東雅夫を映す函 『平成怪奇小説傑作集(3)』 東 雅夫 編 / 創元推理文庫
巻の参。
前巻に続き、微妙な違和感が、それが微妙なだけに、気になる。
収録作一覧:
京極夏彦「成人」
高原英理「グレー・グレー」
大濱普美子「盂蘭盆会」
木内昇「蛼橋」
有栖川有栖「天神坂」
高橋克彦「さるの湯」
恒川光太郎「風天孔参り」
小野不由美「雨の鈴」
藤野可織「アイデンティティ」
小島水青「江の島心中」
舞城王太郎「深夜百太郎」
諏訪哲史「修那羅」
宇佐美まこと「みどりの吐息」
黒史郎「海にまつわるもの」
澤村伊智「鬼のうみたりければ」
顔ぶれだけ見ればまあおおむね「平成」と言えなくもない。しかし、1巻、2巻の際にさんざん指摘した事柄が今回も気になる。
たとえば、いくつか作品の冒頭、ないし数行めを抜き出してみよう。
灰色だ。仰向けば水滴が顔のはしばしをつつく。(「グレー・グレー」)
玄関の格子戸に片手をかけると、すと横に滑って音もなく開いた。(「盂蘭盆会」)
蛼橋(こおろぎばし)のたもとに、良(え)い薬種屋があるから一度行ってごらんな。(「蛼橋」)
晩秋の空は夕刻からかき曇り、小糠雨となる。(「天神坂」)
鬢(びん)もあおあお。丸刈りあたまに、大きすぎはせぬか、目深(まぶか)に、白線ひとすじ、学生帽。(「修那羅」)
「格子戸」、「小糠雨」、「丸刈りあたま」。
どこが平成。昭和、大正、いっそ明治。
編者解説も、
『三田文学』の伝統を現在に受け継ぐ──
岡本綺堂の『三浦老人昔話』を思わせるレトロな味わいが好ましい──
鏡花の名作「海異記」にも通じる──
等々、明治から昭和期の作家、作品への賛歌が繰り返される。
よくわからないのだが、綺堂を思わせる、鏡花に通じる、そう言われて現役作家は嬉しいものなのか? 自分なら御免だ。よし、鏡花の語り口調を模して書いたとしても、それは技法としてそうしているはず。エピゴーネンから始めたとしても、その果てに目指すことは綺堂や鏡花を模することではない。
また、平成という時代をどう語るかは人さまざまだろうが、こと「怪奇」について、大ブームとなった「実話怪談」を抜きに語ることはできないだろう。
しかるに本傑作集では平山夢明、木原浩勝、中山市朗から一編も採らず(明らかに実話怪談系といえるのは黒史郎の1編のみ)、また小野不由美についても
究極の怪談実話系作品というべき『残穢』および『鬼談百景』の連作といった平成怪奇小説の金字塔を相次ぎ打ち立て
と持ち上げながら、掲載作には「巧緻な短編作家としての技倆の冴えと円熟ぶりがなにより印象深い」『営繕かるかや怪異譚』からの1編を選ぶ。それは好篇ではあるかもしれない、しかし小野不由美を、平成を代表する作品かと問われれば、どうだろう。
東雅夫が「実話怪談」を「怪奇小説」と認めない、ないし上位におかないのは別にかまわない。
そのあたりは3巻巻頭に京極夏彦「成人」を置き、その1行めに
断っておくが、これから記す事柄は実話ではない。
と断言させて、いっそすがすがしいばかりだ。
ただ、その結果、『平成怪奇小説傑作集』全3巻は、「平成」に発表された作品の群れでありながら、なにか「平成」にそぐわないものになり果てた。平成を銘打つならもっとアレだろう、アレもほしい、アレがないのはおかしい。
要するに、編者はこと「怪奇小説」に関して「平成」が嫌い、否、大嫌い、なのである。
「平成」の、と銘打ちながら、実際の「平成」から目を逸らせたくてしかたなかったのである。
昭和に、大正に、明治に還りたくてしかたないのである。
そんなに嫌いなら、アンソロジーの肩に「平成」なんて付けなければよかったのに。
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