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2021/03/29

稀覯 『五次元世界のぼうけん』 マデレイン・レングル原作、渡辺茂男訳 / あかね書房

Amazon 右の画像をご覧いただきたい。
4月1日なら笑ってすまされそうだが、これはフェイクではない。

この画像は1965年8月に発刊されたあかね書房の児童書『五次元世界のぼうけん』のAmazonにおける古本市場を示すものである(2020年11月4日時点)。
最安値の20,000円はともかく、898,789円、1,515,151円・・・いったい何事だろう。
※2021年3月29日現在、最安値35,280円、最高値898,789円。

『五次元世界のぼうけん』は、SF的なアプローチと内向的な作風で知られるマンガ家清原なつのが60年代後半から70年代にかけて、マンガ家を目指す自身の少女時代を描いたエッセイコミック『じゃあまたね』で取り上げた児童向けSF作品で、本ブログでもその項で懐かしく扱った。

『五次元世界のぼうけん』は烏自身が小学生時代に読んだ懐かしい1冊、というだけでなく、大げさなことを言えばその当時同じ図書室で読んだ『ムーミン谷の冬』『ドウエル教授の首』等と合わせて、自身がのちにSFに入れ込み、パソコン雑誌の編集者になる遠因となった本の一つである。
Photo_20210329181302 『じゃあまたね』で取り上げられているのを見て懐かしく思い、古本でも入手できればと思って調べたところ、その当時古本売価が9,600円、それがすぐ20,000円くらいに跳ね上がり、ちょっと無理かと思っているうちにとうとう150万円の売価までついてしまった。
このとんでもない金額が『じゃあまたね』で紹介されたことと関係するのかどうかはわからない。古書店側の入力ミスといったこともあり得るが、それなら89万円、151万円と並ぶ理由がわからない。

その後、あちらこちらを探しているうち、ちょっとした伝手で借りることができ、予想外にあっさり読むことができた。

ざっと50数年ぶりに巡り合えた『五次元世界のぼうけん』はテープで補修されたレンガ色の地味なハードカバーで、内容はアメリカの科学者ファミリーが宇宙をまたにかけた勢力争いに巻き込まれ、メグ、チャールズの姉弟とその友人のカルビンの3人の子どもたちの活躍で行方不明になっていた父親を取り戻す、というもの。

Photo_20210420014301 問題は黒い雲に覆われた魔の天体カマゾッツで、これが絵に描いたような「共産主義国家」なのである。
つまり『五次元世界のぼうけん』は1960年代のアメリカの空気そのままに、東西冷戦、反共産の風潮をSF、ファンタジーの衣を借りて描いたものなのであった。中央情報センターの「責任者」という、オーウェルの『一九八四年』のビッグ・ブラザーにあたる不気味かつ強大な敵キャラも登場する。
(子どもたちにカマゾッツと地球の実情を教え諭す占い師のようなキャラクターの名が「ハッピー・メディアム」、つまり「中庸、中道」とあるのには笑った。)

ただ、そういった思想的背景はさておき、脅迫的支配の徹底したカマゾッツの不気味さ、それに対する(のちのハリー・ポッターを想起させるような)不思議で魅力的な味方キャラたち、子どもたちならではの協力、子どもたちならではのいがみ合いなど、読みどころは多く、読み物としては現在読んでも十分楽しいものだった。

子ども向け冒険ファンタジーとしてはともかく、明示的すぎる反共思想に貫かれた『五次元世界のぼうけん』が今後再評価されることは難しいと思うが、
・・・と書きかけて、ここしばらくの国際情勢に鑑みると本当にそうだろうか、という疑問も沸く。

『五次元世界のぼうけん』は最後の数ページにおいてあっさりと一応のハッピーエンドを迎えてはいる。
しかし、「あれはどうなったのだろう」「あれは?」「あの人は?」などなど、非常に中途半端な終わり方であることもまた違いない。

新しい『五次元世界のぼうけん』は書かれ得るのか、書かれるならそれはどのようなものとなり得るのか。
できれば穏やかな展開を期待したいが、それはもう、無理か。

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