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カテゴリー「スポーツ」の26件の記事

2017/02/24

桜の花の散るごとく 『横綱』 武田葉月 / 講談社文庫

Photo昭和から平成にかけて、角界を支えた“横綱”22人のインタビューをまとめた1冊。
初代若乃花から大鵬、北の富士、輪島、北の湖、千代の富士らを経て双羽黒、大乃国、曙、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜まで。
(残念ながらあとがき、資料とも、稀勢の里昇進の話題は間に合わなかったようだ。)

優勝回数や連勝に記録を残す大横綱もあれば、横綱に上がったあとパッとした成績を残せなかった者、追われるように角界を去った者など、堂々たる、あるいは朴訥だが生々しい横綱の声、裏話が聞けて相撲贔屓にはたまらない。

親方に誘われ飛行機に乗って東京見物とシャレているうちに抜けられなくなった千代の富士、とか、対戦相手をビデオで研究する輪島、全く研究しない北の湖などなど、さまざまな話題の中ではっと目を打たれるのは、

「横綱になった途端に、私はやめることを考えましたね」(大鵬幸喜)
「『もう、後は引退だけだよ。ダメなら、すぐやめなきゃいけないんだよ』まるで、引導を渡されるように、そう言われたのです」(栃ノ海晃嘉)
「ただ、ひと言だけ、『引き際をきれいにしよう』ということだけ」(北の富士勝昭)
「横綱昇進が決まって、師匠からまず言われたことは、『横綱になって、成績が悪かったら、スパッとやめなければいけない』ということでした」(若乃花幹士(二代))

と、多くの力士が、横綱に推挙された途端引退のときを強く意識させられる、意識し始める、ということだ。
それ以上上のない横綱という地位の責任が圧倒的に重いということだが、それにしてもこれほどとは思わなかった。

一つ面白く思ったのは、機会が得られなかったのか、この本には実は若貴兄弟、つまり若乃花勝、貴乃花光司の2人の横綱のインタビューが抜けている。ところが、その前後の世代の横綱たちの言葉の中に、自らを追いたてる若武者、眼前の敵、目標と崇め奉る横綱としての貴乃花が語られ、まるで各代の横綱の白黒の写真を無造作にペタペタと貼っていったら、真ん中に大きな貴乃花のシルエットが空白として浮き上がった、そんな塩梅なのだ。貴乃花という横綱が、記録に表れる以上に大きな存在であった証しだろうか。

もう一点。
昭和三十八年九月場所の千秋楽、6連覇中の大鵬が休場明けの柏戸との全勝対決に敗れた名勝負を(どうやら見もしないで)八百長と決めつけ、スポーツ新聞にそう書いた人物がいた。相撲協会が名誉棄損で告訴するにいたるとその人物は一転、謝罪したのだが……。これが当時人気作家だった石原慎太郎である。今も昔も、人騒がせな人なんだなぁ。

2016/10/18

『君は山口高志を見たか 伝説の剛速球投手』 鎮 勝也 / 講談社+α文庫

Photo日本ハムvsソフトバンクのパ・リーグクライマックスシリーズ最終戦、3点リードの9回に登板した日ハム大谷翔平投手は165km/hの速球を3球投げた。これは日本プロ野球記録であり、物凄い数字である。
だが、その大谷の速球に対し、ソフトバンクの各打者は振り遅れながらもバットに当て、ファウルでねばり、二度の三振はいずれも変化球によるものだった。

時代は違い、バッティングマシン導入による打撃技術の進化もあるだろう。だが、それにつけても、1975年の
山口高志の速球はこんなものではなかった。
大切なことなのでもう一度書く。
山口高志の速球は、こんなものではなかった。
大谷の速球は、スピードガンによる球速が表示されてはじめて観客がどよめく。
山口高志の球は、ドンと放たれ、バンとキャッチャーミットを叩き、ただもうそれだけで場内を圧倒した。

