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カテゴリー「コミック(作品)」の421件の記事

2018/02/17

本棚にかけろ 『ビブリオ漫画文庫』 山田英生 編 / ちくま文庫

Photo「次は、えーっと、ビ、ビブリオ漫画文庫?」
「本、より狭く言うと古本屋がテーマの短篇マンガを揃えたアンソロジーですね」
「えらく堅いタイトル」
「内容も、堅いといえば堅い。水木しげる、永島慎二、つげ義春、松本零士、楳図かずお、辰巳ヨシヒロといった古豪、大家から、諸星大二郎、いしいひさいち、西岸良平、近藤ようこ、山川直人、豊田徹也ら現役中堅。加えて湊谷夢吉、つげ忠雄、うらたじゅん、南日れん、おんちみどり、Q.B.B.などちょっと変わった描き手まで」
「うう、ガロの青林堂が教科書こさえたら、みたいな?」
「なぜか山川直人が2作選ばれるなど、バラエティより編者の嗜好を優先したのでしょう。それはそれでスジが通った印象」
「久世番子『暴れん坊本屋さん』とか混じってたら、も少し突き抜けたかもしれない」
「それでも、誰が編もうが、古本屋をテーマにしたら最後、ノスタルジック、センチメンタルな昭和テイストが先に出て、友情・努力・勝利!の少年マンガや少女マンガの出番はないでしょうね」
「芥川賞選者と直木賞作家がリング上でディベートして、必殺技が決まると相手が体育館の屋根突き破って飛んでく、とかはないの?」
「ありません」
「ビブリオテカ マグナーム!!」
「(無視して)水木しげる、松本零士、辰巳ヨシヒロあたりの作品もそれぞれの作家にしてはやや凡庸で、こういったアンソロジーでなかったら選ばれたかどうか。それだけ本をテーマにしたマンガの傑作は少ないということかもしれませんが」
「そんななか、空気読まず楳図かずおのまっしぐら落っこちるキレキレ具合はさすが」
「つげ義春『古本と少女』は、貧しい学生と古本屋の少女の淡い恋を描いた佳編」
「あ、これ知ってる。昔、『紅い花』の文庫版で読んだ。懐かしー。でも、これ、“絵描きの青年が払った1500円はどうなるの?”とか“学生君が手にした1000円はどうするの?”とかが気になって気になってもう」
「諸星大二郎の作品は『栞と紙魚子』シリーズから」
「あー、あの栞ちゃんが水着で変身して悪の古本王と闘う」
「適当なウソをつかない」
「痛い痛い、本の角で叩くのは反則」
「豆腐の角で頭打って死んでください」
「あ、豊田徹也も選ばれてるのね。この人は、単行本『アンダーカレント』が面白かったから好きな作家なんだけど、はっきりしないものを追い詰めてこその作風。だから短篇集では長編ほどの手応えがない。今回の2ページも、アンソロジーに選ぶほどのものだったかねえ?」
「ど、どうしたんですか先輩。なんだかまっとうな人みたいですよ」
「ふふふ、こう見えてその正体は謎の青パンツ古本王」
「巻末の永島慎二『ある道化師の一日』は、作家の遺族の方の編んだ遺稿集(非売品)に掲載されたものだそうですよ。なんということのない6ページですが、いいですねえ。道化師の老人の、言葉を明らかにしない『・・・・・ ・・・・・』の吹き出し、永島慎二がほかの作品で使った手法ではありますが、本作ではとくに心に染みます」
「・・・・・ ・・・・・」
「先輩が同じことやっても、エロいこと考えてるとしか見えませんね」
「うう。毎度のオチなのに反論できん」

2018/02/12

『からかい上手の高木さん』(現在8巻まで) 山本崇一朗 / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

Photo書店で平積みの人気作。
正直、手に取る前は、この年になって中学生のラブコメなんてなー、とあなどっていた。
ところが、高木さんがかわいい。尋常ならざるかわいさである。時計をキリキリ巻き戻し、どこかの平行世界で高木さんの隣に座りたい。

