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カテゴリー「コミック(作品)」の426件の記事

2018/04/04

漆黒 『蟇の血』 近藤ようこ、『フラジャイル(11)』 恵 三朗

黒いマンガを、2冊。

Photo『蟇の血』 近藤ようこ、原作 田中貢太郎 / KADOKAWA BEAM COMIX

田中貢太郎による原作は創元推理文庫『日本怪奇小説傑作集』の第1巻に収録されている。そのままでも十分気色悪いが、転がるような展開の中に読み手の想像力に委ねる部位がまだ微かに残され、どこかしらファンタジーの気配があった。
近藤ようこはその原作に忠実にストーリーを展開しながら、妖異を描くことに容赦がない。
追い詰められる悪夢のようであり、また悪い夢では片付かない絶望感。
この十年、二十年に読んだマンガの中でも図抜けて気持ちが悪い。怖い。

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(11)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

容赦ないといえば『フラジャイル』の新刊も凄い。
かつて新薬の開発をめぐって主人公と対立した元・製薬会社の幹部を主人公に、医薬界のダークサイドを描く。
描かれる「黒」は、色の三原色を混ぜ合わせることでできる濁った黒ではない。漆のような、まごうことなき「黒」であり、それはもはや敵味方、善悪などという生ぬるい評価とは途絶したところで読み手を魅了する。
スピンオフという扱いらしいが、ある意味、(子供の病気を扱った一つ前の巻などよりよほど)このシリーズを代表する1冊かと思う。

Photo_3

2018/03/29

『ふるぎぬや紋様帳<三>』 波津彬子 / 小学館 フラワーコミックススペシャル

3この作者らしい」と一定の興趣は感じつつ「こんなものだろうか」と流す印象だったものが、この三巻にいたって俄然心に染みた。
一巻、二巻とことさら何が違うわけでもないのに、あやかしの「ふるぎぬや」をめぐるそれぞれの登場人物、その関係性が、澱のように降り積もって効果を放つ。

思い起こせば波津彬子の最近のシリーズ作、『女神さまと私』や『レディシノワズリ』は2冊で完結。この作者ならではの煮凝りが融けて動き出す前に終わってしまった印象だった。
もとより短篇連作の人ではあるが、その描かれる素材が骨董や和装、古い館であるだけに、ただモノがそこにあるだけでなく、誰に、いつから、どのように、といった積み重なるものがあって初めてお話が整うのか、などとも思う。

いつからかすっかり慣れてしまったが、奇妙な絵柄ではある。
表紙の「ふるぎぬや」主人の顔ひとつ見ても、掌で左右の半分、上下の半分をそれぞれ隠してみると、どこを見ているのか、哀しんでいるのか笑みを浮かべているのか、さっぱりわからない。ところが全体を見るとこれはこういうもの、と綺麗に納まってしまう。
ウェットなストーリーに全編にギャグが溢れることも含め、金沢の生んだ不思議な作家の一人である。

2018/03/17

相転移する 『二匹目の金魚』 panpanya / 白泉社

Photo足摺り水族館』など、寡作ながら特異性では異彩を放つpanpanyaの新刊。

作者の作風は有り体に言えば「幻想的」、である。
ただ、世間一般の「幻想的」作品の多くでは、確か、と思われた日常がだんだんあやふや、曖昧になってしまう、化学でいうところの「融解」、「昇華」、すなわち

  固体 → 液体

  固体 → 気体

の相転移が描かれる(それも

  固体 → 液体 → 気体

でなく、いきなり気体になってしまうほうが概してより衝撃は大きい)。
などと思わせぶりなことを書いたが、これは今日初めて書いたことであって別に確信があるわけでもない。

それはともかくpanpanyaの短篇ではむしろ語り手の曖昧な記憶や思い込みが

  気体 → 固体

に、これも「昇華」というのだが(「凝華」とも)、そのような方向にそって描かれることが多い。

したがって、各作品のページ内では防災無線のメロディやかくれんぼや神社のお守りや一方通行の交通標識など、日頃ごく当たり前に思われていたものがだんだん明確な、ただし、日常それらがそう思われているものとは微妙に違う何ものかに「昇華(凝華)」していく。

