Sto lat『プロジェクト・ヘイル・メアリー(上・下)』 アンディ・ウィアー、小野田和子 訳 / ハヤカワ文庫
ずっと以前、家族と一緒に見た映画「オデッセイ」(原作タイトルは『火星の人』)がべらぼうに面白かったので、同じ作者の本書も期待して手に取った。期待にたがわず、メガギガテラに面白かった。
ストーリー展開から大道具・小道具まで、何を書いてもネタバレになってしまいそうな本なので、いつものようにカバー記載のあらすじから一部を引用。
謎の空間でひとり目覚めた男は、徐々に記憶を取り戻していく。いま地球は太陽エネルギーを食らう生命体アストロファージにより滅亡の危機に瀕していること、自分が人類の総力を結集した救済計画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の選抜メンバー、ライランド・グレースであり・・・(後略)
小声で暴露するなら、大小さまざまな危機がその都度ご都合主義に救われるあたり、「これ、おかしかろ?」とか「ありえねー、無理すじー」とか指摘したい展開は町の歯医者の数ほどある。また歯の磨き方の指導を受けてしまった。
しかし、奥歯にゴマのつまったようなちょっかいやなくて難癖をなぎ倒して最後のページまでぐいぐいと、本書は実に力強く、かつ面白くできている。
「できている」という言葉を使ったが、これはそういう類の作品。いうなりゃ工学、建築学に分類されるべきエンターテインメントで、ストーリーを彩る情緒、情感の通し柱は中世騎士道物語のそれに近い。悪くいえばハリボテ、見掛け倒しの類なのだが、それにアストロファージの存在、それに敢然と立ち向かう人類、そして主人公グレースたちのテクニカルな挑戦が肉付けされて物語は俄然イーリアス、オデッセイアの様相を帯びる。
主人公のグレースは決して大剣を振りかざす英雄の人となりではない。
これは科学者と技術者が勝利をもたらす、ストロングスタイルの青春の書なのだ。
おまけ──────。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の最高責任者であり、アメリカ大統領やロシア大統領をも凌駕するマンガレベルの権力と判断力をもつ作中人物、その名が「エヴァ・ストラット」。
「ストラット」の音に覚えがあるなと思って棚をあさると、ありました、『ピアノの森』(一色まこと)で何度か描かれたポーランドの祝歌「スト・ラット」。
残念ながら小説のストラットさんは「Stratt」、ポーランドの歌は「Sto lat」でスペルも発音も違う。
いやしかし、祝歌「Sto lat」は、偶然であろうがなかろうが、作中の「プロジェクト・ヘイル・メアリー」に賭けられた希望を称え、祈ってなおあまりある、素晴らしい歌詞ではないかと思うんだよ僕は。
100年、100年
元気に生きて
100年、100年
私たちと一緒に
もう100年、もう100年
私たちとずっと
一緒に生きて!
(『ピアノの森』第26巻より)
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