『日野日出志ベストワークス』『日野日出志グレイトワークス』 日野日出志 著、寺井広樹 編著 / 太田出版
(諏訪哲史『偏愛蔵書室』のところで日野日出志の名が出てきたので、現在比較的容易に手に入る日野日出志の作品集を紹介しておきたい。発行元はあの太田出版。さすがだ。)
作品集のタイトルと収録作、掲載誌、発表年度は以下のとおり。
『日野日出志ベストワークス』(2023年11月20日発行)
「蔵六の奇病」 少年画報、1970年9号
「地獄の子守唄」 少年画報、1970年11号
「まだらの卵」 少年アクション、1975年
「水の中」 少年画報、1970年18~19号
「地獄変」 書き下ろし単行本、1982年
「蛇屋の怪」 コミックVan、1972年
『日野日出志グレイトワークス』(2024年10月5日発行)
「赤い花」 COMコミック、1972年
「泥人形」 少年画報、1970年21号
「ウロコのない魚」 少年キング増刊号、1975年
「幻色の孤島」 少年キング、1971年37号
「赤い蛇」 書き下ろし単行本、1983年
「あしたの地獄 第2話 水の怪物 ―地球発2020年―」 スーパーホラー、2000年2号
出世作「蔵六の奇病」、衝撃のエンディング「地獄の子守唄」、もともと単行本で発表された代表作「地獄変」に「赤い蛇」など、いずれも知る人ぞ知る日野日出志の本領発揮だが、掲載誌を書き写して今さらながら驚くのは、当時、少年画報や少年キングなど、普通の少年誌にこのような作品が当たり前に載っていたという事実だ。
溶けた目鼻、千切れる手足、飛び交う血潮、うろたえる赤ん坊。グロテスク、恐怖、妖艶、絶叫。心を休ませるコマがまったくない絶望的な展開に、僕をはじめ当時うっかり読んでしまった者の心にはねばついたトラウマが残った。
まだご存知ない方には注意しておきたい。怪奇で不快なイメージの暴力性において、日野日出志は水木しげるや楳図かずお、伊藤潤二らの比ではない。
もう一つ。1970年、1972年という代表作の発表年度には強い意味を感じる。
1970年といえば東大安田講堂陥落の翌年、よど号事件、三島由紀夫割腹事件等の話題に沸いた年だが、一方、1967年の公害対策基本法成立を受けて新聞雑誌を水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病の4大公害病、あるいは田子の浦のヘドロなどの話題がにぎわし、いうなれば日本列島が毒と汚染にまみれた時期でもあった(ヘドロから生まれた怪獣が列島に毒をまき散らす『ゴジラ対ヘドラ』が1971年)。
そんな中、少年誌の漫画はグロテスクな描写に突き進む。
山上たつひこ『光る風』(1970年)、ジョージ秋山『アシュラ』(1970~1971年)、そして日野日出志の作品群。
今、それらの作品を読み返して感じるのは、破れかぶれなまでにグロテスクを描きまくる一方での、底なしに平安と愛を求める意識、その落差である。
日野日出志のような、あるいは『光る風』や『アシュラ』のような作品は今後もはや易々とは描かれない、あるいは発表され得ないに違いない。
それは愛の内臓の敗北である。



