『英国クリスマス幽霊譚傑作集』 チャールズ・ディケンズ他、夏来健次 編訳 / 創元推理文庫
桜も終わった時期に、今さらクリスマスの本である。
昨年11月末に発売されていたことに気づかず、今ごろになって書店店頭で発刊を知った。取り急ぎ購入して読んだ次第。
本書収録作品の背景にはチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』(1843年)がベストセラーになったことにより、その後英国ではクリスマスに合わせて各社より怪談が出版されるようになった、ということがあるようだ。
だが、だとするなら、本書はもっと『クリスマス・キャロル』にならい、そもそもクリスマスであることでストーリーが動き出す作品、あるいはスクルージのイブのように登場人物がその夜のオカルト体験によって人格が改変されたり、豊かな人生を歩めるようになったり、といった作品がよりたくさん収録されるべきではなかったか。
だが、収録13作はどちらかといえば19世紀のオーソドックスな因縁怪談が中心で、バッドエンドで終わるものが少なくない。
せめて4、5作でも『クリスマス・キャロル』ふうの心温まる作品が含まれていれば、本書はクリスマスプレゼントとして読めただろうし、また逆に凄絶な終わりを迎える作品について、その恐怖をより深めたに違いない。
因縁を軽んじたゆえに登場人物が死にいたる、という作品が並ぶなか、
J・H・リデル夫人「胡桃邸の幽霊」は本書では数少ないハッピーエンドもの。ただ、正しく『クリスマス・キャロル』の嫡子かというと必ずしもそうとは言い難い。
セオ・ギフト「メルローズ・スクエア二番地」の語り手が若い女性であるとはストーリーが進んでもしばらく気づかず、語り手の「 」で囲われた独り言によってはじめてそれに気がついた。
こういうのを読むと、男性名詞女性名詞のない英文で、しかも主人公を一人称で書かれた場合、どうやって男女の区別をしているのだろうと思う。
フランク・クーパー「幽霊廃船のクリスマス・イブ」の幽霊描写は凄まじい。現代のCGやサラウンドシステムフル活用の映画でも、これほどの迫力が得られるかどうか。
巻末の「青い部屋」は少し前に創元推理文庫でも何冊か翻訳されてきたいわゆるオカルト探偵の類の展開で、知的に謎を究明しようとするという登場人物のスタイルにおいて、他の作品と一線を画す。かつ、編訳者による作者レティス・ガルブレイスについての紹介の一節、
筆名に即して女性であることはたしかなようですが、生歿年や経歴などは不肖。一八九三年に(中略)シャーロック・ホームズが初登場したドイル『緋色の研究』初出誌に突如デビュー作が掲載されたのち、長編小説一作と短篇集二冊を矢継ぎ早に上梓し、あとは四年後に本書収録作を発表したのみで忽然と姿を消しました。
が興味深く、なにやら圧倒される。レティス・ガルブレイスは、すでに名の知れた作家の別名義だったのか、それとも。
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