たとえるなら大谷の速球はピストルの弾だ。確かに速いことは速いが、指先とキャッチャーミットの間の軌跡にバットを振り出せば、とりあえず当たる。前に飛ばせるかどうかは、コースとタイミングの問題。だから変化球とコントロールのコンビネーションが必要となる。
一方、山口高志の投球は、鉄で出来た大砲の弾丸だった。
日本シリーズ、広島東洋カープの各打者は、高めはボールとわかっていて、それでもうなりを上げる速球に思わずバットを強振し、空振り三振を繰り返した。カープは抑えに山口を擁する阪急に2分け4敗、ついに1勝もあげることができなかった。

当時スピードガンがあったら、という比較はあまり意味がない。山口は身長は169センチ(大谷は193センチ)と小兵ながら、投げ終えた瞬間背番号や後頭部がバックネットから見える、上下動の激しいダイナミックなフォーム。文字通り全身で投げ込んだ。ボールは縦回転でホップしてキャッチャーミットを下から叩く。
無理なフォームだけにコントロールはよくはない。9割が速球で残りがカーブ、四球3つで満塁にして、三振3つでチェンジ、そういった野球である。
当時、人気のないパ・リーグは苦心の前後期制、山口はロングリリーフに先発、またロングリリーフと酷使され、腰を痛めて実働8年で表舞台から消えた。通算50勝と記録は平凡。だが、だからこそ記憶に残る、そういう選手もいる。

本書はその山口高志の関西大学時代の活躍(凄まじい!)から丁寧に書き起こし、生まれ育ち、中高時代、社会人野球、そして阪急ブレーブスでの活躍ぶり、さらに現役引退後のコーチ、スカウトとしての活動までこつこつと詳細に調べ上げる。
学生時代のチームメイトはおろか、対戦相手にまで取材を重ねたスポーツドキュメンタリーの力作。
とことん朴訥、一本気な山口のキャラクターも泣ける。

DVDか何か出ないものか。必ず買う。

2015/04/06

Newton 2015年5月号 『曲がる! 落ちる! ゆれる! 魔球の科学』 ニュートンプレス

Photoおなじみの真っ赤な表紙、銀色の「Newton」のロゴの下、いつもなら相対性理論だDNAだ虚数だ太陽系の誕生だと物理生物化学数学したテーマが鎮座しているところになんと炎と燃える星飛雄馬のドアップが!

今月のNewton Specialは「魔球の科学」。浮き上がる直球、落ちるフォーク、ゆれるナックルなど野球の変化球だけでなく、本田圭佑の無回転シュート、ナダルのエッグボール、卓球の王子サーブなどさまざまな球技における「魔球」の正体を一つひとつ科学的に解き明かす。
「直球」の正体は実はボールが空気から受ける力(マグナス力)が上向きに作用することによってまっすぐに近い軌道で進む変化球、「フォーク」は重力にしたがって自然に落ちる球、松坂の「ジャイロボール」は……等々、読み応えのある解説、図版が並ぶ。

もっともNewtonはNewton、サブカル誌ではないため、マンガに登場する魔球についての言及は残念ながら多くない。『巨人の星』『MAJOR』『キャプテン翼』、いずれも魔球の描かれ方の一例として扱われる程度で、飛雄馬の大リーグボール2号(というより一徹の魔送球)など数行で一刀両断「不可能」と切って捨てられている。星よ、星よおぉぉ(泣)。

それでもあのNewtonが「魔球」を扱っただけで特筆モノだし、ほかのページもオオサンショウウオの生態グラビア(凄い!)、ハイパーカミオカンデの紹介、最新のステゴサウルス研究成果などなど、興味深い記事、図版、写真でいっぱいだ。
また、永久保存版が増えてしまった。

2011/09/18

『ドラフト1位 九人の光と影』 澤宮 優 / 河出文庫

Photo  元巨人のドラ1でありながら阪急のマスコット「ブルービー」に入り1000試合以上に出場した島野修。西の福留・東の澤井と期待されながら怪我で活躍しきれなかったロッテ澤井良輔。暴漢に襲われて視力を損ね、引退に追いやられたヤクルト荒川尭。ほか、9人のプロ野球ドラフト1位の軌跡を追う。

