『2019 ザ・ベストミステリーズ』 日本推理作家協会編 / 講談社文庫
先に四の五の難癖、ぐだぐだ不平不満を並べ立てておこう。
講談社文庫、日本推理作家協会によるミステリー傑作選は1974年から現在にいたる堂々たる選集で、各社から発行されている類似のミステリ短篇集中でも品質、バラエティの両面から圧倒的で、自然、長年つきあってきた。
ただ、最近は、収録作の品質(時代、あるいは個人の嗜好によって評価が異なるのは百も承知のうえで)その他のため、必ずしもお薦めしかねる面も少なくない。
まず、タイトルについて、ここ数年の
『ベスト8ミステリーズ2015』
『ベスト6ミステリーズ2016』
『ベスト8ミステリーズ2017』
『2019 ザ・ベストミステリーズ』
といったネーミングについては、以前より指摘しているとおり、あたかも仮タイトルのまま発行されたかのようでどうもいただけない。
初期の、たとえば『殺人現場へどうぞ』『あなたの隣に犯人が』『殺しの一品料理』『にぎやかな殺意』『凶器は狂気』などなどといった標題がどれほど読み手をワクワクさせてくれたか、それを思い起こすと、まるでガスの抜けたビールのようだ。
ほかにも気になることはある。1冊あたりのボリュームの問題だ。
シリーズ最初の『犯罪ロードマップ』が612ページだったのに対し、最新刊は456ページ。
ページ数だけではない。最近の文庫本は読みやすさを重視して文字を大きくしているのが普通で、このシリーズに限ってみても最初の『犯罪ロードマップ』が各ページ
縦43文字×19行
であったのが最新『2019 ザ・ベストミステリーズ』では
縦38文字×17行
つまり、もし1ページにぎっしり文字を埋めたならその文字数が約80%に減っているということだ。
ページ数の推移も掛け合わせるとざっくり約40%の減。
その結果、収録作品数も、17作だったものが9作にまで落ちている。
1冊あたりの読み応えを薄く感じてしまうのは否定できないだろう。
では、最新刊の『2019 ザ・ベストミステリーズ』の内容を見てみよう。
収録作は以下のとおり。
澤村伊智「学校は死の匂い」
芦沢 央「埋め合わせ」
有栖川有栖「ホームに佇む」
逸木 裕「イミテーション・ガールズ」
宇佐美まこと「クレイジーキルト」
大倉崇裕「東京駅発6時00分のぞみ1号博多行き」
佐藤 究「くぎ」
曽根圭介「母の務め」
長岡弘樹「緋色の残響」
一読の印象は──学校が舞台の作品が続く、それも含めて子どもが被害者となる作品が多い、事故死を除くと人が殺される事件がほとんどない。
もちろん、ミステリ、サスペンスとして、人死にが出なければならないわけではない。
ただ、こういった選集でそうなると、「やむを得ない事情、心情から殺人を起こす」のではなく、「目の前の事件から目をそらしたい」程度の事件が多い、ということになってしまう。それでは自己保身、あるいは見栄の延長で、ミステリ短篇として十分面白いものではあっても、ドラマとして読み手を揺るがすほどのものにはなり得ない。
念のため言っておくと、収録各作品は、年度のベストに推されるほどだから、決して出来栄えが悪いわけではない。いや、失礼、いずれも非常によくできており、入口のキャッチから伏線、展開、落としどころまで緻密かつ巧みな作品ばかりではある。ネタバレを避けるため作品名は記さないが、見事転がされた、という作品だっていくつかあるし、佐藤 究「くぎ」のように、登場人物のおかれた環境とその立ち振る舞いに熱帯雨林の濃密さを感じさせる作品もないわけではない。
だが、、、
スマートすぎる作品がこうまで並ぶと、やはりどこか物足りない思いが残る。
この時代、書き手・読み手ともに、もう重い荷物を運べなくなってしまってきている、そんな気さえする。
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