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カテゴリー「コミック(作品)」の418件の記事

2017/10/30

『BOX ~箱の中に何かいる~(3)』 諸星大二郎 / 講談社 モーニングKC

Box一方に日常的なリアリティに立脚するエッセイマンガがあるなら、昔ながらの荒唐無稽な絵空事に終始するマンガもある。
諸星大二郎の『BOX』はその「荒唐無稽」をさらに斜めに突き抜け、パズル空間を舞台とし、形而上学的(メタフィジカル)な域に達した作品である──とかなんとか評したって、別に何を言い表せているわけでもないんだけど。

ともかく、登場人物たちが招き寄せられるように入り込んだ「箱」の中では、各自に与えられたパズルを解かないと先に進めない。進む先には怪しい魔少女や箱を模した罠、グネグネしたクリーチャーが待ち構え、混乱の中に一人、また一人と脱落していく。
とあらすじを書いてみると『そして誰もいなくなった』パターンや『ポセイドン・アドベンチャー』パターンが思い起こされるが、完結編にあたるこの第3巻では、、、

ざっくり印象をまとめると、同じ作者の『暗黒神話』や『マッドメン』ほど重くなく、初期のギャグみたいにはすべらない。しいて言えば『栞と紙魚子』シリーズに近い気もするが、短編集ではなく、事前に多数の伏線を張り、それらをきちんと回収し、さらにさまざまなオリジナルパズルをストーリーの要所要所にはめ込んだ長編なのだから実はかなりの力ワザである。

登場人物たちは「箱」の外では意外なほど現代的、日常的で、また、いかにも破滅しそうな人物を除けば案外皆無事に最後のページに至る。こうしてみると、この作者にしては珍しい「コメディ」と言えるのかもしれない。

コレカラ読ム方ハ、登場人物タチノ数ト名前ニ留意シテオ楽シミクダサイ。

2017/10/29

『リアル風俗嬢日記 ~彼氏の命令でヘルス始めました~』 Ω子 / 竹書房 バンブーエッセイコレクション

Photo本ブログでも何度か、昔はマンガといえば荒唐無稽の代名詞のような扱いを受けてきた、ということについて触れてきた。実際、作者自身が「でたらめ」と語るほど、自由な想像力に基づいて描かれ、それが魅力となっている作品も少なくなかった。
面白く思うのは、書き手の問題か、読み手の問題かは知らないが、いつの間にかマンガは現代の社会、若者を描く、何よりリアルなツールとなってしまった、ということである。

そのあらわれの1つがいわゆるエッセイコミックの台頭で、今回取り上げる『リアル風俗嬢日記』においても、いかにもマンガなコマや線や効果(集中線や汗、怒りのマーク)によってヘルス嬢の日常が生々しく描かれている。風俗嬢の日常に興味がある、ないにかかわらず、お薦めしたい。
(マンガ配信サイト「めちゃコミック」の広告で再三面白そうなサンプル画面を見せつけられ、冊子発売と同時に購入してしまったが、正解だった。)

たとえば入店時の面接、Webでの新人紹介用の写真撮影、忙しい日の対応グッズ、性病検査や治療、といったヘルス嬢の日常の確かなリアリティ。とくに本番を求める顧客に対し、無表情、ないし笑顔をもって相手への不快、怒りを描くコマの数々はテクニカルでさえある。

本番といえば、作中何度も描かれる「素股」というテクニックは、吉行淳之介の『夕暮まで』が契機となり、桃井かおり主演の映画も作られ、あげくに「夕ぐれ族」なる愛人バンク(売春斡旋組織)が世間を騒がすなど一種社会現象となったものだが、吉行の小説では心理描写中心で抽象的だったその「素股」がさらりと身体的プレイとして描かれ、その描写力には過不足がない。

ポイントは、上記のようなリアリティが、一人の働く女性の日常をタイトに描くために用いられていることだ。
「風俗嬢」云々というとどうしても劣情をそそる(笑)読み物か、逆に女性の社会的地位がどうたらとの観点(つまり上から目線だが)で語ろうとする、そのいずれかを想起されるかもしれない(さすがに今どきはもうそうでもないか?)。
しかし、本書は極めて生々しい用語や描写を連発しながら、決してそのいずれにも加味しない。親や友人にあまり大っぴらには言えない職業ではあるが、ギャグやエロシーンをもって、当人なりのプロ意識をもって客を喜ばせる、プロによる仕事の日々を訥々と描き続けるのだ。