 こういう本を読むときは、身近に同世代の野球ファンがいなくてはダメだ。
 「そうそう、○○のフォームは肘が」とか「○○は何勝したのに、同じ年に○○がいたからに新人王がとれなくて」とか、居酒屋から締め出されるまでやり合える仲間が昔はたくさんいたのに、今はいない。なので、せっかく読んでもちっとも楽しくない。

 60年代から90年代まで、登場する選手たちのドラフト年度が散っているため、同じドラ1でもその重みや意味づけがそれぞれに異なる。1冊の本としては、それを面白くは受け取れず、やや散漫な印象。ドラフト入団を拒否した選手から、西武の高木大成のように入団後ある程度活躍した選手まで混ざっていることも、全体の方向を見えづらくしている。
 プロ野球が栄えたり傾いたりしたこの数十年間には数百人のドラ1が登場し、週刊誌やテレビドキュメンタリーもドラ1選手のその後、といった特集を何度も組んでいる。となると後は個々の選手の入団前、入団後、引退後それぞれの「凄み」を味わえるかどうか、そういうことになる。

 巨人の1位指名を断った小林秀一には、何かごつごつした岩のような存在感あり。サラリーマンになって不動産業をやりたいと巨人の指名そのものを断った慶應の志村亮。当時も、この本を読んだ今も、どうもピントが合わせられない。未完の大器と呼ばれ続けた巨人大森。踵に体重を残した当時のフォームそのまま、おおらかといえばおおらか、凄みがないといえばない。荒川尭は、この短い文章からも、本当に惜しい逸材だったことが感じられる。荒川が引退後に野球用品を扱う会社を興し、ピッチングマシンやスピードガンの販売で成功した、という話は知らなかった。

2010/01/20

追悼 投手、小林繁

 小林繁(巨人、阪神、現日ハム一軍投手コーチ)が亡くなった。悲しくてやりきれない。

 報道は江川とのトレード話ばかりだ。納得がいかない。確かに大きな事件ではあったが、それ以前に、彼はその当時(1970年代後半)、事件の前も後も、最高の投手の一人だったのだ。もっと(被害者としてではない)投手としての小林繁を語ろう。

 小林のピッチングフォームは独特だった。
 (独特、という点だけをみれば、匹敵するのは村田、野茂くらいだろうか。)

 グラブを包み込むように左膝をいったん胸の高さまで上げ、モーションに入り左足を地面すれすれまで下ろしたところでいったん腕と左足すべての動きを止める。しかし、右膝はその間も沈みつつ圧力をため、左足を前に踏み出すと同時に右腕を一気に振り出す。内にこもる(開かない)前半に対し、投げた後は体全体がはじけるように解き放たれ、軸足は外に大きく踏み出し、勢いあまって帽子が落ちることも珍しくない。

 右腕の軌跡はいわゆるサイドスローなのだが、その直前の上体の角度と「ため」が極めて独特で、およそ誰のフォームにも似ていない。

 投球の組み立てはかなり攻撃的だった。速球が抜群に速いわけではないのだが、サイドスローによく見られる変化球でかわすタイプではなく、内角高めのストレートをバチンと投げ入れる印象が強い。ただ、プロ野球選手としては珍しいほどスリムな体つきもあって、さすがに「ねじふせる」という印象ではない。
 (おそらく「ねじふせる」という言葉がよりふさわしいのは、投げ終わると同時に三振を確信してダグアウトにもっさり走り始めることのできた江川のほうだったろう。)

 小林がモーションを止めるのは、単に投球動作を中断してバッターのタイミングをはずすためではなく、全身の筋肉をいったんぎゅっと押し縮め、それから一気にバネを解き放つため、そんなイメージがあった。現在なら二段モーションで注意を受けるものかもしれない。当時の日米野球に小林が登板したときも、大リーグの審判にボークを取られるのではないかとテレビ桟敷で心配したものだが、そうはならなかった(親善試合だったから、ということはあったかもしれない)。投球動作そのものは止まっていないため、と解説が説明したとき、妙に嬉しく思った記憶がある。

