『夢と幽霊の書』 アンドルー・ラング、ないとうふみこ 訳 / 作品社
少し前、ジャン・レイの『幽霊の書』を手に入れようとAmazonで検索したら、この『夢と幽霊の書』も引っかかった。
まあ、タイトルが似ているからな・・・とカスタマーレビューをぱらぱら読んでみたらなかなか面白そうだったので、こちらも取り寄せてみた。
「夢と幽霊」にかかわる本の内容はさておき、書物としての成り立ちがなんとも興味深いのである。
ともあれ、帯の惹句をご覧いただこう、
ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した
心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、
ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し、
短篇「琴のそら音」の着想を得た名著、
120年の時を越えて、待望の本邦初訳!
吉田篤弘の解説をもとに補完すると、漱石の『思い出す事など』の一節に
八九年前アンドリュ・ラングの書いた「夢と幽霊」という書物を床の中に読んだ時は、鼻の先の灯火を一時に寒く眺めた。
とあって漱石はイギリスに留学していた時期に本書を読み、さらに「琴のそら音」ほか、幾度か本書に触れているらしい。
また、柳田国男を遠野にいざなった水野葉舟という人物が本書の一部を紹介した、ともある。
・・・漱石や柳田など、大物、古参から学生まで星の数ほども研究、発表がなされてきただろうに、この『夢と幽霊の書』がたいして話題にならず、2017年の完訳までほとんど放置されてきたのが不思議でならない。
さて、その『夢と幽霊の書』の内容だが、著者ラングはさまざまな奇怪な体験を著したソースから、「夢」「幻視」「幻覚」「生霊」「死者の幽霊」「幽霊屋敷」「その他のさまざまなおばけ」等と項目を分け、詳細な感想を加えつつ並べていく。
バッキンガム公暗殺の予言など、一部に物語的な項目もあるが、全体に起承転結、因果応報の明らかな「怪談」よりはただ「怪奇現象」のレポート色が強い。幽霊屋敷の項も、亡霊が出没するいわゆる「お化け屋敷」でなく、ポルターガイストの事例が中心である。
イギリスやアイスランドの民話を収集したという面では柳田の『遠野物語』を想起させるし、知人の実体験を集めたという要素では近年の実話怪談集を思わせる。
・・・最も驚くべきは、心霊現象研究協会の会長がこれだけ労力をかけて集めながら、さすが産業革命のお国柄というか、著者ラングは全編において「幽霊」の存在には懐疑的なのである。
それは著者の
今のところすべての幽霊は幻覚であり・・・(中略)・・・かつて幽霊は、肉体や墓から解きはなたれた、生者あるいは死者の「霊魂」だと考えらえていた。この見方は、どう擁護しようと、そしてまた真偽は別として、未開人の素朴な考え方を表すものだ。(7ページ)
物理的に説明のつかない幽霊的なものは、科学の観点からするとすべて幻影であるということと、物語という目的に照らすと、幻影がどれもみな幽霊であるわけではないということを心に留めておいていただきたい。幽霊であるためには、その幻影が事実と符合するものでなくてはならないのだ。(82ページ)
などの文言からうかがい知れる。また、
つぎの事例は、心霊現象研究協会が発表し、本人とその夫が実話であると証言しているものだ。(80ページ)
死の床にある者が遠くに姿を現すというのは、実に頻繁に聞かれる話で、何百という事例がきちんとした形で公表されている。(94ページ)
ここからは幽霊のようなものに対する「科学的」説明の極限を踏み越える話を紹介していこう。(106ページ)
などの表記にも注意したい。
スマホで動画撮影、SNSにアップ、などという昨今と違い、当時としては名のある人物による「証言」「公表」こそが事実の証しなのである。
著者はその一つひとつに科学的説明を試み、それがかなわないときには夢や幻覚、あるいはテレパシーをはじめとするさらなる科学的説明の可能性を説く。
さまざまな心霊現象、怪奇現象、幽霊屋敷の例を集めた本書について、先に『遠野物語』や実話怪談集との相似を指摘したが、こうしてみると実のところそれらとは真逆な姿勢で書かれたものかもしれない。
そのあたり、蒲松齢の『聊斎志異』と同じく志怪小説として書かれながら、懐疑的精神にあふれた紀昀の『閲微草堂筆記』に近いような気もする。