主人公、西片君は中学1年生。隣の席の高木さんが授業中、学校の行き帰り、なにかとからかってきてはいつも負けてしまう。今日こそは! とあれこれ企むが、結局見破られて失敗に終わる。
高木さんは実は西片君が好きなのだが(ときどき正直にそれを口にすることさえある)、西片君はドキドキするものの「まさか」、そこに高木さんのクリティカルヒット。今日も二人は──。

作者はかなり頭のよい人に違いない。少なくとも次から次と小さな「勝負」を挑み、西片君をからかう高木さんと同程度には頭が働かないと、これは描けない。さらに、一歩間違えるとしつっこい「いじめ」とも捉えられかねない設定を、西片君を(ドジで女の子の気持ちには鈍感だが)負けん気の強い、気持ちの良い少年に描くことですり抜ける展開も簡単ではないだろう。

と書いて、ところで本当にすり抜けられているのか? と気になってきた。
広辞苑で「からかう」を引いてみる。
「冗談を言ったり困らせたりして、人をなぶる。じらし苦しめる。揶揄(やゆ)する。」
なぶる、じらし苦しめる。……ちょっと怖いよ、高木さん。

2017/12/19

最終巻を読む 『ベイビーステップ』(47巻) 勝木 光 / 講談社コミックス

Photo終わってしまった。
少年マガジン連載の『ベイビーステップ』である。

『ベイビーステップ』は若いテニスプレイヤーたちの成長を描いた読み応えのある作品で、このブログでも再三取り上げてきた(第9巻22巻38巻40巻41巻42巻)。

しかし、その終わり方が、解せない。

主人公がプロになり、苦闘の末ようやく臨んだ国際大会本戦、強敵との対戦中、1ゲームリードされてさあこれから!のチェンジコート、審判の「タイム!」の声で唐突に終わってしまうのである。ネット上でも「打ち切りか」とちょっとした騒ぎになったが、確かに不可思議に思われる点もあるので2、3挙げておきたい。

『ベイビーステップ』は単行本発売日の平積みの具合など見ると、同誌の他の連載作品に劣るとは思えない。打ち切りになるような作品ではないのである。最終回で巻頭カラーを飾ったことを見ても、編集部とのトラブルがあったようにも思えない。
講談社漫画賞受賞作。アニメ化、実写ドラマ化、プリンスと用具使用契約、エレッセとキャラクター使用契約、「テニスの日」のイメージキャラクターに選ばれる、協賛テニス大会が開催される、有明コロシアムの楽天オープン会場では試し読み冊子が配られる(添付画像)、など(『進撃の巨人』ほどではないが)コラボレーションの話題にもことかかない。
こんな人気作、話題作たる『ベイビーステップ』を終わらせて、それを埋めるだけの作品は用意できるのか?

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最終巻の巻末には手書き文字の
「色々事情もあり、主に私の力不足で(中略)ここまでになってしまい残念です」
「できればデ杯も描きたかったけど・・・」
という悔いをにじませたコメントがあり、今回の終わり方が発展的解消(たとえば数か月後に「第二部 グランドスラム編」開始)のためではないことが窺える。

つまるところ、危急な個人的事情、あるいは何か人間関係によるものなのか。

私見では第42巻から43巻にかけての王偉戦の精緻な描写を第一と推すが、池や難波江ら、連載開始当初からのライバルたちとの直接対決が描かれなかったのは残念。

それはともかく、連載開始以来、テニスプレイヤーの心理と戦略と訓練を1コマ1コマ丁寧に描いてくれてありがとう。マンガファンとして、またテニスファンとして、本当に楽しい10年間でした。
地味ながら、ほかのスポーツマンガではあり得ない次の1ページに、あらためて驚嘆と賛辞を込めて。
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2017/10/30