 そののち小林は阪神に移籍したが、巨人に在籍した当時から(その球団には珍しく)しなやかな野獣の印象があった。野獣が獲物を前に静かに身を潜め、それから一気に飛び掛かる。それから、曲がった帽子を整えるダンディなケモノ。

 139勝17セーブ。名球会に招かれる記録ではない。だが、誰より記憶に残っている。

 心より冥福を祈る。

2007/02/26

こういうのを待っていた 『DIVE!!』(上・下) 森 絵都 / 角川文庫

600【そこにはあなたにしか見ることのできない風景があるわ】

 噂にたがわぬ傑作でした。

 ほら,よくあるでしょう,素晴らしい映画を観終わったあと,エンドロールが終わって場内が明るくなってもしばらく呆けてしまって席を立てない,あんな感覚。
 ページを繰る手が止まらない,ジェットコースター的快感とは少し異なります。むしろ,1つの章を読み終わると,思わずその意味を考えたり,味わい返したりするために,何度も同じページをめくってしまう。また泣かせる「名セリフ」が多いんだ,これが。電車の中で目頭が熱くなってしまって,苦労しました。

 そんな物語が文庫の上下2巻分,切なくじっくり展開するのだからもうたまりません。
 ダイビングという決してメジャーではないスポーツの魅力,高さ10メートルの飛込み台から水面までわずか1.4秒の演技の鋭さ,その逆の弛緩の恐ろしさを文章でこれだけ描いただけでも賞賛モノ,さらに,

 ここからは,『DIVE!!』の登場人物やストーリーについて,未読の方が本書を読むときに興趣をそぐ,いわゆるネタバレが続きます。本書を未読の方は以下を読まないことを,……もとい,もとい,とっとと本屋に走って2巻読み終えてからこちらもご覧いただけると幸い。

読み進む途中であなたはきっと声に出してしまうことでしょう,

 ダイビングとテニス,男と女の違いこそあれ,これって『エースをねらえ!』だよねーっ!?

 バラバラっと思いつくままいくつか書いてみましょうか。

 物語が,謎の有能コーチの登場と強引な指導で動き始めること。
 物語の前半で,オリンピックを目指す選抜合宿への参加をめぐって登場人物たちが競い合うのも,もともと全国で知られるほどの有力選手ではなかった主人公がそのメンバーに抜擢されて周囲から浮いてしまう展開もエースそっくり。

 主人公 坂井知季は,自分がなぜコーチに抜擢されたのか理解できないながらも,素直さとその資質でめきめき力をつける,これはもちろん岡ひろみのキャラクター。あまり詳しくは書けませんが,コーチが主人公の目に着目する点,主人公のプレイが限界を知らない点などでも似ています。
 主人公の先輩 富士谷要一は,両親ともにオリンピック出場経験をもち,高度なワザをも難なくこなすサラブレッド。言うまでもなくお蝶夫人 竜崎麗華の役柄。知季らをライバルとして心のどこかでおそれつつ,ついつい後輩たちの成長に気配りしてしまうあたりもお蝶夫人そっくりなら,最後の最後に体調を崩すのも『エース』の18巻を思い出します。
 北国から現れた強烈なライバル 沖津飛沫(しぶき)。これはもちろん加賀のお蘭こと緑川蘭子。過去をひきずり,大柄かつパワフルながらもついに(物語内では)ナンバーワンになれないこと,故障に苦しむことなどもお蘭に似ています。
 要一と飛沫が同学年で,後輩の知季がまっすぐそれを追う,これが『エース』的でなくてなんでしょう。

 そして,なにより『エース』ファンの涙腺を刺激するのが,本書の最終章が大きな大会に向かう飛行場のシーンで終わっていくことでしょうか。ただし『DIVE!!』ではコーチは死にません。大丈夫。ついでに『エース』の第2部ほどお説教臭くもありません。大丈夫。

 
 念のため。
 『DIVE!!』が『エースをねらえ!』に似ているところがあるからよろしくない,などと主張する気はコレッポッチもありません。上に書いたように数々の類似点がありながらも,『DIVE!!』はどこまでも『DIVE!!』であり,その魅力は『エース』とはまったく次元,手触り,鋭さ,温度の違うところにあります。

