カテゴリー「コミック(作品)」の575件の記事

2026/06/08

ほんならウロボロス 『本なら売るほど』(現在3巻まで) 児島 青 / KADOKAWA HARTA COMIX

Photo_20260608181201 本好きが高じて町の古書店を継いだ青年と本を愛する人々の心の綾を縦横に織り上げる短篇集。

帯にもあるとおり、「マンガ大賞 2026」大賞、『ダ・ヴィンチ』 BOOK OF THE YEAR 2025 コミック部門 第1位、『このマンガがすごい! 2026』 オトコ編 第1位と破竹の各賞受賞、書店店頭でも各巻平積みのベストセラーとなった。

二つのことを書きたい。

一つは、素直に、良い本である、と言うこと。

古書店「十月堂」に立ち寄る若者、あるいは老人たちをめぐる物語はあるいはスタイリッシュに爽やか、あるいはモノトーンに絶望的で、本好きはもちろん、そうでない人にも本当に、ぜひとも読んでほしい。

もう一つは、この、紙の本が絶滅に瀕しつつあるこの時代に古書店を舞台とする、そのことによる閉塞感だ。

古書店で扱われる本は(言うまでもなく)古書であり、いかに循環されたとてやがて読み手とともに古びていくのが世の摂理である。さらに1巻ですでにたびたび描かれているように古書の多くは破棄されるのがことわりだ。
上流に新刊を吐き出す版元、取次、書店がなければいずれ収束していくしかない。

実は、新刊書店を舞台とする『店長がバカすぎて』についても、展開の面白さ/つまらなさとは別の尺として近年の書店の実情が描かれない疑念があった。この本が好き、この作家が、と本ばかりを話題にして、作中で6年が経過してもその業界全体のサビレが描かれない無頓着さ。

そして、『店長がバカすぎて』や『本なら売るほど』のように紙の本の界隈を描く作品が売れれば売れるほど、紙の本はシッポを呑み込むヘビのように書き手と売り手と読み手が同じ円の中に縮こまっていく。

2026/05/07

Grace! 『立ち飲みご令嬢』(現在7巻まで) 松本明澄 / 講談社 モーニングKC

Photo_20260507165601 ミシュラン店オーナーを父に持つ美食家令嬢・神乃美子。
料理界で〝氷の味覚女王〟と恐れられる美子が時間や社会に囚われず、立ち飲みグルメに魅了され、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼女は自分勝手になり、「自由」になる。誰にも邪魔されず、気を遣わず酒を飲み、ものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の「癒し」、と言えるのである──。

と、途中からどこかの番組のオープニングみたいになってしまったが、要はライトでコミカルな食マンガ、どの巻のどこから読んでもお気楽極楽、あはーん、くつろぐ。エアーコンディショニング。

・・・それが、最新の第7巻において、少しだけ様子が変わってきた。
ほんの2冊前、第5巻では

  未だに
  立ち飲み屋における
  暗黙の了解やノリに
  馴染めない・・・

とシュンとする美子が描かれていたというのに、最新巻では酒に記憶を飛ばし、手羽先にかぶり付き、炙りスルメを咥え、〆のラーメンを楽しむ。

いや、そういった所業のいちいちはこれまでにも描かれてはきた。
しかし、ここにきて美子の立ち姿、雰囲気が大人っぽく、アングルが豊かで、ことに上下二段、2コマのオチの「間」がとてもいい。

化けたな。

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(付記)
「化けた」と言っておきながら逆のことを書くが、マンガの連載作品では一般にストーリーやギャグの枠を広げるため回を重ねるにつれてサブキャラを増やしていきがちだ。
ところが、驚いたことにこの『立ち飲みご令嬢』では、飲み仲間のりんごちゃんや小鳥葉拓実、幼馴染の料里鉄人、神乃家のメイド静、(のちに常連となる)立ち飲み屋の店員ヒロ、さらに人物だけでなく、美子の決めゼリフ?の「ごきげん酔う!」「乾杯あそばせ」まで、全員、すべて、第1巻からきちんと描かれているのだ。これは稀有なことかと思う。またそれが本作が7巻まできても内容が妙に拡散してバタつかない理由かと思う。

2026/04/06

『あらあらかしこ(3)』『ねこの夢ひとの夢』『鸚鵡』 波津彬子 / 小学館

3_20260406190401 波津彬子(祝画業45周年!)の作品は書棚に並び置けばそれなりにたくさん出ているのだが、週刊誌の連載マンガのようにパンパン連発で書店に並ぶわけではない。

論より証拠、一番人気(おそらく)の『雨柳堂夢咄』など、2021年の2月に其ノ十八が出て以来5年待っても其ノ十九が出ない。

それが、どうしたことか、この2月、4月には
  『あらあらかしこ』の第3巻
  『ねこの夢ひとの夢』
  『鸚鵡』
の3冊が息継ぐ間もなく発売されて、書庫はすっかりあやかしと猫の気配で和の色尽くしだ。

