『SF&ファンタジイ・ショートショート傑作選 吸血鬼は夜恋をする』 伊藤典夫 編訳 / 創元SF文庫
10年ばかり前、北鎌倉の古書店を舞台とする『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズがヒットした際、その中で取り上げられた『海外ロマンチックSF傑作選② たんぽぽ娘』(集英社 コバルト文庫)が実店舗において異常な高値を招き、また各社から「たんぽぽ娘」を収録した新刊が相次いだことがあった。
その「たんぽぽ娘」を翻訳、日本に紹介したのが伊藤典夫である。
伊藤典夫はさまざまなSF作家、作品を紹介し、この国にSFを定着させるのに大きな功績を残した翻訳家、評論家で、
SFファンがSFファンであることを無条件に楽しく思える時代を中心に
主に短篇
ガリガリのハードSFを除き、
ニュー・ウェーブを除き、
サイバー・パンクを除き、
膨大な海外SF作品を紹介してくれた人物である。
※個人の感想です。効果には個人差があります。
昨年の暮れに創元SF文庫から発行された『吸血鬼は夜恋をする』は、1975年に文化出版局から発刊された単行本に9篇を増補して文庫化したもの。
「たんぽぽ娘」のロバート・F・ヤング、映画「アイ・アム・レジェンド」の原作者リチャード・マシスン、『火星年代記』『刺青の男』のレイ・ブラッドベリ、『残酷な方程式』のロバート・シェクリー、『虎よ、虎よ!』のアルフレッド・ベスターらの計32短篇が収録されている。
作品はごく一部を除き1950~60年代に英語圏で発表されたもので、SFというよりファンタジーやホラーと称すべきものも少なからず含まれている。
現代から見ると女権論者が嚙みついてきそうな調子のいいお色気もの、科学的にイージーな不老不死もの等も含まれてはいるが、それらは時代相応のフィクション、ファンタジーとみなして楽しむべきか。
雑感。
リチャード・マシスンが5篇も選ばれているが、これが他の収録作に比べていずれも怖い。2020年代に書かれたとしても不思議はないし、新たな映画の原作とされても違和感はない。
デイヴィッド・H・ケラーの「地下室のなか」は収録作で一番古い1932年の作品だが、ホラーとして必要な要素を圧縮して煮詰めたような出来。Weird Tales誌でH・P・ラヴクラフトと同時期に書いていたらしく、クトゥルフを最初に女体化させた人らしいが、ラヴクラフトとの親交はあったのだろうか。
ロバート・F・ヤングやアラン・E・ナースの切ないロマンスを読むと、なぜジャック・フィニーから選ばれなかったのか不思議に思う。
アシモフやハインラインはともかく、フレドリック・ブラウンがないのも意外。もともと肌に合わなかったのか?
さらに雑々感。
年末に放送されたNHKスペシャル「超・進化論」の第1集「植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、「大人しくて動かない、鈍感な生き物」とされてきた植物が、最新の研究によると実は想像外に動的なものと紹介されていた。なにしろ、虫に葉を食べられたらその虫の苦手な物質をその葉の中で発生させ、さらにそれを離れた別の株になんらかの方法によって伝達し、さらにその虫を攻撃する天敵(虫や鳥)を呼び寄せる物質を発生させる、というのである。
ところで、『吸血鬼は夜恋をする』収録の「プロセス」(A・E・ヴァン・ヴォークト)では、敵対的な宇宙船の近接を知った森が、以下のように反応するさまを描く。
けいれんは、つぎつぎと隣りあわせの木々に伝わりながら規模を拡大し、やがて音響と圧力をつくりだすまでになった。
いまや森はその全身から敵意を放射しながら、空にある物体の接近を待ちうけていた。
森は打ちのめされた部分から撤退をはじめた。樹液を汲みだし、傷ついた領域の振動をとめた。
などなど。
なんとなく、さすがは『宇宙船ビーグル号の冒険』のヴォークト、と感じた次第。
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