 むしろ,『アラベスク』が結果として『エースをねらえ!』を産み,この2作がさらにさまざまなスポーツマンガに骨太な影響を残したように,『DIVE!!』はそういった傑作群の優れた嫡子として,スポーツ小説に新しく気高い頂を示した,そう考えるべきかと思います。

 ともかく,スポーツマンガの好きな方は,黙って読め。読めばわかる。熱くなるから。

 
 ちなみに……全18巻かけてキスシーンひとつなかった(2人めのコーチにいたっては仏門にすがった)『エース』と違って,『DIVE!!』の世界は異性交遊花盛り,そのあからさまな描写も今風です。
 うちの子供たちにも読ませたいのに奨めづらい,それが唯一の悩みといえば悩みかな。

2006/10/09

『巨人軍タブー事件史』 別冊宝島編集部 編 / 宝島社文庫

932【凋落しているのはジャイアンツで,プロ野球ではない。】

 ジャイアンツの本など別に続けたくはない。ないのだ。のだけれど今のうちに書いておかないと二度と話題にできないかもしれない……そんなことをウスら寒く思ってしまうジャイアンツの凋落度合いである。諸行無常。

 本書は長島解任,江川空白の1日,バース敬遠指令疑惑,桑田当板日漏洩疑惑,湯口変死事件,韓国籍選手への差別,番長清原の乱闘時の意外なヘタレ具合など,ジャイアンツにまつわる数々のスキャンダルを取り上げたもの。
 アンチジャイアンツ派にとっては溜飲の下がるダーティなスキャンダルのオンパレードであり,「やっぱりあいつらは,な」と酒の肴に煮たり焼いたりしたいところだが……あいにくジャイアンツの悪口で盛り上がることのできるトモガラも今や絶滅危惧種だ。

 そもそも,ジャイアンツの凋落の直接の原因は何だったのか。
 嗜好の多様化,度重なる不祥事,金権野球。サッカー人気,スター選手のメジャーリーグへの流出。妙にバラエティ化したナイター放送の勘違い。
 いずれも正解だろう。その中でも,昭和のスーパーヒーロー,長島を軽んじた監督解任事件はマーケットを断絶させた点で減点ポイントが高い。さらにもう1つ,あまり言われていないことだが,松井秀喜の役割というか,残したダメージが大きかったのではないか。

 松井のドラフト会議への反応について,ある記事は「阪神ファンだったと言われる松井だが,長嶋茂雄監督(当時)がクジを引き当て巨人に決まると笑顔で快諾」と記している。これはそれまでのジャイアンツ一辺倒の入団記事とはかなり色合いが異なる。
 空白の一日を利用して江川が,密約を噂されながら桑田が,FAを利用して落合が清原が入団したがった球団に対して「快諾」。この文脈は,明らかに主体が球団側でなく(まだ北陸の一高校生に過ぎなかった)松井の側にあったことを示している。そしてその松井は,四番打者として活躍中,球団を見捨ててメジャーリーグに走る。礼を失しているわけではないが,球団に対する過剰なレスペクトは感じられない。
 もしかすると,生真面目な顔をした松井秀喜こそは「栄光」のジャイアンツに水をかけ,この国が見続けていた太平の夢を覚ました張本人だったのではないか。……

 ところで,そのジャイアンツを復活させるための方策は何かあるだろうか。
 ジャイアンツの人気を取り戻すために生え抜きの選手によるクリーンナップを,という提言をよく見かける。別にそんな必要はないだろう。阪神金本,日ハム新庄らを見ても明らかなように,問題は生え抜きかどうかではなく,魅力と実力である。
 ……それにつけても解せないのは高橋由伸だ。あり余る才能を持て余し,ただ引退を待ちこがれているかのようなふてくされた態度。
 彼は,どこへ行きたいのだろう。何が,嫌なのだろう。