『BOX ~箱の中に何かいる~(3)』 諸星大二郎 / 講談社 モーニングKC

Box一方に日常的なリアリティに立脚するエッセイマンガがあるなら、昔ながらの荒唐無稽な絵空事に終始するマンガもある。
諸星大二郎の『BOX』はその「荒唐無稽」をさらに斜めに突き抜け、パズル空間を舞台とし、形而上学的(メタフィジカル)な域に達した作品である──とかなんとか評したって、別に何を言い表せているわけでもないんだけど。

ともかく、登場人物たちが招き寄せられるように入り込んだ「箱」の中では、各自に与えられたパズルを解かないと先に進めない。進む先には怪しい魔少女や箱を模した罠、グネグネしたクリーチャーが待ち構え、混乱の中に一人、また一人と脱落していく。
とあらすじを書いてみると『そして誰もいなくなった』パターンや『ポセイドン・アドベンチャー』パターンが思い起こされるが、完結編にあたるこの第3巻では、、、

ざっくり印象をまとめると、同じ作者の『暗黒神話』や『マッドメン』ほど重くなく、初期のギャグみたいにはすべらない。しいて言えば『栞と紙魚子』シリーズに近い気もするが、短編集ではなく、事前に多数の伏線を張り、それらをきちんと回収し、さらにさまざまなオリジナルパズルをストーリーの要所要所にはめ込んだ長編なのだから実はかなりの力ワザである。

登場人物たちは「箱」の外では意外なほど現代的、日常的で、また、いかにも破滅しそうな人物を除けば案外皆無事に最後のページに至る。こうしてみると、この作者にしては珍しい「コメディ」と言えるのかもしれない。

コレカラ読ム方ハ、登場人物タチノ数ト名前ニ留意シテオ楽シミクダサイ。

2017/10/29

『リアル風俗嬢日記 ~彼氏の命令でヘルス始めました~』 Ω子 / 竹書房 バンブーエッセイコレクション

Photo本ブログでも何度か、昔はマンガといえば荒唐無稽の代名詞のような扱いを受けてきた、ということについて触れてきた。実際、作者自身が「でたらめ」と語るほど、自由な想像力に基づいて描かれ、それが魅力となっている作品も少なくなかった。
面白く思うのは、書き手の問題か、読み手の問題かは知らないが、いつの間にかマンガは現代の社会、若者を描く、何よりリアルなツールとなってしまった、ということである。

そのあらわれの1つがいわゆるエッセイコミックの台頭で、今回取り上げる『リアル風俗嬢日記』においても、いかにもマンガなコマや線や効果(集中線や汗、怒りのマーク)によってヘルス嬢の日常が生々しく描かれている。風俗嬢の日常に興味がある、ないにかかわらず、お薦めしたい。
(マンガ配信サイト「めちゃコミック」の広告で再三面白そうなサンプル画面を見せつけられ、冊子発売と同時に購入してしまったが、正解だった。)

たとえば入店時の面接、Webでの新人紹介用の写真撮影、忙しい日の対応グッズ、性病検査や治療、といったヘルス嬢の日常の確かなリアリティ。とくに本番を求める顧客に対し、無表情、ないし笑顔をもって相手への不快、怒りを描くコマの数々はテクニカルでさえある。

本番といえば、作中何度も描かれる「素股」というテクニックは、吉行淳之介の『夕暮まで』が契機となり、桃井かおり主演の映画も作られ、あげくに「夕ぐれ族」なる愛人バンク(売春斡旋組織)が世間を騒がすなど一種社会現象となったものだが、吉行の小説では心理描写中心で抽象的だったその「素股」がさらりと身体的プレイとして描かれ、その描写力には過不足がない。

