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2025/03/27

昼食は売り切れ! 食べ物は全部売り切れよ!! 『国境のエミーリャ』(現在13巻まで) 池田邦彦 / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

Photo_20250327175501 1965年生まれ、2008年に漫画家として立った、遅咲き漫画家池田邦彦。
国鉄時代の客扱専務車掌の希望と失望を描いた『カレチ』、ホームズ研究家たちの友愛と推理を歌い上げた『シャーロッキアン!』、この2連作はそれぞれテーマへの調査意欲とともに市井の人々への思いやりが溢れる。

そんな池田邦彦の最新作が『国境のエミーリャ』なる歴史改変モノ。掲載は小学館の「ゲッサン」というややマイナーな月刊誌で、単行本は静かに13冊にいたる。

「歴史改変モノ」とは、たとえば第二次大戦で枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)側が勝っていたらどうなった? など、歴史上のifを展開の柱とする作品群を言う。主にSFの分野に多い。
『国境のエミーリャ』では敗戦した日本が東西陣営に分断され、東京がかつてのベルリンのように東西に分割統治され、国境には強固な壁が築かれてしまう。主人公エミーリャは東トウキョウに暮らし、普段は「十月革命駅」(=元上野駅)の食堂で働くが、依頼を受ければ西への脱出請負人として暗躍する。

第1巻第1話でエミーリャは自らを罠にかけようとする人民警察(ミリツィヤ)の警官を逆に死に追いやる。その最後のコマは「絶対に笑わない女」というハードボイルドな説明で閉じるが、その後、紆余曲折を経て彼女はたびたび泣き、あるいは笑う。
第2話で登場する国境犯罪捜査担当のウラゾフ警部とは案件によっては敵対し、あるいは助勢し合う。

遅咲き作家の常、作画は美麗とは言い難いし、サービスカットの水着シーンはお世辞にも色っぽいとは言えない。
ストーリーはときどきうざったい昭和のお涙頂戴に流れ、監禁されても銃を向けられてもその都度助かる主人公はご都合主義の権化。
それでも、取材、調査を重ねたのだろう、描かれる物品や風俗はこまごまと時代、そして東側、さらにはおそらくどこにもありはしない自由な西側を描き上げる。

現実の国どうしの諍いや国境の厳しさはこんなものではあるまい、と思いつつ、毎度新刊に手が伸びる。
この時代にそのままベストセラーになるとも思えないが、水の底で少しずつ読まれてほしい、そのような価値を感じる。
本作は失われた「良心」の金型、その復権への泥臭い取り組みである。

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