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2023/03/06

『現代雨月物語 式神異談』 籠 三蔵 / 竹書房怪談文庫

いわゆる実話怪談の類についてはそこそこ熱心な馬の骨の一片であると自負している。

ここ20年くらい続いている現代の実話怪談ブームは、『新耳袋 現代百物語』(木原浩勝・中山市朗)、『怖い本』(平山夢明)、『百物語 実録怪談集』(平谷美樹)などのシリーズのヒットを嚆矢としており、現在も文庫の発刊や怪談トークライブなどが連綿と続いている。

そもそも怪談には、作者によるまっさらな創作と、「知り合いから聞いた話なんだけど」の体をとる実話怪談があり、『東海道四谷怪談』や『真景累ヶ淵』に見られるようにその境界は必ずしも明確ではない。
(『今昔物語』、『怪談』(小泉八雲)、『遠野物語』(柳田国男)なども広義には実話怪談と言えるかもしれない。)

また、実話怪談の歴史ではあまり重要視されていないようだが、1960年代の少女雑誌のグラビアページ(青山霊園のタクシー怪談など)からのちの「ハロウイン」(朝日ソノラマ)、「ホラーハウス」(大陸書房)などの女性向けホラー雑誌のマンガ化された投稿怪談、それをまとめた単行本群には、現在の実話怪談のタネとなったと思しきオーソドックスな設定、展開が少なくない。
実話怪談の設定を分類、研究する際にはオールナイトフジにおける稲川淳二の心霊トークとともにこれらの少女雑誌、ホラー雑誌も必ず押さえていただきたいものである(←ヒトマカセ他力本願無責任コース)。

Photo_20230306171901 というわけで若手による竹書房の新刊『現代雨月物語 式神異談』を読んでみた。

一読・・・もはや一語り手の問題でなく、取材した実話怪談数十篇を1冊にまとめるという形式自体が袋小路にはまり込んでしまったのでは、というここ数年の印象を再確認したかたちとなった。

過去の実話怪談の本を読み手としてある程度のボリュームこなしてきた者からすると、はっきり言ってとくに怖くないのである。
これは新しい、予想外の刺激だ、と感じられる要素も残念ながらほとんどない。

全体に「神」と「妖」と「霊」をごちゃ混ぜに語っている印象で、それはつまり「語り手が夢を見ただけではないか」「勘違いではないか」「どこかで耳にした話を自分の体験として語っているだけではないか」といった検証に努めた作業の跡が感じられないということでもある(ちなみに、怪談に検証など、もちろん必要ない。問題は、そういった夢や勘違いの可能性を削る努力をしていないものは、結局ドキュメントとしてリアリティに欠け、怖くないということだ)。

たとえば、本書の222ページには

  私がこの角度から新たに「塩」というワードを調べ直してみると、塩の精製自体に「海」が不可欠な存在であることを知った。

などという一節が出てくる。
塩の精製に海水が必要などというごく基本的な知識すら持ち合わせていない人物が神社の鏡や神像を語っても、「この書き手、大丈夫か?」と心配のほうが先に出るのはやむを得ない。

もう一つ、1冊を通して、大小の断り書きが繰り返し出てきて、その都度食欲をそがれた。
この話は前の文庫に入れることができなかったものだが、とか、姉妹編の文庫でも登場いただいた誰それの話で、とか、センシティブな部分が多いため内容に手を加えている、とか、この人物は霊能・霊感の類はない、とか、ある、とか、要するに本題の手前であれやこれや言い訳めいた弁解が多すぎるのだ。
しかし、読み手からしてみればそんな言説はとくに必要ない。それらの説明でリアリティが増すとか、わかりやすい、とか言うわけでもなさそうだ。
「〇〇のAさんの話」
で十分。
それで読み手が震えないなら、それまでの話。

・・・それにしても、作者の前のめりか編集の入れ知恵か知らないが「現代雨月物語」とは大きく出たな。

いや、これは嫌み、皮肉として書いているのではなく──いや、現時点では嫌み、皮肉でしかないのだけれど──「雨月物語」を自称するなら、今後、より頑張って雨月物語に負けない心震えるモノスゴイものを書いてください、読ませてください。実話怪談ファンの切なるお願いだ。

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