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2024/08/22

『ストーンサークルの殺人』 M・W・クレイヴン、東野さやか 訳 / ハヤカワ文庫

Photo_20240822180001 美術館をめぐるのが好きな家人がタイトルに惹かれて『キュレーターの殺人』という海外ミステリを見つけてきた。
ワシントン・ポーという刑事を主役とする長編で、ところが、このキュレーターはとくに美術館のキュレーターとはなんら関係がなかったらしい。少しばかりがっかりして肩を落とす家人。
そこで夫たる烏丸が、仕返しに同じ作者の別の作品を読むことになった。

ここまででなにか質問がある人。ない。よろしい。では続けよう。

さて、皆さんは「ノックスの十戒」をご存知だろうか。
イギリスのミステリ作家ロナルド・ノックス(作品はそれほど面白くない)が提唱したもので、フェアなミステリ小説を書くときに守るべきルールを列挙したものである。

「犯人は、物語の当初に登場していなければならない」
「探偵方法に、超自然能力を用いてはならない」
「探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」

などの十項目からなり(詳細はリンク先を参照)、これに従えばオーソドックス、逆手に取ればユニークなミステリが書けるかも、といった内容となっていて、のちのミステリ作家の多くがこれを基軸とした。

「ノックスの十戒」は本格、サスペンス、ハードボイルドのジャンルにかかわらず、あらゆるミステリ小説が対象となっているが、思うに、最近よく見かける分厚い刑事モノはまた、別の十戒で制御されているような気がしないでもない。

思いつくままにまとめてみよう。

 一、主人公の刑事(以下、主人公)は過去に不祥事を起こした件で、組織内では腫れ物扱いされていなければならない
 二、主人公は一とは別に家族、恋愛など、プライベートにも問題を抱えていなければならない
 三、主人公は組織の上層部からはやっかいもの扱いされていなければならない
 四、主人公は警察官としての情熱と正義感に溢れ、それゆえに捜査においてたびたび暴走しなければならない
 五、主人公は四ゆえに一人で勝手に捜査に走り、たびたびピンチに陥らねばならない
 六、主人公は私生活や人間関係には無頓着、無神経でなければならない
 七、六にもかかわらず主人公はコーヒーや酒、香水などに詳しかったり、豊かな読書家であったりしなければならない
 八、主人公の相棒は、コミュニケーションに問題があって組織内で浮いていた頭脳明晰な(IQや記憶力が異常に高い)痩せた若者でなければならない
 九、犯人は猟奇的な殺人を繰り返すが、その正体は物語の最初から登場する主人公の身近な存在か、さもなくば結末にいたって突然現れるどこかの誰かでなければならない
 十、後半、主人公が犯人を追い、対峙する場面は、映画化がイメージしやすい壮大な風景と派手なアクションが用意されていなければならない

最近の分厚い刑事モノの多くはテレビドラマも合わせ、この十戒のうち七つか八つ、作品によってはすべて当てはまるようだ。

実はこの十戒を書いてしまうと、『ストーンサークルの殺人』について付け足すところはほとんどない(何項目当てはまるかは読み手によるだろうが)。

逆にいえば『ストーンサークルの殺人』は正統派の、堂々たる刑事モノの傑作、といってよいだろう。
と、これにてストーンサークル、じゃなくて大団円。

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