結果として語り手が得るお守りや二匹目の金魚は、実はお守りや金魚ではない。かもしれない。

※その過程において、曖昧さはむしろ嫌われる。
と注釈じみたことを付記したところで、もちろんこちらもそれほど意味はない。

こういった相転移によるためだろうか、panpanyaのそれぞれの短篇はいつもどこかほんの少ししょっぱい。

そんなことを考えた。
もう取り返しがつかない。

〔短評〕 『こぐまのケーキ屋さん』 カメントツ / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

PhotoTwitter上で発表されてきた同タイトルの4コママンガを急遽1冊にまとたもの。

作者については、以前、『カメントツのルポ漫画地獄』『カメントツの漫画ならず道(1)』というわりあいブラックかつキワモノテイストな2冊を紹介した際、「大切なものを大切に扱う」と評させていただいたが、その読みが決して間違っていなかったように思われて嬉しい。
本書は、いわばその「大切なもの」だけを丁寧に抽出して綴じ合わせた、そんな小さな宝物。

収録作のボリューム(大半がTwitterで既出)や価格が気になる方もいるだろうが、装丁、印刷、紙質まで含め、繰り返し読まれる「絵本」と考えれば文句はない。

できれば──自分の子供たちがもっと小さなうちに、この本を一緒に読めればよかったな。

2018/02/27

〔短評〕 『乙嫁語り』(10巻) 森 薫、『ふしぎの国のバード』(4巻) 佐々大河 / KADOKAWA HARTA COMIX

Photo異国情緒溢れる(とはいえ後者は明治期の日本が舞台なのだが)『乙嫁語り』、『ふしぎの国のバード』の、それぞれ新刊。

『乙嫁語り』第10巻の前半は、アミルの夫たるカルルクが強さ、男らしさを身につけるためにアミルの兄アゼルたちと冬の野営地で生活し、弓やイヌワシ狩りを学ぶ話。後半は久々にイギリス人旅行家スミスに視点が戻り、砂漠の花嫁タラスと再会を果たすまで。
カルルクの一族とアゼルたちは一度はいくさを起こした仲だったはずが、アミルを介した親族どうしとはいえ、いつの間にこんな間柄になったのやら?

一方、『ふしぎの国のバード』第4巻、こちらは探検家イザベラ・バードの越後街道~山形への旅程に、かつて仕えたプラント・ハンター チャールズ・マリーズとの契約を巡る通訳 伊藤(イト)のドラマを交える。加えて英国公使夫人ファニー・パークスを主人公にしたスピンオフ一篇。

2冊とも「展開」より「いきさつ説明」色の濃い、箸休め的な内容ではあるが、通底するのは一人の人間が生きていくためにどうしても必要なプライドとか誇りのようなものだ。
カルルク、スミス、バード、伊藤らはもちろん、冷徹酷薄に描かれたマリーズでさえ、周囲からは理解しがたいプライドのためにそれぞれ状況の継続、先への前進を心がけてやまない。
その象徴として2冊ともに猛禽類の飛翔が美しく描かれる。これは偶然ではないだろう。

Photo_2・・・とはいえ、この2冊の中で本当に自在な精神のありようを示すのは、親戚の紹介でタラスと結婚した当日に「好きな人がいる」「(その人は)アンカラに向かうと聞いた」と言われて「困っちゃって」「仕方ないね」「だってかわいそうだろ?」とタラスをアンカラまで連れてくるとぼけた旦那、その人である。
少なくとも、肩に力の入りすぎたカルルク君がこのおっさんの域に達するにはまだまだ時間と経験が必要そうだ(早くしないとロシアが攻めてくるよ)。

