真夏のホラー特集 その6 『耳袋秘帖 南町奉行と百物語』 風野真知雄 / 文春文庫
風野真知雄の『耳袋秘帖』シリーズというのは、江戸時代に書き残された雑話集『耳嚢』の著者、南町奉行根岸鎮衛を主人公に、怪談の謎解き、お江戸の悪党狩り、下町の人情噺などを盛り込んだ(強いてジャンルを唱えれば)捕物帖。
だいわ文庫に始まり、文春文庫に移った初期の10冊から20冊くらいまでは『耳嚢』の記載された怪異の謎解きと捕物帖を重ね合わせ、そこに江戸情緒や人情噺を加えた重厚かつ絶妙な物語だったのだが、最近は『耳嚢』も人情噺もすっとばした南町奉行とその部下たちの活躍の1.5倍早送りモードといったライト時代劇になり果てた。
(根岸の前に現れ事件解決への糸口を与える根岸の亡き妻おたか、深川の船宿ちくりんで根岸を待つ芸者の力丸、根岸家家臣の坂巻と彼が思いを寄せる元盗賊のおゆうなど、いずれも最近すっかりお見限りだ。)
率直に言って、最近のとくに『南町奉行と・・・』と題された数冊のどれかを読んで、最初の1巻に遡って全巻読みたい!と考える読み手はそうはいないのではないか。
・・・ただ、すっかり妙味も薄れ、新刊の出るたびにパラパラと流す「耳袋秘帖」ではあるが、こうして新しい1冊を読み終わってみるとやはり面白い。
今回は本作では松平定信が開いた百物語、その当日に起こった事件を根岸らが解決する。
見事なのは、その百物語に参加した者が語る短い怪談を、根岸が次々と喝破してみせるそのことである。さすがに百話とはいかないが、主たる殺人事件とはあまり関係のない怪談を無造作に提供し、さらにその謎解きをすらすらしてのける作者の手腕はなんというか一種・・・羨ましい。
「耳袋秘帖」シリーズというのは、シリーズのタイトルを冠した何十という事件を扱う文庫それぞれに短篇数篇にあたる小話が内包され、さらにその小話それぞれに怪談とその謎解きが織り込まれているのだ。
なんというサービス精神。書かれたものは最初の1巻から始まる百物語であり、作家当人が化け物なのである。










