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2021/12/16

あれはそなたに斬りつけるな 『耳袋秘帖 南町奉行と深泥沼』 風野真知雄 / 文春文庫

風野真知雄について調べてみよう、考えてみよう、という方がおられたなら、角川文庫の『完本 妻は、くノ一 (二) 身も心も/風の囁き』の「完本版あとがき──あれも書きたい、これも書きたい」は読んでおくべきだろう。
 
こういう作家の在り方もあるのか、という点で目から鱗、鼻からアメフラシ。
 
こんなであんな作品を書いてきたのか。
いや、こんなだからこそ量産できるのか。
真か偽か、冗談ではないのか。
ほんの7ページのあとがきだが(なのでここで引用、抜粋はしない)、この作者の200を超える時代小説の一々にも劣らぬたまらない面白さだ。
 
Photo_20211216180901 添付画像はその風野真知雄、「耳袋秘帖」シリーズの新作。
だいわ文庫版から数えて通算37冊め、でいいのかな。
 
「耳袋秘帖」シリーズは江戸時代に書き残された雑話集『耳嚢』の著者、南町奉行根岸鎮衛を主人公に、怪談の謎解き、お江戸の悪党狩り、下町の人情譚などを盛り込んだ(強いてジャンルを唱えれば)捕物帳。
 
なんといっても実際に『耳嚢』に書き残された怪異譚を現代の視点から推理、解明、それを江戸の町のトラブル解決に結び付けた初期の十数冊が抜群に面白い。
その後、面白いもの、ややダレを感じるものなど、藤井聡太のタイトル戦のAI分析グラフのように上がったり下がったり下がったりが続いたが、今回の『南町奉行と深泥沼』は最近では屈指の興趣深さではないか。
 
江戸の旗本、山崎家の屋敷にある「がま沼」とそこに出没する奇妙な生き物。消えるそば屋、死んで見つかる若い女中。
また、その「がま沼」と山崎家の所領にある「深泥(みどろ)沼」が繋がっているとの噂は・・・。
 
このシリーズは、老いてなお精力的な元ヤンキー根岸鎮衛と彼を慕う個性豊かな部下たちの活躍を描くものだが、本作は珍しく根岸に疲れのようなモヤが感じられる。
また、いつものように明晰な推理、抜刀で白黒つけるのでなく、曖昧で不快な人間関係の穢れが残されて終わる。
 
『完本 妻は、くノ一 (二)』のあとがきのようなモノの書き方、それでこの寂寥感が描けるのなら、それはもう羨ましいとしか言いようがない。
書き手、書き方など問題ではない、書かれたものが読めるか読めないか。
その意味で本シリーズはすでに一流である。

 

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