『ヒルコ 棄てられた謎の神』 戸矢 学 / 河出文庫
「ヒルコ」とは神武以前の建国神話に登場する神の名前で、古事記では「水蛭子」、日本書紀では「蛭兒」等と記す。
・・・「イザナギ」「イザナミ」二柱の初めて産む子の名に吸血虫の文字とはこれいかに。
しかも、たとえば古事記では
「くみどに興して、子水蛭子を生みたもう。この子は葦船に入れて流し去りき」
と葦船に乗せて流されたというのである。
「すでに三歳になるといへども脚なほ立たず」という記録もある(「先代旧事本紀」)。
なぜ流された? その正体は? また、流された先での行く末は? と、興味は尽きない。
しかし、そもそも、古事記や日本書紀にも、詳細な記載はない。のちの歴史書は後から適当に書かれたものかもしれない。
つまり、ここから後は、研究者の着眼と、証拠集めの力量次第ということになる。
では、戸矢学氏による『ヒルコ 棄てられた謎の神』は、というと、いくつか、なるほど面白い、という指摘と、逆に、ちょっとズルい、と感じられる点があった。
強いていえば、後者が多い。
面白い点というのは、たとえば「アマテラス」の本名が「オオヒルメ」であることを起点に、
ヒルコ → ヒルヒコ → 昼比古・昼彦 → 日子
ヒルメ → ヒルヒメ → 昼比売・昼媛 → 日女
とその双子説をとり、その正体に挑む、など。
(ただ、こういう文字や音からの推測というのは、ほかの文献や発掘物(鏡なり銅剣なり)による裏付けがなければただの思い付きに過ぎない。
卑弥呼 → ヒミコ → 日御子・日神子 → 日子
(※今コノ場デ適当ニデッチアゲタモノデス)
として「卑弥呼」と「水蛭子」は同一であった・・・などと勢いだけで主張したって誰も納得はしてくれまい。)
ズルい、と感じる理由。
これはもう単純で、著者は、古事記や日本書紀、その他の記録の少ない記述からさまざまに推測を展開する。その幅広い調査は尊敬に値するが、自説を裏付けるものならのちの世の歴史書であれ神社の名前であれこれがあれがと引用するのに、自説に都合の悪いものは「後世の記載なので確かな根拠なし」とうやむやにする。さらに、自説にかみ合わないほかの研究者の主張についても「推測に過ぎない」とダメを出す。かみ合わない説を呑み込み、それを凌駕してはじめて探偵は犯人を黙らせるのがスジと思うのだが、どうだろう。
古代史に詳しくない(文献に直接あたるわけでもない)当方のような読み手からすれば、「ヒルコ」から始めて「スサノオ」や「徐福」へといたる戸矢節をエンタメと割り切って面白く読むのも一手ではあるが、なんだか中途半端に騙された気分が残るのもまた事実なのだ。
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謎の神ヒルコはさまざまな作品に描かれていますが、烏丸のお気に入りは諸星大二郎「妖怪ハンター 海竜祭の夜」収録の「黒い探求者」
というか、「海竜祭の夜」はいずれもクラクラするような傑作ぞろいなんですけどね
投稿: 烏丸 | 2024/02/08 17:20