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2021/08/21

Dazein 『二平方メートルの世界で』 前田海音 文、はた こうしろう 絵 / 小学館

Photo_20210819182701小学生3年生の、脳神経の病気で検査や長期入院を繰り返す少女が書いた作文をもとにした絵本──そんな見てきたような紹介はしたくない。違う。

間違っても「小学生にしては」などと評すべきではない。
「可哀そう」と口にするのもおそらく正しくない。
「わかるわかる」としたり顔するのは愚かだし、「もらい泣き」してどうこうなる話でもない。

ちゃんと正面から読もう。
一個の表現として、この作品は崖のように高く、崖のように深い。
決して感情に流されず、ノンフィクションとして理知を踏まえ、主張のための構造は堅牢だ。

作者はまず、自身の家族やほかの入院している子どもたちを見据え、その苦悩、孤独のありようを誠実に、正確に把握、比較する。

  どうしてわたしだけ、とは思わない。
   (中略)
  何か悪いことをしたから病気になったわけでもないし、
  理由をさがしてもしかたがない。

苦しみは苦しみ、孤独は孤独として評価しつつ、生きることは自分に、また他者にかかわることだと定義し、それによって成り立つはずの世界を語る。
その世界に向かい、二平方メートルのベッドの上からいかに挑むかを考える。

   (前略)
  そして、そのことを文字にできるぐらいには、
  わたしは元気で自由だ。

   (前略)
  生きていることのすばらしさは気づきにくいということも、わたしは知っている。

この作者の覚悟を受けた、はたこうしろう氏の作画も素晴らしい。

一つ、読者として判断に困るのは、
同じように(という言葉遣いはそもそも正しくない。同じ病気の、同じ子どもなどいない)長い入院生活を送る子どもたちに、
この本を薦めてよいのかどうか
ということだ。機会がないわけではないだけに、迷う。

ただ、願わくば世界中のあらゆる病気の子どもたちが、この本に出会って、もしくはこの本に出会わなくとも、それぞれの「二平方メートルの世界」でそれぞれ将来にゆめを持ち、それぞれのできる限りのことに挑めますように。

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