最終巻 『鬼平犯科帳(24) 特別長編 誘拐』 池波正太郎 / 文春文庫
このブログで『鬼平犯科帳』を取り上げたのは2000年8月9日、ざっくり23年前のこと。ブログを起こしてすぐのころで、それなりに手間をかけて書いた記憶がある。
そのときは文庫の23巻まで読んで、24巻だけ未読のまま置いてあった。
24巻には「女密偵女賊」「ふたり五郎蔵」の2短篇と、長編「誘拐」が収録されている。この「誘拐」が「オール讀物」に平成2年2月~4月号に掲載されたのち、作者逝去のため未完となっていたためだ。
研究者ならいざ知らず、一読者として「未完」とわかっている小説を読むのは虚しい。ましてこれは江戸の悪を斬る痛快時代劇である。悪人を追う途中で終わられたらストレスが溜まりそうだ。
作者の書斎からひょいと(推敲中であれ)原稿が見つかるのではないか、後半の展開を作者から聞いていたお弟子さんが代わって結末を発表するのではないか、、、など、まああり得ないとは思いつつなんとなくそのままだらだらと待っていたのだが、最近本棚をかたしていて、もう潮時、と読んでみた。
なにしろ二十数年ぶりである。登場人物の名前や設定もうろ覚え・・・そのわりに「女密偵女賊」「ふたり五郎蔵」の2短篇、いや、途中で終わってしまう「誘拐」さえすんなりわくわく楽しく読めた。
いずれ火付盗賊改方・長谷川平蔵とその配下たちによるハイパー勧善懲悪、と言えなくもないが、それだとこぼれるものがある。そのこぼれたものが切なく、苦い。
もう一点、池波正太郎の文章にはリズムがある。メロディがある。
1ページ読むだけで、心が躍る。体が沸き立つ。
なるほどな、と、二十数年前のあのころ、メシを食う間もページを繰る手が止まらなかった気分を思い出す。
武将や忍者の一生を描いた長編などはまた別の読み方もあったろうが、少なくとも『鬼平犯科帳』『剣客商売』の2つのシリーズについては、悦楽の読書、と理解できる。
食事が美味しい、散歩が楽しい、女を抱けると気持ちいい、そういった次元の読書なのだ。
つまり人生の最重要事項ではないのか、と問われると答えに窮する。だが逆に、これより重要なことなどあるものか、とも思う。
だから、たぶん、『鬼平犯科帳』や『剣客商売』をもう一度適当な1冊から読み返してもきっと楽しいだろうし、読み返さずにいても、それはそれで何かで埋めればよい。
そういうわけで、23年目にして、鬼平、終幕。
« 短評 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(25)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC | トップページ | 短評 『LIVE 警察庁特捜地域潜入班・成瀬清花』 内藤 了 / 角川ホラー文庫 »
「時代・歴史」カテゴリの記事
- 真夏のホラー特集 その6 『耳袋秘帖 南町奉行と百物語』 風野真知雄 / 文春文庫(2025.08.28)
- 妙なものを見たようだな 『耳袋秘帖 南町奉行と逢魔ヶ刻』 風野真知雄 / 文春文庫(2024.08.26)
- 巡りあひて 『紫式部と藤原道長』 倉本一宏 / 講談社現代新書(2024.07.04)
- Vorne und Hinten 『ヒトラーと退廃芸術 〈退廃芸術展〉と〈大ドイツ芸術展〉』 関 楠生 / 河出書房新社(2024.06.03)
- 仕え甲斐がありますな 『新九郎、奔る!(16)』 ゆうきまさみ / 小学館 ビッグスピリッツコミックススペシャル(2024.04.18)
« 短評 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(25)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC | トップページ | 短評 『LIVE 警察庁特捜地域潜入班・成瀬清花』 内藤 了 / 角川ホラー文庫 »


コメント