真夏(?)のホラー特集 その7 『変な家 文庫版』『文庫版 近畿地方のある場所について』
ここしばらくほかのジャンルにどっぷり沼ってしまって(下段の写真参照)、真夏のホラー特集がすっかり初秋のホラー特集になってしまった。
よく見れば1ヶ月も放置したままではないか。申し訳ない(ホラー棚の本に頭を下げる)。
まだまだ続けたかったのだが、どうしても触れておきたかったものだけ、駆け足で。
実話怪談というジャンルに少し、飽きたというのはおこがましいが、どうにも似たような話ばかり繰り返されるようになって久しい。
そろそろ、新しい切り口のホラーは出てこないものか、という空気の中にこの『変な家』は忽然と現れた。
知人が購入を検討している都内の中古一軒家の間取り、それに対するちょっとした違和感が登場人物たちを不安にさせる・・・。
小耳にした「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という、ただそれだけの文章に着目し、推論を広げていく著名なミステリ短篇があるが(『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン、ハヤカワ・ミステリ文庫)、それを思わせる展開。
建築業界隈の方にはいろいろ指摘したいところもあるだろうし、素人から見てもやや強引、無理スジといえなくもないが、その荒っぽい力ワザが肉に骨にさまざまな傷口を広げて奇天烈な真相に導く。
傷を傷と指摘するのは簡単だろうが、傷を傷のまま舐めるのもホラーの楽しみというもの。
とりあえず、この図面を描いてそこに違和感を語った、それだけでも天晴れ。
願わくば続くチャレンジャーは本作のエピゴーネンとしてでなく、より奇妙な地平を切り開いてほしい。切に願う。
単純に「怖さ」の値を量って郵便受けにお届けするなら、『変な家』より格段に紙が赤いに違いない。
とくに前半。実話怪談や都市伝説によくありそうなショッキングな事件の羅列。その要因が近畿地方のどこかに集約されるのではないか。
ここまででもなかなか巧いなと思わせるのだが、そのことがらの一つひとつが精査され、類似するものは流され、そうでないものが網に残り、たどり着いてみるとまるで違う地平に放置されてしまう。文庫版と単行本では内容が異なるそうだ。さてどうしたものか。
作者はたいへんテクニカルにも見え、ただキーボードに流されただけのようにも見え、そのあたりが読み手の背中を不安の指で撫で下ろす。
(たとえば「近畿」は「禁忌」とかけているのか、たまたまなのか。)
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『変な家』や『近畿地方』はYouTubeやWebサイトに登場して人気を博し、紙の本としても売れ、映画など各メディアまで作品の手を伸ばした。
このように生まれ、成長し、叩かれつつ化け物に育つ、そんな作品を同時代に見られるだけでも御機嫌、満腹河馬の川流れだ。
ただ、「雨穴」とか「背筋」とか、こういった作者が増えると本を著者名の五十音順に並べるブックオフの店員さんは大変そうだ。
漫画と原作とキャラクター原案がそれぞれ別人で、タイトルそのものもとんでもなく長い、下の写真のジャンルの作品もまた同様。
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