2006/09/24

浮き上がるロジックの美しさ 『アンダースロー論』 渡辺俊介 / 光文社新書

275【人差し指が最後にボールから離れる】

 オーバースローから投げ下ろすストレートが汗の匂いとフィジカル(肉体的)な存在感で場を圧倒するなら,アンダースローから繰り出される浮き上がるストレートはメタフィジカル(形而上)な美を具現化する。それは緊密なロジックに基づいているからだ。

 たとえば,阪急の剛速球投手,山口高志は,文字通りのオーバースローで,投げ終わると一球ごとに後頭部と背番号14がバックネット裏から見える,そんな腹筋背筋の利いたフォームだった。活躍したのは数年の間にすぎなかったが,プロ野球史上最高の速球投手と評価するファンも少なくない。そんな彼がサイドスロー,アンダースローに挑戦していたとしても……おそらくあれほどの活躍,存在感は見込めなかったに違いない。
 一方,巨人,ヤクルトで活躍した左腕投手,角盈男。彼は,オーバースローの速球派投手として5勝7セーブで新人王を獲得したものの,翌年はコントロールの悪さばかりが目立ち,四球押し出し投手として悪名をはせた。そんな彼がサイドスローに転向してリリーフエースとして君臨したことは記憶に鮮やかだ。ひじを曲げた独特のサイドスローから繰り出されるクセ球はうなりを上げ,並み居るセリーグの好打者たちを文字通りきりきり舞いさせたものだ。

 サイドスロー,アンダースローに向く投手,向かない投手がいる。

 間接の柔軟さ,腰の回転,肘の角度。
 アンダースローは変則ゆえに変化球投手のイメージが強いが,実は高めの延びる球で三振をとれるフォームでもある。野田浩司(オリックス)に破られるまで,1試合の奪三振記録(17)を長年保持していたのはアンダースローの足立光宏(阪急)だった。

 だが,山田久志,上田次朗,金城基泰,仁科時成,松沼博久ら,往年の大投手,好投手が引退したのち,アンダースローの系譜は閉ざされてしまう。目指すべき高い目標がなければ野球少年たちは真似るスターを見失い,選手が枯渇すれば指導者は育てるノウハウを忘れてしまう。

 そんな中,突然変異のように現れたプロ野球一軍ただ一人のアンダースローピッチャーがロッテの渡辺俊介である。それも,2005年には15勝,2006年にはWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で活躍するなど,堂々たる戦歴だ。

 渡辺俊介のピッチングフォームは美しい。力が抜け,右手手首が地上すれすれからすうっと延び,最後は腕ごと体に巻きついていく。力感とスピードには乏しいが,高めのストレートには,120km代とは思えない強烈な意思が感じられる。

 本書『アンダースロー論』は,その渡辺俊介が,アンダースローについてさまざまな角度から語ったもの。
 とくに「バッターから一番見づらい,わかりにくいのは<前後の距離感>」というポイントからアンダースローのフォームやタイミングを語った投球術論は得がたく,これまで野球ファンとして漠然とながめていたものに突然光が差す,そんな思いがする。

 たとえば……「上げた足をそのまま斜めに踏み出すのではなく,まずは真下に下ろし,両足のくるぶしが触れ合う状態を一度作ってから,打者に向かって踏み出す」……。頭の中でフォームを検討してみると,この足さばきがいわゆる「開き」を抑えるための大きなポイントだということが理解できる。
 あるいは,「アンダースローは手が下にあるので,ボールが手の上にのって」いるため,カーブを投げるとき,「指に強い力を入れて握らなくても」「腕の振りよりボールのスピードを遅く」できるという指摘。言われてみればそのとおりなのだが,指摘を受けて驚く。
 グラブやスパイクについても,無駄な動きを防ぐために重いものを使う,「グラブを持つ手を前に伸ばしてしまうと,身体の重心のほかに,グラブの重さが遠くにあって,重心が二カ所になって」しまうので「足下に真っ直ぐに自然に垂らし」,また「網み目の部分は,握りを見られたくないので,一切隙間がないタイプにして」いる,など,など,理にかなった詳細な記載が目を打つ。
 
