« 無間ループ 『京都怪談 神隠し』 花房観音・田辺青蛙・朱雀門 出・深津さくら・舘松 妙 / 竹書房文庫 | トップページ | 『ドイツ幻想小説傑作集』 種村季弘=編 / 白水Uブックス »

2023/08/28

仏はいない仏はいない仏はい 『京都怪談 猿の聲』 三輪チサ・緑川聖司・Coco・舘松 妙・田辺青蛙 / 竹書房文庫

Photo_20230828191801 前巻の『京都怪談 神隠し』は2019年8月6日の発行、その後の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)やロシアによるウクライナ侵攻など、河津掛けで「日常」を覆す事件、事態の連続でもう吹っ切れた!とでもいうか、それから3年後の2022年8月5日に発行された『京都怪談 猿の聲』は一種遠慮会釈なし、清々しいまでに「京都怪談」を漁(あさ)ってむしってかき集めた、そんな印象だ。
実際の地名や史実もたんと盛り込んで、つんとおすましの文学ですませない。
実話怪談はこうでなくっちゃ。

前巻は花房観音のテクニカルな怪談連作で閉じた。その技は鮮やかではあったが、生々しい怪談を語り、禁忌に触れるなら、そのような趣向は本来必要ない。
本巻では一族郎党もろとも公開処刑された豊臣秀次の霊にまつわる話など、歴史上の惨劇にまつわる怪談も少なくない。そうなると、ラーメン屋のカウンターに人影が見えた、程度の出来事でも読み手の背後を荒らす。怪しきかな。よきかな。

細かいこと、いくつか。

巻頭は三輪チサ氏、12篇。
家族で琵琶湖に出かけようとして小学生の姉妹が寝室の母親を急かす。返事があり、ドアが開き、もの音がするがそれきりで、部屋には誰もいない。実は母親はすでに車に乗っていて、ではあの返事をした女の声は、という「部屋にいたのは」。
もちろん部屋の女のほうが怪しいのだが、ふと、車に乗っていたのは本当に母親だったのか、それからの日々、姉妹がともに暮らした母親は誰だったのか、などとも思いやられる。

緑川聖司氏の怪談14篇では、一話ごとに「藁人形の作成セットをネットで購入」、「マッチングアプリで出会った彼氏」、亡くなった母が書くのを手伝ってくれた<合格祈願>の絵馬を「スマホで撮って」、鴨川の河川敷で「怪談師を目指して」練習する男性、などなど、いかにも現代的な小道具が並ぶ。続巻では闇バイトや移民、原発処理水などが扱われるか。
「公園」は幼児の母親が女児の霊らしきものをにらみ返して追い払う話。三輪チサ「実は怖かった」も奥さんが霊を一喝する話で、こういった元気のよい話は大好きだ。

10篇収録のCoco氏は新京極商店街で怖い話を専門に取り扱う「京都怪談商店」を営んでいおられるとのこと。
八坂神社から烏丸方面に歩いて東華菜館の先を右に抜け、錦市場の手前あたり。覗いてみたいが、京都旅行をともにする家人がホラーなんてとんでもないやめてそれ以上話を続けるなら離縁です、なタイプなのでどうだろうか。

舘松妙、5篇。
いずれも素材を起承転結綺麗にまとめきれていない印象が残るが、逆にいえばホラーの枠組みに整理整頓できない怪異にこそ妙味。
「トンネル傍の宿」、「可哀想な犬」など、相当に気持ち悪い。

田辺青蛙、10篇。
標題作「猿の聲」を「今までで一番怖かった出来事」の中の一つとして紹介している。しかし、当人は大変だったに違いないが、これは怪談といえるのだろうか?
「千鳥ヶ淵」では、斎藤時頼(滝口入道)に恋慕した建礼門院の侍女・横笛が入水、流れ着いた千鳥ヶ淵に怪異が起こる。それを夫婦で見ながら、死んだらここで化けて出たいという語り手もなんだか凄い。

« 無間ループ 『京都怪談 神隠し』 花房観音・田辺青蛙・朱雀門 出・深津さくら・舘松 妙 / 竹書房文庫 | トップページ | 『ドイツ幻想小説傑作集』 種村季弘=編 / 白水Uブックス »

ホラー・怪奇・ファンタジー」カテゴリの記事

平山夢明実話怪談関連」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 無間ループ 『京都怪談 神隠し』 花房観音・田辺青蛙・朱雀門 出・深津さくら・舘松 妙 / 竹書房文庫 | トップページ | 『ドイツ幻想小説傑作集』 種村季弘=編 / 白水Uブックス »