2018/02/17

本棚にかけろ 『ビブリオ漫画文庫』 山田英生 編 / ちくま文庫

Photo「次は、えーっと、ビ、ビブリオ漫画文庫?」
「本、より狭く言うと古本屋がテーマの短篇マンガを揃えたアンソロジーですね」
「えらく堅いタイトル」
「内容も、堅いといえば堅い。水木しげる、永島慎二、つげ義春、松本零士、楳図かずお、辰巳ヨシヒロといった古豪、大家から、諸星大二郎、いしいひさいち、西岸良平、近藤ようこ、山川直人、豊田徹也ら現役中堅。加えて湊谷夢吉、つげ忠雄、うらたじゅん、南日れん、おんちみどり、Q.B.B.などちょっと変わった描き手まで」
「うう、ガロの青林堂が教科書こさえたら、みたいな?」
「なぜか山川直人が2作選ばれるなど、バラエティより編者の嗜好を優先したのでしょう。それはそれでスジが通った印象」
「久世番子『暴れん坊本屋さん』とか混じってたら、も少し突き抜けたかもしれない」
「それでも、誰が編もうが、古本屋をテーマにしたら最後、ノスタルジック、センチメンタルな昭和テイストが先に出て、友情・努力・勝利!の少年マンガや少女マンガの出番はないでしょうね」
「芥川賞選者と直木賞作家がリング上でディベートして、必殺技が決まると相手が体育館の屋根突き破って飛んでく、とかはないの?」
「ありません」
「ビブリオテカ マグナーム!!」
「(無視して)水木しげる、松本零士、辰巳ヨシヒロあたりの作品もそれぞれの作家にしてはやや凡庸で、こういったアンソロジーでなかったら選ばれたかどうか。それだけ本をテーマにしたマンガの傑作は少ないということかもしれませんが」
「そんななか、空気読まず楳図かずおのまっしぐら落っこちるキレキレ具合はさすが」
「つげ義春『古本と少女』は、貧しい学生と古本屋の少女の淡い恋を描いた佳編」
「あ、これ知ってる。昔、『紅い花』の文庫版で読んだ。懐かしー。でも、これ、“絵描きの青年が払った1500円はどうなるの?”とか“学生君が手にした1000円はどうするの?”とかが気になって気になってもう」
「諸星大二郎の作品は『栞と紙魚子』シリーズから」
「あー、あの栞ちゃんが水着で変身して悪の古本王と闘う」
「適当なウソをつかない」
「痛い痛い、本の角で叩くのは反則」
「豆腐の角で頭打って死んでください」
「あ、豊田徹也も選ばれてるのね。この人は、単行本『アンダーカレント』が面白かったから好きな作家なんだけど、はっきりしないものを追い詰めてこその作風。だから短篇集では長編ほどの手応えがない。今回の2ページも、アンソロジーに選ぶほどのものだったかねえ?」
「ど、どうしたんですか先輩。なんだかまっとうな人みたいですよ」
「ふふふ、こう見えてその正体は謎の青パンツ古本王」
「巻末の永島慎二『ある道化師の一日』は、作家の遺族の方の編んだ遺稿集(非売品)に掲載されたものだそうですよ。なんということのない6ページですが、いいですねえ。道化師の老人の、言葉を明らかにしない『・・・・・ ・・・・・』の吹き出し、永島慎二がほかの作品で使った手法ではありますが、本作ではとくに心に染みます」
「・・・・・ ・・・・・」
「先輩が同じことやっても、エロいこと考えてるとしか見えませんね」
「うう。毎度のオチなのに反論できん」

2018/02/12

『からかい上手の高木さん』(現在8巻まで) 山本崇一朗 / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

Photo書店で平積みの人気作。
正直、手に取る前は、この年になって中学生のラブコメなんてなー、とあなどっていた。
ところが、高木さんがかわいい。尋常ならざるかわいさである。時計をキリキリ巻き戻し、どこかの平行世界で高木さんの隣に座りたい。

主人公、西片君は中学1年生。隣の席の高木さんが授業中、学校の行き帰り、なにかとからかってきてはいつも負けてしまう。今日こそは! とあれこれ企むが、結局見破られて失敗に終わる。
高木さんは実は西片君が好きなのだが(ときどき正直にそれを口にすることさえある)、西片君はドキドキするものの「まさか」、そこに高木さんのクリティカルヒット。今日も二人は──。

