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2024/05/02

そんなものはとっくに解けている 『凶笑面 蓮丈那智フィールドファイルⅠ』『触身仏 蓮丈那智フィールドファイルⅡ』 北森 鴻 / 角川文庫

Photo_20240502182801 小説やコミックの私評を旨とするこのブログの書き込みも、だらだら続けるうち、少し前に1500を越えた
本以外を話題にした記事もあるが、一度に数冊紹介したことも少なからずあったから、全体としてはそのくらいの数の本を扱ってきたということだろう。

最初が2000年の夏だから、今となっては「しまったな」な書き込みも少なくない。
読み返して「何が悲しくてこんなものを持ち上げたのだろう」と後悔する本もある(あれや、あれ、だ)。「褒めるにせよ貶すにせよ、ポイントはそこじゃないだろ」と自分の読みの甘さにヘソを噛みたくなるような書き込みも・・・けっこうたくさん、ある。

そんな中、このブログでの扱いについてずっと気に病んできたミステリ作家がいる。北森鴻、その人だ。
本ブログで取り上げたのは『メビウス・レター』と『花の下にて春死なむ』の2冊。ご覧いただければ(あまりご覧いただきたくない)おわかりのように、褒めているようには見えない。否、重箱の隅つつきのオンパレードと言ってよい。

書いてあることをなかったことにしたい、とは言わない。当時、北森作品に感じていたもどかしさをクリアにしておきたい、そんな意図のあらわれだったようにも思う。
しかし、この2冊で否定的な内容を書くのなら、同じ作家の好もしい要素を取り上げてきちんと評価するのも書評ブログとしての努めだったとも思う。なにより、北森鴻は新刊が出るのを楽しみにしていた、大好きな作家の一人だったのだから。
まさか、2010年に48歳で亡くなられるとは予想もせず・・・。

さて、このたび、角川文庫からその北森鴻の「蓮丈那智フィールドファイル」シリーズから第1集、第2集の『凶笑面』『触身仏』が再発された。
これらは北森鴻の作品の中でもなにより高く評価したい作品であり、本ブログでも何度も取り上げようと思っていたものだった。取り上げなかった理由はわりあい単純で、褒めばかりになって書き込みとして面白く書く算段がつかなかったためだ(はっきりそう意識していたわけではないが、当時の気分を均してみるとそうなる。ちなみに、蓮丈那智シリーズ以外にも旗師・冬狐堂シリーズや単発作品のあれこれと、取り上げたいつもりがそのままになってしまった作品はほかにもたくさんある)。

「蓮丈那智フィールドファイル」とは、異端の民族学者・蓮丈那智が、仮説の立証をフィールドワークに求め、助手の内藤三國を伴って調査にあたり、その先でさまざまな事件にあたるというもの。
探偵役の那智が冷静かつ論理的、よい意味で感情に流されることなく、ワトスン役の三國も、頼りない面はあるが決して無能ではないため、暴かれる真相の暗さと相まって全体の雰囲気は密度が高く、きしむような重さに満ちる。
北森鴻はじめ中堅ミステリ作品に多い、関係者の感情の発露、怒りや嘆きの発露に事件の真相がぼやけてしまう、そういった場面がほとんど見受けられない。また、ワトスン役を安易に愚かしく描き、相対的に探偵を鋭利に描くことも避けられている。
これは、トリックやプロットそのものの出来不出来を分けて考えると、ミステリ作品の構成上、一つの(あくまで一つの)理想的なあり方ではないかと思う。

簡単にいえば、手堅く面白いのである。
ちなみに、民族学的な謎と事件の謎、この絡み具合は作品によって異なる。前者は前者として放置される場合もある。全体として、油断がならない。

「蓮丈那智フィールドファイル」は短篇集『凶笑面』、『触身仏』、『写楽・考』の3冊が発売され、作者の死後、その遺志を継いだ作者の婚約者である浅野里沙子が加筆、執筆した長編『邪馬台』、『天鬼越』の2冊が発行された。
いずれも新潮社からの発行だったが、このたび、なぜか、角川文庫から再刊されることになった。
事情はわからないが、このシリーズが書店店頭に再び平積みで並ぶのは本当に嬉しい。

ハードなミステリを好む方、どろどろした地縁系のミステリを好む方、またちょっと外側からだと、諸星大二郎の「妖怪ハンター」「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」などを好まれる方、さらに泡坂妻夫の『乱れからくり』に登場する宇内舞子によろめく方、そんな方にはお薦めしたい。そうだな、ミクニ。

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