ポイントは、上記のようなリアリティが、一人の働く女性の日常をタイトに描くために用いられていることだ。
「風俗嬢」云々というとどうしても劣情をそそる(笑)読み物か、逆に女性の社会的地位がどうたらとの観点(つまり上から目線だが)で語ろうとする、そのいずれかを想起されるかもしれない(さすがに今どきはもうそうでもないか?)。
しかし、本書は極めて生々しい用語や描写を連発しながら、決してそのいずれにも加味しない。親や友人にあまり大っぴらには言えない職業ではあるが、ギャグやエロシーンをもって、当人なりのプロ意識をもって客を喜ばせる、プロによる仕事の日々を訥々と描き続けるのだ。

この豊かさを文章のみで実現できるかどうか……それはかなり難しいのではないだろうか。

2017/10/19

『好奇心は女子高生を殺す(1)』 高橋聖一 / 小学館 サンデーうぇぶりSSC

Photo描かれた1コマを見ただけで作者が特定できる、高橋聖一の新刊。

もともとはサンデーうぇぶりというサイトで配信中のコミック作品なのだが、紙でじっくり読みたいので単行本を購入した(こんな感傷はもう昭和人だけのものかもしれない)。

ストーリーは高校入学初日の放課後に知り合った(呑気で能天気だが行動的な)柚子原みかんと(優秀だが慎重に過ぎてコミュ力不足な)青紫あかね子がさまざまな不思議体験を通して友情を深めていく、というもの。
「友情を深めて」などと書いたら「いたたたたたっ」と北斗八悶九断が炸裂しそうだが、そこは読めばきっとわかる。
各編、ギャグに落としているように見えて、骨組みはきちんとSF。いや、異星人やタイムリープが出てくるからSF、というわけではない。試みがSpeculative Fiction、ということだ。
しかも全編通しての味わいは懐かしいみかん色、茜色。
きっとここが世界の始まり」なのである。

2017/07/28

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(9)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo優秀だが偏屈、漫画の主人公としてはいささかサービス精神に欠ける病理専門医、岸京一郎とその周辺を描く本作。

およそプロらしからぬ、リアリティのないコンサルによる「窪田プラン」とやらが破綻して、主人公たちが本来の病理の仕事に戻った第9巻は生きて本を読めることがこんなに素晴らしいことなのか、と空に向かいて「The Wall」全曲を通しで歌い上げたいほどによい出来である。

収録3作の内訳は、わからない、見えない、敗北と屈辱の話。
続いて、診断も治療もできぬままに友を死なせる話。
そして10歳の末期癌の話。

おーい、全国のポリクリ医学生ども、気分転換するなら「ドクターG」見て、それからこの本読みなさい。
腹の底から震えなさい。覚悟を決めなさい。

2017/06/30

〔短評〕 『僕が私になるために』 平沢ゆうな / 講談社 モーニングKC

Photo_5【トゥデ~イ イ~~ズ……  オペレ~~~ ~~ショーン!!】

この「くるくる回転図書館」をときどきでも覗いていただいている方には、烏丸がことジェンダーや性同一性障害(GID)について疎い、語る言葉を持たないことにお気づきかと思う。要は凡庸で想像力に乏しいのである。

元男性の作者がタイで性別適合手術(SRS)、早い話が男性器を切除する過程をユーモラスかつ具体的に描いた本作は、昨年の春、モーニング誌上でリアルタイムに読み、その後すぐ発売された単行本も手に入れていつか取り上げようと思いつつ、どう書くか見当のつかないまま今に至った。
正直にいえば作者(=主人公)の悩みは理解の外にある。だが、作者が一個の人間として己と対峙し、先の道すじを明らかにするために歩みを進めたことはわかった。さらにおそらくは想像を絶する本人の苦しみや周囲の冷たい目線、病院通いや裁判所での手続きへの葛藤があったであろうにもかかわらず、タイでの手術の過程を愉快に描くことに焦点をしぼり、その前後はさらりとかわした(描いていないわけではない!)ところに、作家としての力量を感じた。

単行本は発行部数が少ないのか書店店頭ですぐ見かけなくなったし、性同一性障害を扱った書物の中でどういった位置にあるのかよくわからない。
それでも、作者のナイーブな内省、術後の痛みあれこれ、底抜けに明るいタイのナースたちの描写を楽しむだけでも価値はある。一人でも多くの方にお奨めする次第。