作者はかなり頭のよい人に違いない。少なくとも次から次と小さな「勝負」を挑み、西片君をからかう高木さんと同程度には頭が働かないと、これは描けない。さらに、一歩間違えるとしつっこい「いじめ」とも捉えられかねない設定を、西片君を(ドジで女の子の気持ちには鈍感だが)負けん気の強い、気持ちの良い少年に描くことですり抜ける展開も簡単ではないだろう。

と書いて、ところで本当にすり抜けられているのか? と気になってきた。
広辞苑で「からかう」を引いてみる。
「冗談を言ったり困らせたりして、人をなぶる。じらし苦しめる。揶揄(やゆ)する。」
なぶる、じらし苦しめる。……ちょっと怖いよ、高木さん。

2017/12/19

最終巻を読む 『ベイビーステップ』(47巻) 勝木 光 / 講談社コミックス

Photo終わってしまった。
少年マガジン連載の『ベイビーステップ』である。

『ベイビーステップ』は若いテニスプレイヤーたちの成長を描いた読み応えのある作品で、このブログでも再三取り上げてきた(第9巻22巻38巻40巻41巻42巻)。

しかし、その終わり方が、解せない。

主人公がプロになり、苦闘の末ようやく臨んだ国際大会本戦、強敵との対戦中、1ゲームリードされてさあこれから!のチェンジコート、審判の「タイム!」の声で唐突に終わってしまうのである。ネット上でも「打ち切りか」とちょっとした騒ぎになったが、確かに不可思議に思われる点もあるので2、3挙げておきたい。

『ベイビーステップ』は単行本発売日の平積みの具合など見ると、同誌の他の連載作品に劣るとは思えない。打ち切りになるような作品ではないのである。最終回で巻頭カラーを飾ったことを見ても、編集部とのトラブルがあったようにも思えない。
講談社漫画賞受賞作。アニメ化、実写ドラマ化、プリンスと用具使用契約、エレッセとキャラクター使用契約、「テニスの日」のイメージキャラクターに選ばれる、協賛テニス大会が開催される、有明コロシアムの楽天オープン会場では試し読み冊子が配られる(添付画像)、など(『進撃の巨人』ほどではないが)コラボレーションの話題にもことかかない。
こんな人気作、話題作たる『ベイビーステップ』を終わらせて、それを埋めるだけの作品は用意できるのか?

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最終巻の巻末には手書き文字の
「色々事情もあり、主に私の力不足で(中略)ここまでになってしまい残念です」
「できればデ杯も描きたかったけど・・・」
という悔いをにじませたコメントがあり、今回の終わり方が発展的解消(たとえば数か月後に「第二部 グランドスラム編」開始)のためではないことが窺える。

つまるところ、危急な個人的事情、あるいは何か人間関係によるものなのか。

私見では第42巻から43巻にかけての王偉戦の精緻な描写を第一と推すが、池や難波江ら、連載開始当初からのライバルたちとの直接対決が描かれなかったのは残念。

それはともかく、連載開始以来、テニスプレイヤーの心理と戦略と訓練を1コマ1コマ丁寧に描いてくれてありがとう。マンガファンとして、またテニスファンとして、本当に楽しい10年間でした。
地味ながら、ほかのスポーツマンガではあり得ない次の1ページに、あらためて驚嘆と賛辞を込めて。
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2017/10/30

『BOX ~箱の中に何かいる~(3)』 諸星大二郎 / 講談社 モーニングKC

Box一方に日常的なリアリティに立脚するエッセイマンガがあるなら、昔ながらの荒唐無稽な絵空事に終始するマンガもある。
諸星大二郎の『BOX』はその「荒唐無稽」をさらに斜めに突き抜け、パズル空間を舞台とし、形而上学的(メタフィジカル)な域に達した作品である──とかなんとか評したって、別に何を言い表せているわけでもないんだけど。