 高価な本ではない。数時間もあれば読み終えるボリュームである。
 どうか,全国の中学,高校の野球部の指導者の方々は,本書を手に取り,オーバースローで伸び悩んでいる若いピッチャーたちの指導に活かして欲しい。
 本書には,アンダースローに挑戦するにはまたとない高度な意図が満ちている。それは単なるテクニックではない。本書で取り上げられているのは,おそらく野球理論で常に話題にされながら伝達のひどく難しい,「体の開き」と「間」についての問題なのだ。渡辺俊介が目指すものは,実はオーバースローピッチングでも,バッティングでも応用がきくものなのではないか……。

 「啓蒙の書」という言葉はお説教臭くて好きではないが,本書は正しく「啓蒙の書」といえるだろう。お奨めである。

2006/08/20

続・夏の甲子園

 打撃戦というより乱戦の多かった今大会だが,今日の決勝は見どころの多い,いい試合だった。
 延長15回,1対1の引き分け,再試合。

 とくに,2連覇を達成,3連覇に挑みながら,一昨年決勝の済美戦を除き,とくに強豪との厳しい試合の印象のない駒大苫小牧にしてみれば,これで本当の意味で球史に残る強いチームとして記録にも記憶にも残るチームとなれたのではないか(2連覇を達成したチームに失礼な話だが,どうもクジ運や日程に恵まれ,相手の乱調のうちに勝ってきた印象が強い。今大会も,春の決勝を争った横浜,峰清,また大阪桐蔭,八重山商高などの優勝候補,話題高と当たらず,日程も早稲田実業に比べると余裕があった)。

 その駒苫の田中だが,プロ注目というわりに速球,スライダーに目を見張るほどのキレがなく,失点も多い。この大会のエースとしての視線を早実の斎藤にすっかり奪われた感じだ。今日も,ここを抑えれば負けはないという延長15回表,斉藤が147キロのストレートで押したシーンはアナウンサーが声を上ずらせるだけの華があった。斎藤が投球の合間に汗をふくポケットタオルがファンの女性に話題になって150枚が売れたとか,こういった話題の転がり方も久しぶり。

 松商-三沢の延長18回0-0の再試合は4-2の平凡な試合だった。さて,明日は?

2006/08/14

夏の甲子園

 いつか,仕事が一段落したら,甲子園の一大会全試合を見るというのが夢だ。もちろん,できれば現地に行って,応援するチームを直接応援しながら。

 ……などとつらつら考えているうちに年月は経ち,野球への情熱もかつてほどではなくなってしまった。それでも,高校野球の大会が始まると,テレビで,新聞で,見られるだけは見る。一つの大会が終わるころには,何人かの選手が記憶に刻まれ,プロに進んだと聞けば出身地や学校にかかわらず応援したくなる。

 最近は,バッティングの練習技術向上のせいか,打撃戦が多い。池田高校やPL学園,智弁和歌山の記録がかすむような乱戦が目につくが,本来地方予選のベスト4程度で消えるべくチームが出てきているような気がしないでもない。まぁ,アマチュアのスポーツ大会なのだから,それもいいだろう。

 今回は,駒大苫小牧の3連覇が話題になっているが,今一つピンとこない。
 第一に,一昨年の夏の決勝,済美高校との試合を除くと,松商-三沢,箕島-星陵,横浜-PLといった歴史に残る名勝負に欠けるような気がする。もちろんそれは駒苫の選手たちのせいではないし,それで連覇の価値が変わるわけでもないだろうが,物足りなさは否めない。
 第二は,件の不祥事だが,今どきの高校生に昔の理想を押しかぶせてもしょうがないだろう。いやなのは,妙な隠蔽体質,強いからという容認臭だ。別の言い方をするなら,(隠すことを含めて)管理も手腕の一つだということか。

 個人的な好みは,プロ候補の重量級を集めたチームより,小柄な選手たちがきびきび走り回る試合がいい。テレビも個々の選手をあまり持ち上げないでほしい。見たいのは試合であって,ドラマや感動ではない。

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