緊迫感が続くかと心配された23巻、発売当日に入手して一読、もうね。驚きました。
前巻の「終わりかな」などどこ吹く台風、温帯低気圧。甘々とした予想など裏拳パンチ。

そもそもがこの作品、この水準で、一度はドラマ化さえされていて、なぜ騒ぎにならない。
たとえばワイドショーのサブカルコーナーで何度も紹介される『ダーウィン事変』や『タコピーの原罪』、いやチャーリーやタコピーが悪いという話ではなくて、どうして病理医岸京一郎が騒がれない。事件扱いされない。なぜだ。

思うに、少しストーリーが込み入りすぎているのかもしれない。

コムズカシゲな医療用語が頻出するのはもちろん、この23巻にしても、前半、やや問題のある師長が登場、そこから大病院における看護姿勢というテーマを描きつつ、気がつけばそこには医療に限らず誰しもが働く現場でぶち当たる問題、そこに焦点が当てられていく。
と思っているとそれに続いては癌の特効薬「JS1」について。新薬の治験をめぐる薬品会社、医療従事者、患者当人、それぞれにスポットライトを当てての、沈鬱なドラマ、そして薬品会社のなにやら怪しげな動きをめぐるヒリヒリ肌を刺すサスペンス(「JS1」には致命的な副反応があり、それが「手詰まり」を起こしているのか?)。
ところがその「JS1」をめぐるドラマの中に、しっかり前半の看護の問題が絶妙に絡まってくる。
そして、そうした寄木細工、隠し絵の多重構造が、作家の偶然や勢いによらぬ思索、論理の上に展開しているようにしか見えないのだ。

これはもう、とても「マンガでも読も」という気分では立ち向かえない。
ワイドショー向きの素材ではないのかもしれない。

だが、この思考ゲームに立ち向かって(多分)損はしない。
お医者さんも看護師さんもどうぞ読んでみてください。

2022/04/21

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(22)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo_20220421154701 ふー-------っっっっ...

発売当日。

読み終えて、本を閉じて、立ち上がって、須臾の間現実に戻りきらずフラッとバランスを崩す。
そんな単行本、めったにない。
そんな、めったにない1冊。

3冊費やした「ヒーロー参上!編」に決着、加えてあのネタ、そのネタ、このネタ。
全部パタパタとカタをつけて。
いつも薄くイラついた表情の岸に

  その通り

と豊かな顔をさせ。

途中、何度も、えっ、『フラジャイル』終わっちゃうの? という展開、ページ、コマ、セリフ。
巻末に次号予告があるので終わるわけではないようだけど、普通、どう転んだって終わる見開きの束でしょ、これ。
・・・編集部から連載継続の強硬な依頼でもあったのだろうか。

ま、いっか。

珈琲でも煎れて一服しよう。
それからもう一度、読み返そう。20巻。いや、できれば最初から。

2021/11/22

最近読んだ本 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(21)』『最後のレストラン(18)』『冬の蕾 ベアテ・シロタと女性の権利』

──そのまま黙ってしまえば、何もなかったことになってしまうのでしょうか、教授。
──な、なにを突然。エリカくん。
──あれっきり、もう何年も、ほうっておかれて。
──ば、ばかな。何年も、だなんて・・・そうだっけ?
──では、少し前なら思い当たるフシもあると? 教授。
──待て待て待て待て、わ、私は、エリカくん、酒が過ぎたあの夜も、決して、指一本も。
──まあ、今さらなにを。そうそう、わたし、お医者に伺わなくては。
──医者。医者だと?
 
