因縁でございます 『橘外男 日本怪談集 蒲団』 中公文庫
奇譚の達人、怪人橘外男(タチバナ・ソトオ、本名。キチ・ガイ・オトコの読みは俗説)の短篇集。外男の短篇集の文庫化というと、1970年代の現代教養文庫か、2002年発行のちくま文庫『怪奇探偵小説名作選(5) 橘外男集 逗子物語』以来か。
このちくま文庫版も、青魚のように足の早いちくま文庫だけあって、発刊に気がついたときには書店店頭から消えており、後になって図書館で借りて読んだ記憶がある。
いずれにしても、「蒲団」「逗子物語」の2つのアンソロジーピースが気軽にまとめて読めるようになったのは慶賀のいたり。
とくに上州(群馬県)多野郡某町の古着屋が仕入れた上等の「蒲団」に纏わる忌話をまとめた標題作は、帯の煽りに「日本最凶」とあるもうなずける、身にじくじく染み入る湿った恐怖の一篇だ。怨念、復讐系の恐ろしい話は世に少なくないが、説明のつかない不気味な手触りの濃縮という点で田中貢太郎「蟇の血」と双璧かと思う。
同じく収録された「逗子物語」と「帰らぬ子」は、一転、怪異のみならずそれを語る作者の温かな目線が見え隠れする。
「逗子物語」は子どもの霊を素材にして組み上げた怪談、そういえばそれまでだが、終幕、事の次第を知った語り手に対し「そうだ走れ、頑張れ」と握ったこぶしを振りたくなる珍しい決着。一方の「帰らぬ子」は私小説的な書きぶりで、亡き子への心留まりを思いのさま語ってその哀切は室生犀星の「後の日の童子」に迫るものがある(霊記としての完成度は「後の日の童子」のほうが上かもしれないが、「帰らぬ子」の前半、病む子への愛おしさを手放しに綴ったようなところがまた捨てがたい)。
「逗子物語」、ことに「帰らぬ子」の後半など、外男もまた人の親、家族の人であったか、と妙な感慨を抱く。子どもの病に原稿など構っていられない、だが原稿を書かねば子どもの治療費が、など、およそ外男の短篇のイメージではない。
それはエロ・グロ、綺想と悪趣味の限りを尽くし、現代では雑誌掲載はおろか巻末のお断りなしには文庫化も難しいかもしれない「陰獣トリステサ」や「青白き裸女群像」を読んでいると一段と興趣に打たれる。
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