この豊かさを文章のみで実現できるかどうか……それはかなり難しいのではないだろうか。

2017/10/19

『好奇心は女子高生を殺す(1)』 高橋聖一 / 小学館 サンデーうぇぶりSSC

Photo描かれた1コマを見ただけで作者が特定できる、高橋聖一の新刊。

もともとはサンデーうぇぶりというサイトで配信中のコミック作品なのだが、紙でじっくり読みたいので単行本を購入した(こんな感傷はもう昭和人だけのものかもしれない)。

ストーリーは高校入学初日の放課後に知り合った(呑気で能天気だが行動的な)柚子原みかんと(優秀だが慎重に過ぎてコミュ力不足な)青紫あかね子がさまざまな不思議体験を通して友情を深めていく、というもの。
「友情を深めて」などと書いたら「いたたたたたっ」と北斗八悶九断が炸裂しそうだが、そこは読めばきっとわかる。
各編、ギャグに落としているように見えて、骨組みはきちんとSF。いや、異星人やタイムリープが出てくるからSF、というわけではない。試みがSpeculative Fiction、ということだ。
しかも全編通しての味わいは懐かしいみかん色、茜色。
きっとここが世界の始まり」なのである。

2017/07/28

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(9)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

Photo優秀だが偏屈、漫画の主人公としてはいささかサービス精神に欠ける病理専門医、岸京一郎とその周辺を描く本作。

およそプロらしからぬ、リアリティのないコンサルによる「窪田プラン」とやらが破綻して、主人公たちが本来の病理の仕事に戻った第9巻は生きて本を読めることがこんなに素晴らしいことなのか、と空に向かいて「The Wall」全曲を通しで歌い上げたいほどによい出来である。

収録3作の内訳は、わからない、見えない、敗北と屈辱の話。
続いて、診断も治療もできぬままに友を死なせる話。
そして10歳の末期癌の話。

おーい、全国のポリクリ医学生ども、気分転換するなら「ドクターG」見て、それからこの本読みなさい。
腹の底から震えなさい。覚悟を決めなさい。

2017/06/30

〔短評〕 『僕が私になるために』 平沢ゆうな / 講談社 モーニングKC

Photo_5【トゥデ~イ イ~~ズ……  オペレ~~~ ~~ショーン!!】

この「くるくる回転図書館」をときどきでも覗いていただいている方には、烏丸がことジェンダーや性同一性障害(GID)について疎い、語る言葉を持たないことにお気づきかと思う。要は凡庸で想像力に乏しいのである。

元男性の作者がタイで性別適合手術(SRS)、早い話が男性器を切除する過程をユーモラスかつ具体的に描いた本作は、昨年の春、モーニング誌上でリアルタイムに読み、その後すぐ発売された単行本も手に入れていつか取り上げようと思いつつ、どう書くか見当のつかないまま今に至った。
正直にいえば作者(=主人公)の悩みは理解の外にある。だが、作者が一個の人間として己と対峙し、先の道すじを明らかにするために歩みを進めたことはわかった。さらにおそらくは想像を絶する本人の苦しみや周囲の冷たい目線、病院通いや裁判所での手続きへの葛藤があったであろうにもかかわらず、タイでの手術の過程を愉快に描くことに焦点をしぼり、その前後はさらりとかわした(描いていないわけではない!)ところに、作家としての力量を感じた。

単行本は発行部数が少ないのか書店店頭ですぐ見かけなくなったし、性同一性障害を扱った書物の中でどういった位置にあるのかよくわからない。
それでも、作者のナイーブな内省、術後の痛みあれこれ、底抜けに明るいタイのナースたちの描写を楽しむだけでも価値はある。一人でも多くの方にお奨めする次第。

2017/05/29

窓越しに遊ぼう(←編集GJ!) 『まどからマドカちゃん(1)』 福田泰宏 / 講談社 モーニングKC

Photo出版不況化に濫発されるマンガ単行本の消耗がー、といったあたりから書き始めたのだけど、どんどん作品から乖離してしまったので没。
シンプルにいこう。

元総理大臣みたいな名前の作者による『まどからマドカちゃん』はかわいい。面白い。売れるんじゃないかな。売れてほしい。

サラリーマンの小田君(やや社畜)は、会社に急ぐ道すがら、その路地に面したアパートに住むマドカちゃんと知り合う。
このマドカちゃん、突然窓を開けて寿司屋になったり、射的屋になったり、丁半博打の賭場を開いたり、病院開いたり、あれやこれやで小田君を翻弄する。今日はまさかの……。

マドカちゃんの側はセリフ(吹き出し)なし、その意図は表情とファッションと小田君の

  ちょっと待って! え? 寿司!?

  「何握りやしょう!!」みたいな顔しなくていいから!