ともかく、登場人物たちが招き寄せられるように入り込んだ「箱」の中では、各自に与えられたパズルを解かないと先に進めない。進む先には怪しい魔少女や箱を模した罠、グネグネしたクリーチャーが待ち構え、混乱の中に一人、また一人と脱落していく。
とあらすじを書いてみると『そして誰もいなくなった』パターンや『ポセイドン・アドベンチャー』パターンが思い起こされるが、完結編にあたるこの第3巻では、、、

ざっくり印象をまとめると、同じ作者の『暗黒神話』や『マッドメン』ほど重くなく、初期のギャグみたいにはすべらない。しいて言えば『栞と紙魚子』シリーズに近い気もするが、短編集ではなく、事前に多数の伏線を張り、それらをきちんと回収し、さらにさまざまなオリジナルパズルをストーリーの要所要所にはめ込んだ長編なのだから実はかなりの力ワザである。

登場人物たちは「箱」の外では意外なほど現代的、日常的で、また、いかにも破滅しそうな人物を除けば案外皆無事に最後のページに至る。こうしてみると、この作者にしては珍しい「コメディ」と言えるのかもしれない。

コレカラ読ム方ハ、登場人物タチノ数ト名前ニ留意シテオ楽シミクダサイ。

2017/10/29

『リアル風俗嬢日記 ~彼氏の命令でヘルス始めました~』 Ω子 / 竹書房 バンブーエッセイコレクション

Photo本ブログでも何度か、昔はマンガといえば荒唐無稽の代名詞のような扱いを受けてきた、ということについて触れてきた。実際、作者自身が「でたらめ」と語るほど、自由な想像力に基づいて描かれ、それが魅力となっている作品も少なくなかった。
面白く思うのは、書き手の問題か、読み手の問題かは知らないが、いつの間にかマンガは現代の社会、若者を描く、何よりリアルなツールとなってしまった、ということである。

そのあらわれの1つがいわゆるエッセイコミックの台頭で、今回取り上げる『リアル風俗嬢日記』においても、いかにもマンガなコマや線や効果(集中線や汗、怒りのマーク)によってヘルス嬢の日常が生々しく描かれている。風俗嬢の日常に興味がある、ないにかかわらず、お薦めしたい。
(マンガ配信サイト「めちゃコミック」の広告で再三面白そうなサンプル画面を見せつけられ、冊子発売と同時に購入してしまったが、正解だった。)

たとえば入店時の面接、Webでの新人紹介用の写真撮影、忙しい日の対応グッズ、性病検査や治療、といったヘルス嬢の日常の確かなリアリティ。とくに本番を求める顧客に対し、無表情、ないし笑顔をもって相手への不快、怒りを描くコマの数々はテクニカルでさえある。

本番といえば、作中何度も描かれる「素股」というテクニックは、吉行淳之介の『夕暮まで』が契機となり、桃井かおり主演の映画も作られ、あげくに「夕ぐれ族」なる愛人バンク(売春斡旋組織)が世間を騒がすなど一種社会現象となったものだが、吉行の小説では心理描写中心で抽象的だったその「素股」がさらりと身体的プレイとして描かれ、その描写力には過不足がない。

ポイントは、上記のようなリアリティが、一人の働く女性の日常をタイトに描くために用いられていることだ。
「風俗嬢」云々というとどうしても劣情をそそる(笑)読み物か、逆に女性の社会的地位がどうたらとの観点(つまり上から目線だが)で語ろうとする、そのいずれかを想起されるかもしれない(さすがに今どきはもうそうでもないか?)。
しかし、本書は極めて生々しい用語や描写を連発しながら、決してそのいずれにも加味しない。親や友人にあまり大っぴらには言えない職業ではあるが、ギャグやエロシーンをもって、当人なりのプロ意識をもって客を喜ばせる、プロによる仕事の日々を訥々と描き続けるのだ。

この豊かさを文章のみで実現できるかどうか……それはかなり難しいのではないだろうか。

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