2017/05/29

窓越しに遊ぼう(←編集GJ!) 『まどからマドカちゃん(1)』 福田泰宏 / 講談社 モーニングKC

Photo出版不況化に濫発されるマンガ単行本の消耗がー、といったあたりから書き始めたのだけど、どんどん作品から乖離してしまったので没。
シンプルにいこう。

元総理大臣みたいな名前の作者による『まどからマドカちゃん』はかわいい。面白い。売れるんじゃないかな。売れてほしい。

サラリーマンの小田君(やや社畜)は、会社に急ぐ道すがら、その路地に面したアパートに住むマドカちゃんと知り合う。
このマドカちゃん、突然窓を開けて寿司屋になったり、射的屋になったり、丁半博打の賭場を開いたり、病院開いたり、あれやこれやで小田君を翻弄する。今日はまさかの……。

マドカちゃんの側はセリフ(吹き出し)なし、その意図は表情とファッションと小田君の

  ちょっと待って! え? 寿司!?

  「何握りやしょう!!」みたいな顔しなくていいから!

などのセリフで説明されるのみ。そもそもタバコをくわえたり缶ビールをすすることはあっても、マドカちゃんの口や鼻は一切描かれない。

ちなみに小田君がとことん鈍いので気がつきにくいが、実はマドカちゃんはときどきエロなのでお子様には目の毒、お一人身様には気の毒だ。


(6月4日追記)
なんとなくタイトルに既視感があると思っていたら、『波打際のむろみさん』(名島啓二)という作品がありました。文字にしてしまうと別に似てもいないか。
釣りが趣味の少年が防波堤で人魚を釣り上げてもあまり動じない、可愛い顔をしたヒロインの人魚がゴカイやミミズを食べたがるなど、甘々とラブロマンスに走らないところが魅力的でした。

2017/05/01

だんだん浄らかになる 『美しの首』 近藤ようこ / エンターブレイン ビームコミックス

Photo夢十夜』紹介の際に「近藤ようこの描くものは、原作原案などなくとも」と風呂敷を広げた手前、解き放たれた近藤ようこの魅力を示す何かよいものをと思ったが、彼女の単行本は残念なことにその多くが品切れ、絶版で手に入らない。
そこで、新装刊されて比較的手に入りやすい『美(いつく)しの首』から、中編「安壽と厨子王」を取り上げることにした。

「安壽と厨子王」は中世説教節の一つ、森鴎外の小説『山椒大夫』や子供向け絵本でも知られている。

近藤ようこは原作の健気な弟、厨子王を、高貴な血筋と偽って裕福な貴族(梅津院)に寄宿する美少年に仕立て、彼がかつての主人、山椒大夫を陥れ、山椒大夫のもとを出奔する際に見捨ててむごく死にいたらしめた姉、安壽の怨霊の誘惑に溺れ、あげく梅津院やその妹、出戻りの醜女、朝日姫を死に至らしめ、金と権力を得て阿弥陀像の前でうそぶくまでを一気呵成に描き上げる。
姉の怨霊との冷たい肌の契り、稲生物怪録を思わせる化け物の俯瞰描写など、その筆は軽妙自在、赤塚不二夫のギャグに近い白い画面が、艶めかしく個人の存在の空恐ろしさを伝える。

厨子王は情けない小悪人なのだが、跳梁跋扈、悪に走るほどに仏に近づき、反省を捨てるほどに浄化されて最後には空しく透明な存在と化す。
大袈裟にいえばニーチェやドストエフスキーの超人である。だが、そんな小難しい理屈に囚われる必要はない。読み手は安壽と厨子王の運命に寄り添い、絶叫マシンのごとく時の流れの中を共に疾走すればよいのだ。

これで百頁、どうです先生、読みたくなつたでせう?

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