などのセリフで説明されるのみ。そもそもタバコをくわえたり缶ビールをすすることはあっても、マドカちゃんの口や鼻は一切描かれない。

ちなみに小田君がとことん鈍いので気がつきにくいが、実はマドカちゃんはときどきエロなのでお子様には目の毒、お一人身様には気の毒だ。


(6月4日追記)
なんとなくタイトルに既視感があると思っていたら、『波打際のむろみさん』(名島啓二)という作品がありました。文字にしてしまうと別に似てもいないか。
釣りが趣味の少年が防波堤で人魚を釣り上げてもあまり動じない、可愛い顔をしたヒロインの人魚がゴカイやミミズを食べたがるなど、甘々とラブロマンスに走らないところが魅力的でした。

2017/05/01

だんだん浄らかになる 『美しの首』 近藤ようこ / エンターブレイン ビームコミックス

Photo夢十夜』紹介の際に「近藤ようこの描くものは、原作原案などなくとも」と風呂敷を広げた手前、解き放たれた近藤ようこの魅力を示す何かよいものをと思ったが、彼女の単行本は残念なことにその多くが品切れ、絶版で手に入らない。
そこで、新装刊されて比較的手に入りやすい『美(いつく)しの首』から、中編「安壽と厨子王」を取り上げることにした。

「安壽と厨子王」は中世説教節の一つ、森鴎外の小説『山椒大夫』や子供向け絵本でも知られている。

近藤ようこは原作の健気な弟、厨子王を、高貴な血筋と偽って裕福な貴族(梅津院)に寄宿する美少年に仕立て、彼がかつての主人、山椒大夫を陥れ、山椒大夫のもとを出奔する際に見捨ててむごく死にいたらしめた姉、安壽の怨霊の誘惑に溺れ、あげく梅津院やその妹、出戻りの醜女、朝日姫を死に至らしめ、金と権力を得て阿弥陀像の前でうそぶくまでを一気呵成に描き上げる。
姉の怨霊との冷たい肌の契り、稲生物怪録を思わせる化け物の俯瞰描写など、その筆は軽妙自在、赤塚不二夫のギャグに近い白い画面が、艶めかしく個人の存在の空恐ろしさを伝える。

厨子王は情けない小悪人なのだが、跳梁跋扈、悪に走るほどに仏に近づき、反省を捨てるほどに浄化されて最後には空しく透明な存在と化す。
大袈裟にいえばニーチェやドストエフスキーの超人である。だが、そんな小難しい理屈に囚われる必要はない。読み手は安壽と厨子王の運命に寄り添い、絶叫マシンのごとく時の流れの中を共に疾走すればよいのだ。

これで百頁、どうです先生、読みたくなつたでせう?

2017/04/21

『カメントツのルポ漫画地獄』『カメントツの漫画ならず道(1)』 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

Photo石灯籠の影に幽かな気配がある。
「(殿、お呼びにございますか)」
池の鯉にエサを投げながら、
「む。半蔵か。ほかでもない、出版不況、とくに紙媒体の危機が叫ばれて久しいの」
いつの間にか石灯籠の反対側に姿を現し、平伏する半蔵。
「御意。かつてなら駕籠に乗ってスポーツ紙、マンガ週刊誌、文庫本を手にせぬ者はおりませんでした。近頃は老いも若きもスマホ、スマホ」
「む、あれは便利ぢゃ。合戦の日付を秀ちゃん光っちゃんとLINEで相談したり、陣の取り方をググったり」
「とは申せ、『ワンピース』『進撃の巨人』、村上春樹、少し前でしたらハリー・ポッターの平積みを見れば、紙の本のニーズが全くなくなったとも思えませぬ。版元が最善の努力、工夫を重ねているかと申せば、いささか」
「うむ、ひとたび勝鬨をあげるとなかなかほかに足は踏み出せぬものぢゃ。誰もがデヴィッド・ボウイ、孫正義になれるわけではあるまい」
「紙媒体が沈みますと、マンガ家として禄をはむのもこれがかつて以上に難しい。雑誌数は増え、ある程度連載がたまると単行本にはなりますから、デビューの機会はある。問題はその後」
懐から巻物を二巻取り出して半蔵に示す。
「このカメントツなる新人作家、半蔵はどう見る」
「は。もともと、ネット上でマンガを発表し、1000万PVとたいそう話題になったかぶき者。ある会社の社員寮に現れる“オレンジのお姉さん”と呼ばれる霊を扱った作品など、Twitterでその都度読んでおりましたが、小学館から単行本デビューするにいたるとは予想もしませなんだ」
「この丸いのは本人か」
「御意。写真が必要な折はフルフェイスの仮面を被って現れるので、仮面で突撃、ということからカメントツと名乗り」
聞きながら座敷に上がる。上座にどすりと座り、脇息に肘を乗せる。
「ほう、それでカメントツ」
オモコロなるマンガサイトの要望に応じて催眠セラピー、自己啓発セミナー、腸内洗浄、断食道場などかなりきわどいルポマンガに手を染め、その人気連載をまとめたものが『ルポ漫画地獄』、さらにそれが評価され、ゲッサンに掲載されたマンガ家インタビュー集が『漫画ならず道』」
「あだち充、青山剛昌、西原理恵子など、なかなか名城に凸り、かぶいておるではないか」
「そのあたりのつなぎはさすが小学館。またカメントツ自身、へりくだりつつインハイ高めな質問を繰り出しており、いずれもハードコアな読み応え」
「うむ、絵柄にクセがあるので見まがうところもあろうが、まず、しっかり常識をわかったうえで描いておるの。今日び、なかなかできぬことぢゃ。親御さんの躾が目に見えるようぢゃの」
「躾、でございますか」
「うむ、マナーであるとか、そういうことではなく、大切なものを大切に扱う、その姿勢とでもいおうか」
「その直球なストレートに、上杉和也は最初から殺すつもりだった、『タッチ』のタイトルは“バトンタッチ”の“タッチ”との名回答が得られたわけで、これにはネットが沸き申した」
「うむ、わしも思わず脇息から転げ落ちたわい」
「作品を宣伝するためにマンガ家本人がネットにブログを書いたりtweetしたり、ということは従来もございましたが、カメントツはそもそもネット上で可能な限り手を伸ばした結果、マンガ家となり、小学館から単行本発行にいたった。これは今後のマンガ家の在り方の一つを示唆しているようにも思われます」
「ふむ。領地の地図が変わるかも知れぬの、地図が」
「しばし手の者を配し、様子をうかがいたく存じますが」
「許す」
揺れる行燈の火。半蔵の気配はすでにない。

