『現代マンガ選集 異形の未来』 中野春行 編 / ちくま文庫
「サイボーグ」(水木しげる)
「そこに奴が…」(山上たつひこ)
「300,000Km./sec.」(あすなひろし)
「ポーチで少女が小犬と」(萩尾望都)
「至福の街」(いしかわじゅん)
「P」(とり・みき)
「アカプルコ・ゴールド」(吉田秋生)
「レボリューション」(手塚治虫)
「ぼくとフリオと校庭で」(諸星大二郎)
「Return」(浦沢直樹)
主に1960年代、70年代に描かれた作品集だが、いずれも現在でも十分鑑賞に堪え、かつ希少性、資料性に長けた、堂々たるラインナップである。
日本で最初に「サイボーグ」という言葉をマンガに取り入れたと言われる、水木しげる「サイボーグ」。宇宙開発を描いて海外ドラマ「トワイライトゾーン(ミステリーゾーン)」や「アウターリミッツ」を彷彿させる救いのない物語だが、コマの圧倒的な黒さ、重さがお子様ランチでもサラリーマン向けペーソスでもない、いわば「純水木」を呈していて嬉しい。
あすなひろしはなぜか90年代以降ほとんど作品を発表しなかった。そのため、その作品については不遇な扱いを受けているとしか言いようがないが、厳しいテーマ、シャープな描線、ことに一瞬で空気が冷えるような冴えた演出は他の追随を許さない。
「300,000Km./sec.」は彼の貴重なSF作品だが、広島の被爆を描いた「林檎も匂わない」などと同じく、作者の中で純文学も青春ドラマもSFもホラーも境目のないものだったことがわかる。再評価、というより、そもそもモノスゴイ作家であるという評価のもと、大半絶版になってしまった作品集の再発が強く望まれる。
萩尾望都「ポーチで少女が小犬と」は12ページの掌編だが、20世紀の短篇マンガの傑作選を編むなら樹村みのり「海へ」や大島弓子、岡田史子らのいずれかの作品と合わせ、絶対に外したくない無二のマスターピース。天才の仕事とは、このようなものを言う。
いしかわじゅん「至福の街」も素晴らしい。このタッチでこれが描けるか。山上たつひこの「そこに奴が…」についても似たことが言えるのだが、テーマに作品が勝っている。
逆に、少し食い足りなく思われたのがとり・みきと諸星大二郎の両名。
好みもあるが、ほかの収録作の重み、色合いに比べ、並べて立てるならもっとほかによいものがあったのでは、と思われてならない。まあ、諸星大二郎の作品など、「異形の過去」か「異形の未来」ばかりなので、選択は至難の業だったとも推察するが、他の作家についてはいずれもレアな採掘場から掘り出しているだけに、何も単行本のタイトル作を選ばなくとも──という気持ちが残る。
ところで、『現代マンガ選集 異形の未来』はSFマンガのアンソロジーとしては良い企画であり良い選択であるように思われるが、1冊の「本」として、少し気になることがあった。
長くなりそうなので、次の項に続く。
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