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2020/09/18

おうちおばけ 『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』 朝宮運河 編 / ちくま文庫

Photo_20200918011501 いろいろ緩和されてきているとはいえ、いまだ「テレワーク」「ステイホーム」ご推奨の折柄、ちくま文庫からは「家」にまつわるホラー傑作選の登場である(6月10日発行)。

収録11作に目を通して思うことは、「家」にまつわるホラー作品は怖い、ということだ。

いや、もちろん、出来のよいホラーが怖いのは当たり前っちゃ当たり前なのだが、こと「家」がホラーの主題となるときは、閉ざされた逃れられない空間、そしてその空間でかつて何か酷いことがあった、今また起こりつつある、ということなのである。
その結果、「家」ホラーは、因果応報の「因」たる過去の陰惨な事件、そして「果」たる現在の恐怖、そんな豪華二段重ね折詰となることが少なくない、しかも往々にして「果」もまた陰惨なのである。ちょっと妖しい雰囲気を感じた、意味不明な光景を見た、あれはいったい何だったのだろう・・などという甘い幕閉じは許されない、誰かが死んで、さらにまた死んで、それでもおさまらない、それこそが「家」にまつわるホラーの本領なのだ。

本アンソロジーはそんな「家」にまつわるホラー作品の中から、正統派怪談、都市伝説ドキュメント(岐阜の町営住宅の騒ぎが懐かしい)から「怪」を語ることでホラーとなす(?)実験的テキストまで、いずれも水準を余裕でクリアする作品を選び抜いて禍々しい。

以下、収録作について、それぞれ余計な一言。

「影」若竹七海
アンソロジーにいざなう軽妙な怪談。ただ、落ちはこれでよいのか? 同じ作者の葉村晶なら鼻で笑いそうな気がするが。
「ルームシェアの怪」三津田信三
秀逸。怪談としての精度の高さ、などということを思う。
「住んではいけない!」小池壮彦
「家」にまつわる都市伝説コレクション。今日、この私評を書いている、まさにその地名が登場して固まった。
「はなびえ」中島らも
すでに「俺の知り合いの話なんだけど」とエピゴーネンが巷にあふれる大古典。ところでこの短篇で一番怖いのは、怪異より怪異の元となった事件より、この部屋を元カノに紹介して平気な男、ではないか。
「幽霊屋敷」高橋克彦
優れた怪談は切なさと紙一重。もし自分が語り手であったなら。
「くだんのはは」小松左京
今さらまた? と思いもしたが、ときにアンソロジーなどに混ぜてヤングジェネレーションに残す作業も必要なのかもしれない。ちなみにこの作品における「家」は、厳密には家屋敷、マンションなど建築物としての家でなく、「家系」「家柄」のほう。
「倅解体」平山夢明
「やっちゃえNISSAN」の語調が似合う、ファンキーでスプラッタなホラー。やっちゃうなー、平山さん。
「U Bu Me」皆川博子
この人は、ときどき作品中に無理やり新しいモノを取り込もうとする、その際の勘違いが気になる。本作でいえば、田舎の藁ぶき古民家で電話回線も引かずに暮らす女性が、その家でパソコンでニフティ介してメールのやり取りをしてのける不思議(発表年度は1998年)。
「ひこばえ」日影丈吉
これも古典中の古典。家が家族を飲み込む展開も怖いといえば怖いが、それを眺めている語り手の立ち位置が薄気味悪い。
「夜顔」小池真理子
中盤までは恐ろしさより切なさの針の揺れのほうが大きい。ところが、真相が明らかになってから最後の数ページ、不謹慎ながら笑いがこみあげてきてしまう。ギャグの要素はないし、作者にそんな意図もないように思う。でも、なぜだか、可笑しい。 
「鬼棲」京極夏彦
鍋や楽器など、長年使われた器物が化け物になる(付喪神)ということがあるなら、家、いや、家族そのものがオバケと化すこともまたあるかもしれない。そんなことに思いをはせた。不思議なのは、この作者は今なおこういった切れ味鋭い作品を書ける、書いているにもかかわらず、最近は『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』当時の読み手の熱狂が全く感じられないことだ。そういえばこの人こそ陰惨なのに笑えるミステリ、ホラーを書かれた人だった。笑いの芯がこちらとブレてしまったということだろうか?

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