2017/04/18

『夢十夜』 原作 夏目漱石、漫画 近藤ようこ / 岩波書店

Photo岩波書店について、少し前に

校閲部門のほうが編集部門より発言力が強く、古典には圧倒的に強いが新規な企画、製作の動きは重い

と書いた。
驚くなかれ、近藤ようこの新刊『夢十夜』は、その岩波書店発行である。
岩波がマンガ! という言い方もできようし、なんだやっぱり岩波、マンガを出すにも漱石か、との見方もできる。

作品そのものは文芸作品をマンガ化した作品としてたいへん素晴らしい出来で、漱石の、あの、業の深い、あるいは頓狂な掌編集を違和感なく描き上げ、原文の一部を過不足なく配置し、しかも一つひとつのコマにあるのはあくまで近藤ようこの朴訥かつ妖しいペン遣いである。
二度三度読み返すと、もう百年百合や背負った盲目の子供やパナマ帽は大昔からこうであったようにしか思われない。

我儘を書いておこう。
近年(一連の坂口安吾作品のマンガ化以来)、近藤ようこの新作はこの『夢十夜』しかり、『死者の書』『五色の舟』しかり、誰か別に原作者をもつものが少なくない。いずれも高い水準にあると体の半分は認めるのだが、それでも同じ近藤ようこを読むならストーリーから台詞からすべて彼女の手になる作品を読みたい。
近藤ようこの描くものは、原作原案などなくとも、安吾や折口や漱石に劣らず十二分に親しく怖ろしいのだから。

2017/04/17

『レインマン 04』 星野之宣 / 小学館 ビッグコミックススペシャル

Photo高額所得者向けマンガ、『レインマン』の新刊。

主人公雨宮瀑(タキ)の頭蓋の中には脳がない。
突然現れ、ビルから飛び降りて死んでしまう瀑の双子の兄、漣(レン)。
どうやら主人公は天候や人物の存在を自在に操れるらしい……。

さすがにこれはオカルトの領域だろう、いかに星野御大といえ、こんな大風呂敷を折りたたむことができるのか? と心配していたが(実際、2巻、3巻とさらに暴走気味だっただけに)、この4巻にいたり、秀吉、ノア、ナポレオン、それにサヴァン症まで持ち出して「レインマン」の謎が一気に解明される。なるほど、さすがは剛腕星野、うっかり説得されてしまいそうだ。
CG動画を2次元のコマに描いてみせたような事実の改変アクションも凄まじい(大学の建物と癒着した大木の存在感!)。

ただ、双子の兄弟の対立が実は個人的、感情的なものから始まっていた、など、設定や映像が壮大なわりに一つひとつのアクションのきっかけは案外矮小なのが気になる。
並行世界をジャンプすることで世界を変えるほどの力があるなら、狭い一つ世界でにらみ合ってないでてんでに好きなジャンプ先で好きなことをすればよいだろうに──。

いや、それではエンタメにならないので、と対決モードやお邪魔な登場人物にこだわってしまう生真面目さがこの作者の魅力でもあり、また限界でもあろうか。

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