実は、よくわからず読んでいるのではないかという疾しさはある。
ただ椿の一輪差しをするのに
  開く前のを
  切らんならんよ
  葉は五枚ね
       (『異国の花守』)
とかいった大切な言葉をあるいは素通りしているやもしれぬ。

それでも、波津彬子を読むのは楽しい。
『あらあらかしこ』なら、謎の女性から届く不思議な手紙、それを首を傾げながら書き起こす朴訥書生の深山杏之介。それを随筆にまとめ上げる小説家・高村紫汞、それをマンガに仕立てる波津彬子。
あやかしのリンクがメビウスの輪のように結ぼれて、これは穏やかなれど波津彬子の密かな代表作とすべきかもしれぬ。

機知の掬うほろ苦さと静かな切なさに溢れた短編集『ねこの夢ひとの夢』『鸚鵡』は言うにおよばず、桜は雨に散りぬるを。

2026/04/02

『夜鷹ふたたび』(第1巻) イズミダフユキ / 講談社 モーニングKC

1_20260402185901 伝説の殺し屋“夜鷹”が業界から姿を消して8年。
現在、“それ”は現役当時より18キロ増えたズブズブのヤニカス・酒カス・家賃滞納のクズニートと化していた。

というわけで待望の単行本第1巻! 嬉しい!
ちなみに1冊の8割がたはクズ。クソ。カス。
それが、いざ


  (得も言われぬ惨劇)



こーはいくんも“しごでき”の篠田さんも公安の高田さんもみんないい味出してスキがない。
ダラなのは“夜鷹”だけ。

単行本がやっと出た! ところで続刊がヤニに手が出そうなほど待ち遠しい。
そんなクズ、もとい、マンガはそうはない。
さあ、“業界”と一緒に僕だち読者も“夜鷹”狩りだ。うぷ。



『見える子ちゃん』(14巻) 泉 朝樹 / KADOKAWA メディアファクトリー

14_20260402190501 これでもかこれでもかと説明されない「不穏」ばかりを練り固めたここしばらくのお話に比べて、『見える子ちゃん』14巻は(くどいようだけど比較すれば)明るくて楽しい。
頼りになる黒服のおともに守られて登校。ゴキブリのお化けも平気。
父母のなれそめ、屋上のタコさんウィンナー。
家族で動物園、カバ、カバモドキ、雄ライオンにまたがるアオヤマさん。

とりま、どの場面もバケモノだらけ。

ところでカラー表紙の四谷みこ(それとも八雲透子?)の眸は遠くを見て、いつもすてきすてき。
今巻ならカラー口絵。

2026/02/12

『新九郎、奔る!(22)』 ゆうきまさみ / 小学館 ビッグスピリッツコミックススペシャル

22_20260212180201 本日発売、ホヤホヤのホクホク。

ここ数巻、将軍家の跡目争いに多くページが費やされ、作品としてはやや「らしさ」に欠けるところがあった。本巻は久しぶりに「新九郎ならでは」が全開、オーバードライブ。

なにしろ鎌倉公方堀越茶々丸討伐に向けての、「公」と「私」にわたる密儀、策謀、また謀議。
立憲民主党には新九郎がいなかったのだねー、ほーほほ。

龍王がページをまたいで思いを語る語る! のちの今川氏親の成長を頼もしく感じるとともに、足利義政のあの存在感、そしてそれが作品から消えることが室町幕府の凋落を見事に表していて、返すがえすも凄い。などなど。

2025/07/03

『ヒジヤマさん 星の音 森のうた こうの史代短篇集』 こうの史代 / コアミックス ゼノンコミックス DX

Image1_20250703161801 巻頭、「小さな恋のうた」で若い男女のすれ違いを淡々と、苛烈に描き、
続く「星のふる里」でも同じ味わい、いやある意味もっと残酷なと思わせておいて・・・最後のページで仰天。呵呵大笑。
続く「おでんせ大観音!」でもその快笑が続いてハンドルはその方面へと思いきや
「リーゼと原子の森」で核分裂を発見した女性科学者リーゼ・マイトナーをことさらに静かに、静かに描く。

こうの史代の代表作は映画化もされた『この世界の片隅に』かな、と思うが、それに先立って久しぶりに被曝という言葉で頬を打った「夕凪の街」がたった30ページだったことを針は示す。

天才の孤独は雲雀のように高い。そのさえずりもまた雲雀のように高い。

2025/06/10

おやすみセニョリタ 『ROCA コンプリート』 いしいひさいち / 徳間書店

説明のつかない本というものが、ときどき、ある。
それは頭の上から(物理的に)降ってきたり、曲がり角を折れたところで(化学的に)突き刺さってきたりする。
説明など、ない。
ほかの言葉に置換できるようなら、そんなものは作品ではない。

Roca_20250609184101 『ROCA』の話だった。

『ROCA』は、吉川ロカという一人の女子高生が、(ポルトガルの国民歌謡たる)「ファド」の歌い手となる、その過程を描く一連の(主に)4コママンガである。

背景を記すなら、朝日新聞掲載のいしいひさいち『ののちゃん』のサブキャラとして登場した吉川ロカと柴島美乃のからみ(当初はギャグ色が強かった)がのちに自費出版版『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』にまとめられ、それに続編『花の雨が降る ROCAエピソード集』、『金色に光る海 ROCA短篇集』、さらに描き下ろしを加えて1冊にまとめられ、一般書籍化として徳間から発売されたものが今回の『ROCA コンプリート』である。

