あ(109ページ) 『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』 いしいひさいち / (笑)いしい商店
無人島に1冊だけ持っていくならどの本、とかいうオススメ本の類、ではない。
でも。もし、都会の一室で、誰にも逢えず、誰の声も聞こえない夜を迎えるなら、その膝に、ともに血をにじます果実として、ロカの物語ほどふさわしい作品はない。
その果実はリンゴでもオレンジでもなく、堅く、苦く、紅く、酸っぱいザクロ。
> いしいの公式ウェブサイトや即売会などでしか販売されない自費出版本でありながら、カルチャー誌『フリースタイル』の「THE BEST MANGA 2023 このマンガを読め!」で第1位となった
これは『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』についてAmazonに書かれていた評の一節。
いしいひさいちの過去の連載やWebでの掲載作品、それに若干の描き下ろしを加えて、ファド歌手をこころざす高校生・吉川(きっかわ)ロカと、その彼女を裏から支える年上の同級生・柴島美乃の物語。
友情という言葉などクソクラエ。
『ののちゃん』の連載内連載だったロカの物語だが、朝日新聞の連載としては不評であったため打ち切られたらしい。
仕方のないことだ。ザクロがリンゴやオレンジよりウケるわけはない。
ギャグのツールであったはずの4コママンガが、ギャグのまま小さく摘み、重ねられていくうちに、やがてどこかの世界を燃やす。
どこかで世界が燃えている、そして燃えて、燃えて、燃え尽きて消えようとしているのに、僕たちにはどうすることもできない。
ロカの物語はそのように読み手を焦燥にかりたてる。
恋のように。
とり・みきをして「まさか作中の女性キャラに恋しようとは!!」と言わしめたロカだが、こうやって1冊にまとめられると実は半分以上柴島美乃の物語であることがあざらかになる。
その苛烈さはロカの首の描写、唇の描写の甘味を裏打つ苦味として、この物語のザクロをザクロたらしめる。
販路が狭く、簡単には入手できない本作であったが、幸い現在では続編『花の雨が降る ROCAエピソード集』と合わせてAmazonのKindleで読むことができるようになった。
──などと紹介しつつ、この作品は電子書籍としてではなく、どこかの埃っぽい部屋の隅でボロボロになった紙の冊子のカタチで見つかるのが望ましい。
これはなんだろう? と手を伸ばしたどこかのあなたは、やがてロカと、そして柴島美乃を想って遠く見えない港湾をうかがうだろう。
『ストーリーライブ』の最終ページと呼応する『花の雨が降る』のラストも凄い。
凄いぞ。
凄い。
汽笛。
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