というわけで、教授とエリカくんは放っておいて、まずはお医者マンガから。
 
21 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(21)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC
 
発売から少し間があって、今さらではあるが、この巻が医療関係者の出入りするサイトでも話題、という話を小耳にしたので(ただし、そのサイトを読んだわけではないのでどう取り上げられているのかは存じ上げない)、取り上げておきたい。
 
重篤な患者に、医者がどう向かうべきか──という医療マンガの基本といえば基本を扱ったこの第21巻、ざっくり言うとシリアスなテーマを正面から取り上げたマンガとしては最低でも本年のベスト3に入る、そう考える。
 
  これでも精一杯
  やってるんだよ…
 
少なくとも、若手とはいえ医者に言ってはならぬことを言わせ、してはならぬことをさせ、苦痛と不安に悶える患者が医者を信用できなくなるその瞬間を重厚、多層的に描いた、その一点をもって本作は凡百の医療ドラマを凌駕した。
 
これは患者の尊厳と、医者という仕事の立つべき地平を相互に切り裂くように描いた稀有な1冊である。
あえて決着が次巻に残されたことで、その余韻を刻むべし。
 
Photo_20211122175401 『最後のレストラン(18)』 藤栄道彦 / 新潮社 BUNCH COMICS
 
歴史上の著名人が死の直前、現代にタイムスリップして、末期の一食に満足して戻っていく。
いかにギャグで覆い隠そうが、明るい話になるはずもない設定を、各話ともその著名人が新たな人生の発見に満足して戻っていく話にして終わるわけだが、それにしても
 
  西太后(中国史の三大悪女の一人)
  ユリア・アグリッピナ(暴君ネロの母)
  北条政子(源頼朝の妻)
  バートリ・エルジェーベト(吸血鬼伝説の祖)
  ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(ナポレオンの最初の妻)
 
と東西の女傑、悪女、怪物を揃えた本巻の放つ腐臭は半端でない。
本巻の各話には登場人物の婚活がコメディとして縫い込まれているのだが、それでも人の欲と死の醸すすえた臭いが圧倒的に場を支配する。
 
では、己は、頼まれもしないのに、なぜそんなものを18巻も読んでいるのだろう?
 
・・・うまく言えないが、なんだろう、自他を知ること、前に進むということは、決して安直なものでなく、ぎりぎりまで抗って抗って抗って、それでも死の直前までにほんの少しでもわかれば上出来、そういう無常観を手軽に味わう楽しみ、とでも言うか。何を説明していることにもなってないな。
祇園精舎の鐘儲け、おごってくれる人も久しくなし。
 
Photo_20211122175501 『冬の蕾 ベアテ・シロタと女性の権利』 樹村みのり / 岩波現代文庫
 
約1年前の発行。不勉強にして本書の存在をまったく知らなかった。
 
作者の樹村みのりについて、また本書で取り上げられた日本国憲法に男女平等条項(第24条)が1週間という短い期間で起草された経緯、またそれに尽力した民間人の民生局調査員について、、、
 
語るべきことは少なくないが、今はただ樹村みのりの瑞々しい新作が読めたこと、その素直な描線、明哲な視線、優しい語り口が健在であることを喜びたい。
本作の初出が30年近く前のことであったとしても。
 
政界のリベラルを担う方々も(とはいえ、もはやリベラルの名にふさわしいのが与党の側か野党の側かよくわからないのだが)、本書のようなナイーブかつ柔軟かつ堅固なスタンスからモノを語ってくれればよいものを。
 
──ですから教授、わたくしといたしましては、女性としての権利を。
──み、認める、女性の権利も秘書の利権も認めるから、だからその、つ、妻と子どもにだけは。
──あら、奥さまお変わりございませんか。先般お会いした折には。
──つ、妻と会った・・・ど、どっちの?

 

2019/10/28

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(16)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

16 書評にあらず。新刊のお知らせのみ。

ゲノム医療を扱って怒涛の15巻から1ヶ月あまり、早々の新刊出来にちょっと驚いたが、これは15巻と併せて前・後編扱いということなのだろう。
(実際、16巻巻末の次巻予告は「2020年早春発売予定!!」とあり、単行本が月刊ベースになったわけではなさそう・・・当たり前ですね)
まあ15巻のひりひりシビアな内容で続編を数ヶ月放置されるのは読み手にとって厳しいとは思う。
一ネタ完結してよかったよかった。