個人的な感想は『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』、あるいは『ののちゃん全集』の折々の書評に置いてきたのでここでは繰り返さない。
今回ちょっと思いついたことは、『ROCA』の物語は、その4コマの側から溢れてくるものではなく、読み手側から作品に流れ込んでいくものだということだ。
僕たちはいしいひさいちの描く吉川ロカと柴島美乃に笑いや感動を与えられるのではない。ただ、読み手が2人を寿ぎ、読み手が2人を慈しむ。
それが、すべてだ。

さて、ようやく1冊にまとまり普通の書店で手に入るようになった『ROCA』だが、その内容に(まことに身勝手極まりない)難点を指摘するとしたら次のことだ。

本書はいしいひさいちの作品から吉川ロカと柴島美乃の登場するものを切り抜き、再配置したものである・・・がゆえに、この1冊のみを読んだ場合、それが、『ののちゃん』の山田家の町を舞台にした物語であるという実感が持てない。
山田家の町でかつて連絡船の海難事故が起こり、両親を亡くした2人の少女が出会い、その一人の励まし(?)を得てもう一人がファドの歌手として育っていく。
ただの話ではない。これは、いしいひさいちの手で何十年にもわたり何千話も書かれたその山田家の物語と地つなぎだからリアリティがあるのである。そうでないとこの1冊の中に収められた4度のラストシーンを両手に掴めない。片手ではこぼれてしまう。

だから、こうして「コンプリート」された『ROCA』の物語になんらかの感銘を受けたという方がおられるなら、どうか『ののちゃん』の全集本から自費出版版まで手間をかけ、最初から物語をたどっていただけたら、と思う。
これはその労力に足る、貴重で豊かな物語なのだと思う。

2025/04/04

短評 『片田舎のおっさん、剣聖になる(7)』 乍藤和樹 / 秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス

Photo_20250404185001 剣と魔法の世界はどちらかといえば少し苦手で、この作品(コミックス)も1巻から読んではきたものの、なんとなく信用しきれないところがあった。←無礼
ところが、ここ数巻、なかなかに面白い。←なにゆえの上から目線

1つ前の第6巻では、本当なら主人公ベリル・ガーデナントと強敵シュプール・アイレンテールの決戦、さらにそこに回想として挿入されたシュプールとラフィのドラマが本来の読ませどころだったのだろうが、いざ読んでしまうとサブキャラ(それも序列にしておそらく4番より下の)クルニが戦闘の中で「剣に魅入られた」剣士と化して「あっち側」へすたすた走り去る、そのコマが意表をついて美しく、尊い。←もしやのクルニファン

新刊第7巻では悪玉サルレオネ司教は捉えられ、ベリルがミュイの後見人となることになって最初の数十ページで「宵闇」事件はいちおうの決着となる。
いわば大きなストーリーとしてはダレ場にあたるわけだが、その中にも剣と魔法の微妙な関係、新しい登場人物の紹介など含めて静かな不穏とでもいうか、奇妙な緊張感が保たれる。
とても、よい感じだ。←後日罰金

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なお、本書のタイトルはフルフルでは以下のとおり。

『片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』
原作 佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ(SQEXノベル/スクウェア・エニックス刊) 漫画 乍藤和樹

異世界転生モノや溺愛モノにはこうした長いタイトルの作品が多いが、想像するに、ネットの小説サイトなどで発表されるこれらの作品では、短く抽象的なタイトルでは読み手を掴むのが難しいのかもしれない。←そのスジの方々に詳細乞う、委細面談

短評 『新九郎、奔る!(19)』 ゆうきまさみ / 小学館 ビッグスピリッツコミックススペシャル

Photo_20250404170901 伊豆の堀越公方・足利政知の息子、茶々丸が蜂起し、一方、新九郎はついに荏原の所領を手放すことに・・・!

と『新九郎、奔る!』第19巻をまるめたところで、いったいどれほどの方が「ではこの巻買って読んでみよう」となるだろう。その面白さに気がついてくれるだろう。
このへんが描き込みの深いゆうきまさみ作品のつらいところだ。

だが。さあさあお立ち合い、御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで。この19巻とここから始まる一連、これこそが北条早雲が最初の戦国大名となる誉の第一歩。

なにしろ19巻めにしてようやく第1巻巻頭の

  室町殿奉公衆
  伊勢新九郎盛時
  三十八歳!

  主命により
  足利茶々丸様の
  御首頂戴に
  参上仕った!!

へのつながりが見えてきたのである。やーれやれ。

「光る君へ」も「べらぼう」もそれなりには面白いがいささか戦に飢えさうらふつはものはここへならへ。
いざ1巻より読み返すべし、嵐山には落花吹雪の舞。

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