今度は文春 『雨の中で踊れ 現代の短篇小説 ベストコレクション2023』 日本文藝家協会・編 / 文春文庫
2001年から徳間文庫より年1で発行されていた日本文藝家協会・編の「現代の小説20xx 短篇ベストコレクション」が、突然小学館文庫からの発行に変わったのは2021年版でのこと。2022年版も小学館文庫。
ところが本年、2023年版は文春文庫からの発行。
大手出版社で持ち回りすることにでもなったのか。
いや、別に、読み手がどうこう言うことではないんだが。
タイトルも微妙に変わった2023年版、収録作は以下のとおり。
佐藤愛子「悧巧なイブ」
森 絵都「雨の中で踊る」
一穂ミチ「ロマンス☆」
まさきとしか「おかえり福猫」
高野史緒「楽園の泉の上で」
君嶋彼方「走れ茜色」
佐原ひかり「一角獣の背に乗って」
須藤古都離「どうせ殺すなら、歌が終わってからにして」
斜線堂有紀「妹の夫」
荒木あかね「同好のSHE」
逸木 裕「陸橋の向こう側」
一條次郎「ビーチで海にかじられて」
過去の「短篇ベストコレクション」の平均的な読み応えに比べると、やや軽めな印象(2004年版収録の主な作家と比べても、それはやむを得ないと思う)。ミステリ・サスペンスやSFを特別扱いせず当たり前のように収録しているあたり昭和文壇の閉鎖的な姿勢を思い起こすと隔世の感があるが、ところで、日本文藝家協会ではライトノベルはどう扱われているのだろう。
以下、作品ごとの雑感。
「悧巧なイブ」、タイトルはリラダン『未来のイヴ』からだろうか。御年99歳になられる佐藤愛子大先生が当節のAI騒動をテーマになかなかお若い発想。ただ用語が「電子計算機」など少し古くて。・・・とか思いきや、なんとこれ、昭和30年代半ばに執筆され、最近発見されたものだそうな。ChatGPTも仰天。
本アンソロジーのタイトルの元にもなっている「雨の中で踊る」。リフレッシュ休暇の最終日、妻にフットマッサージを勧められて家を出たくたびれサラリーマンがふと海を目指し・・・いろいろ緩い展開が彼を沈め、また浮かび上がらせる。押しつけがましくならない森絵都の筆運びが心地よい。
フードデリバリーやゲームのガチャを舞台道具にしたサスペンス、「ロマンス☆」。(主人公の主婦を含む)素材の扱い、伏線の回収など、実に巧みなのだが、それらの小道具がすべて易々と理解できるであろう対象読者の世代が限られるのがなんだか惜しい。
「おかえり福猫」、先の「ロマンス☆」同様、コロナ禍が世間にもたらした不景気、閉塞感が作品の背景にある。活力を失い、心も財布も貧しくなったこの国では、いまや「悲惨」さえ地味でささやかだ。
「楽園の泉の上で」、軌道エレベーターをテーマにしたショートショートSF。あらすじはもちろん、アイデアの元を書いてもネタバレになるのでお口チャック。
「走れ茜色」、爽やかで清しい青春の一幕。なのかな? なんだよね? 走り去る佐倉くん、新藤さんに幸あれ。それで、秋津くんは、どうなの。
「一角獣の背に乗って」、映像的にはあちこち魅力的なのだが、本アンソロジーの中では一番よくわからなかった。主人公の怨み?がどこに向かっているのか不明だし、主人公は叔母ほどピュアではないし、ハラダは愚かだが少なくとも「当事者にばかりあたろうとする」姿勢は立派だし、一角獣も処女になつくという素性以外は角のあるお馬さんに過ぎない。
ソマリアを舞台に内戦の悲惨をソリッドに描く「どうせ殺すなら、歌が終わってからにして」。こと「悲惨」の表現において、今回収録の他の作品とはまるでレベルが違う。この作品が理解できない心持ちのことを「平和ボケ」と表して、大きくは間違ってないと思う。
「妹の夫」と「陸橋の向こう側」についてはネタバレにあたることを書きたいので下に別枠を設けた。
「同好のSHE」、推理モノとしてのキレは心地よい。ただ、親ガチャ、先輩ガチャに外れるともう立ち直れない登場人物それぞれのとほほな弱さが哀しい。「雨の中で踊る」が、相対的に甘いファンタジーだということがわかる。
「ビーチで海にかじられて」、これも、申し訳ないがどうもよくわからない。たとえば昔の筒井康隆なら、こういう熊だサメだ、を描いたら、なにか(読み手の常識だったり、社会の仕組みだったり)をガチャガチャに壊してかかろうとする、そういうバイタリティが感じられたものだが、本作はとくに何も壊そうとはしない。書き手も、読み手も、それでいいのか。ちょっと距離をおいてしまう。
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【ネタバレ注意】
以下の2作については、収録作の主旋律に触れてでも書きたいことがあるため、分けて置くこととする。未読の方は注意。
「妹の夫」では、有人長距離航行を行う宇宙船のモニタで地球にいる妻の殺害映像を見てしまう主人公の苦難が描かれる。各自が翻訳機を使い、異国語でも問題なく会話が通じる時代、宇宙船側の翻訳機が事故で壊れてしまい・・・という設定。トム・ゴドウィンの「冷たい方程式」を思わせる限定環境トラブルもので、事件の切なさ、結末の胸熱さなど、たいへんよくできた作品ではあるのだが・・・
主人公(宇宙船)側の翻訳機が壊れたとしても、地上ステーション側の翻訳機が機能しないとは思えない。映像が繋がっているのだから、ボードなりに「妹の夫」と書いてあとで意味を調べてもらう手もある。そのあたりの隙間をつぶしてない甘さが残念。
「陸橋の向こう側」は、離婚した夫婦の子どもが母親側で暮らしていたところ、それに納得しない父親に誘拐されて・・・という話。語り手は探偵事務所に勤める女性で、過去の依頼とのしがらみ、現在のそれぞれの人物の思惑など、しっとりしたどんでん返しもあり、短篇としてはかなり深い読後感を残す秀作だと思う。
ただ、屈強なボディガードのついた父親に誘拐された子どもが父親を憎み・・・という設定だったはずなのに、その子どもが毎夕ある場所で語り手とやり取りできているのが考えてみると少しおかしい。それだけ自由な時間があるなら、自力で逃げ出すなり、誰かを介して母親に連絡を取ることだってできたはず・・・その点に気がついてしまうと二度読みしたときに少しツクリモノ臭がしてしまうのは否定できない。
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