・・・と思ったら、次巻でも火箱と間瀬のアミノ製薬への復帰ネタ続くんかーい。
体力いるね。珈琲とチョコレート準備しておかなくちゃ。

2019/09/30

最近の医療マンガから 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(15)』『インハンド(02)』

少年誌の発行部数激減などいろいろ煮詰まっているもようのマンガ界だが、こと医療マンガに関してはまだまだ素材、切り口に余力があるようで、喜ばしい限り。
タネを蒔いてくれた手塚先生、ありがとう。

15 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(15)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

医療マンガがまださまざまな切り口を保っていられるのは、描かれる医者の立場が一巡していないことが大きい(性病科、肛門科はもちろん、皮膚科や眼科のマンガも見たことがない。もちろん外科や法医学だってまだまだ描きシロは残っているだろう)。
それにしても中堅病院の病理医という目の付け所は素晴らしい。

そして、従来の医療マンガの多くが
 原因不明の重篤な症状
  →主人公の天才的メスさばきで救われる
もしくは
  →ヒューマンな主人公の力の限界で救えない
という外科至上主義なバリエーションだったのに対し、『フラジャイル』は最新の15巻においておそらく医療マンガとしては初めての大きな問題提起をしてのける。
マンガとしてわかりやすいか、面白いか、という問いは残るが、このアクロバティックな挑戦は高く評価したい。

すでに書いたかもしれないが、このシリーズはあらゆる研修医の皆さんに読んでいただけたらと思う。

02 『インハンド(02)』 朱戸アオ / 講談社 イブニングKC

期せずして『インハンド』の新刊の収録作でも『フラジャイル』と同じく遺伝子療法がキーとなった。

ただ、残念ながら『インハンド』はもともと性格の悪いスーパー探偵による謎解きサスペンスの色合いが濃く、読み物としてはともかく医療そのものへの提言といった方向にはまったく深掘りが進まない。
もちろんこれはないものねだりであり、「性格の悪いスーパー探偵」が活躍するだけで、十分満足はしているのだが。

むしろこの02巻が食い足りないのは、主人公が寄生虫の研究家というもともとの設定が幕間の飾りにしかならず、事件の真相も寄生虫とはなんら関係ないことだ。
ついでに主人公の右手の義手も、過去に大きな禍根があったことこそ匂わすが、ストーリーにはほとんどかかわってこない。
このままさまざまな小道具が散漫な印象のまま終わってしまうようだと、それは、惜しい。

2019/02/04

心外だなぁ 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(13)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo待望、『フラジャイル』新刊。

 

前巻にて助手的立場から一つ独立宣言を果たした宮崎智尋医師のように、本作自体、すでにどこかでブレークスルーを興していたわけだが、それは同時に智尋と同じように、もはや引けない、戻れないステージに自らを無理やり押し上げたことである。

 

第13巻では幕間にあたる掌編を挟み、改めて新たな大ネタにあたるが──ネタバラシをしてしまうなら、今回のテーマは宇和島徳洲会病院の万波誠医師の治療行為で訴訟を含む社会問題となった無許可での病気(修復)腎移植のバリエーションである──腎不全に苦しむ患者数に対して、生体死体合わせてドナー提供者の数は圧倒的に不足しており、病気腎移植の是非について議論は現在も続いている。すでに史実のあるこの難しいテーマを本巻、次巻にかけてどう描き切るか、作者の手腕が問われる。

 

──と、作品を読んでない方にはおよそチンプンカンプンな書評を書いて投げ出すのは、少なくとも医療マンガに興味のある方なら『フラジャイル』はもはや必須、必読と考える由。

 

ついでに。
全国の医学生の皆さん、今週末に控えた医師国家試験を終えたなら(お疲れさま!)、やれ卒業旅行、やれ引越しと浮かれる前に書店に走って『フラジャイル』を全巻買い求めよう。ここには国試には出なくとも、いずれあなた方がぶつかる問題が、そのまま問われている。模範解答は、ない。