人生は一度きり 『薔薇はシュラバで生まれる 【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】』 笹生那実 / イースト・プレス
2020年2月発行。
取り上げなくては! と思っているうちに1年経ってしまった。
個人的には昨年発刊のコミックエッセイで、いや、普通のコミック全部合わせてもベストな1冊。
70年代、あの、少女マンガがきらびやかかつ先鋭的だった時代に自身プロデビューする一方、美内すずえ、くらもちふさこ、樹村みのり、三原順、山岸凉子らの数々の名作にアシスタントとしてかかわってきたマンガ家笹生那実が当時の回顧録を、それぞれの作家の顔をそれぞれの作家のタッチで描いたコミックエッセイ。巧いんだ、これが。
ページを多く割いた美内すずえの「シュラバ」──相次ぐ徹夜、風呂にも入れない、資料がない、よれよれの服装──のあれこれはもちろん、山岸凉子の大問題作「天人唐草」作成時のエピソードがぞくぞくくる。もう一つ、樹村みのり本人の描写が実に作品とマッチしていて嬉しい。その際にアシスタントした作品が例の「40-0」! もう当時の少女マンガファンとしてはブレークダンス踊りながら逆立ちして激辛ラーメンすすってみせたい心持ちである。
※(雑)「40-0」や「わたしの宇宙人」をはじめとする当時の樹村みのり作品のいくつかで、「結婚」を扱う少女マンガもあり得ることを教えられた。大仰なことをいえば、少女マンガの臆病な男性読者は「天人唐草」で恋愛、結婚から恐れ、飛びのき、「40-0」でおずおずともう一度それを前向きに検討してみたのだ。
美内すずえ宅で初めてアシスタントをした際の話題に「ポーの一族シリーズの『小鳥の巣』を描き終えられたばかりの萩尾望都先生がもうすぐイギリス留学に」という話が出てくることから、本書の内容が時期的に『一度きりの大泉の話』とかぶっているのは間違いない。
萩尾望都や竹宮恵子、ささやななえら、大泉関係の作家のところで直接アシスタントをしたという話は出てこない。出版社や雑誌、編集者など、マンガ家としての「生息域」が違ったのか、付き合いはあっても扱うエピソードとしてこぼれたのか、そのあたりはよくわからない。
『一度きりの大泉の話』と明らかに違うのは、何某の作品は読まない、連絡もとらないと頑なに殻を閉ざす萩尾望都に比べ、本書はすべてのプロットを各作家(故人たる三原順は除き)に連絡して了解を取り、その他言葉遣いなど礼を尽くして描いているということだ。
笹生那実がアシスタントとして雇われた側だった、ということもなくはないかもしれないが、そもそも本作りとして当時の少女マンガファンに対する心尽くしのエンターテインメントとして提供しようとしたことが大きいのではないか。
本書にはブラック企業も裸足で逃げ出す「シュラバ」の数々が描かれる。大きなエラーをしでかすこともある。
アイデアや品質、人気を競うこともあるだろう。それを日々重ねる間、作家どうし、作家とアシスタント間のトラブルがまったくなかったとは思えない。
著者自身、美内すずえに初めての訪問時、初めてのアシスタント時の粗相についてのちに謝罪する場面が描かれているが、多忙極まりない美内にすれば無条件に笑って許せるものばかりではなかったはずだ。
だが、笹生那実はそういった事件を作家当人に胸を張って見せられるよう取捨選択し、整え、濾過、蒸留し、読者にとって楽しめる、心温まる懐かしくも楽しいエピソード集として1冊にまとめ上げた。
これを美しい本と言わずしてなんとしよう。
それにつけても、三原順、なあ。ああ、三原順。三原順。
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