東雅夫を映す水面 『平成怪奇小説傑作集(2)』 東 雅夫 編 / 創元推理文庫
『平成怪奇小説傑作集』、巻の弐。
平成10年から19年にかけて発表された怪奇小説の佳作を編む。
ところで。そもそもこの手の「怪奇」アンソロジーに収録される作品は、ざっくり、
幻想小説
怪奇小説
ホラー
怪談
に分けることができる。
もちろんこれらの定義は人により場によって異なり、境界線は曖昧だ。
たとえば「幻想小説」と「ファンタジー」は同じ函に入れることもできるが、後者を“剣と魔法と冒険の物語”とするとまったく様相が変わってくる。
また、「怪奇小説」と「ホラー」も厳密には別の枠。論より証拠、「SF」という大きな括りには「幻想小説」「怪奇小説」「ホラー」「怪談」いずれも含まれるが、「純文学」という括りでは「ホラー」「怪談」は除外される。
などなど。
あくまで私見ではあるが、上の切り分けを慮るに(くどいようだがあくまで私見では)「怪奇小説」にはホラー風味、つまり人を怖がらせる要素がある程度必要で、ホラー風味のない「怪奇小説」は「幻想小説」たりえても「怪奇小説」たりえないのではないか。
もう一点、その、(「怪奇小説」にも風味の求められる)「ホラー」においては、知や論ではあがなえない、否、知や論をかなぐり捨てた、非現実的な一種のブレークスルーがほしい。
逆に、「幻想小説」においては、知や論を精一杯尽くしてほしい。尽くして尽くして、それでも説明のつかないもの、それこそが揺るぎなき幻想である。精神の手綱を緩めた酩酊、そんなものは酒や薬でも得られるタワゴトに過ぎない。作品以前のものだ。
・・・という目で『平成怪奇小説傑作集(2)』を見てみると、全体に、「怪奇小説」より「幻想小説」と称すべきものが少なく。率直にいえば、そこが物足りない。
一つには、下の収録作一覧のタイトルを見てもわかるように、隠れテーマとしての「水」を通底させる、というこだわりが強かったため、一部の作家においては選択が偏ったということもあるかもしれない。が、それ以上に、選者である東雅夫の「怪奇小説」の定義がやや「幻想小説」の側に近いようにも思う。
たとえば津原泰水「水牛群」、福澤徹三「厠牡丹」はいずれも「幻想小説」としては屈指の傑作かもしれないが、これらははたして「怪奇小説」の主流といえるのだろうか? 1冊の選集の中に個人の内面の崩壊を描くこの2作が並んでいることに若干の破綻を感じる。
──何が言いたいかといえば、早い話、ほんの一部を除けばどれもこれも「ちっとも怖くない!」のだ。
平成の半ばといえば、鈴木光司の『リング』や『新耳袋』シリーズのヒット、また平山夢明らの登場にともなう実話怪談の勃興、その結果、生々しい「本当に怖い話」への欲求が巷にあふれかえった時期だった。
にもかかわらず、本選集は怪奇小説の「小説」のほうにこだわって、作品としては優れているが、およそ怖くはない、失礼を承知でいえば“乙にすました”上品な作品が並んでいるように思われてならない。
平成の怪奇小説傑作集をうたうなら、もう少し別の、ざっくり荒い、スピーディーかつ生臭い要素がもう少し必要だったのではないか。
収録作一覧:
小川洋子「匂いの収集」
飯田茂実「一文物語集(244~255)」
鈴木光司「空に浮かぶ棺」
牧野修「グノーシス心中」
津原泰水「水牛群」
福澤徹三「厠牡丹」
川上弘美「海馬」
岩井志麻子「乞食(ほいと)柱」
朱川湊人「トカビの夜」
恩田陸「蛇と虹」
浅田次郎「お狐様の話」
森見登美彦「水神」
光原百合「帰去来の井戸」
綾辻行人「六山の夜」
我妻俊樹「歌舞伎」
勝山海百合「軍馬の帰還」
田辺青蛙「芙蓉蟹」
山白朝子「鳥とファフロッキーズ現象について」
ちなみに、東雅夫のアンソロジーに評が厳しいのは、怪奇幻想小説を浴びるように読み、記憶し、編纂、批評することを職業とできている氏へのひがみ、やっかみの類であるとそしられてもそれは否定しません。
だってそりゃあ羨ましいじゃないですか。ねえ。
──おまけ。
勝山海百合の掌編「軍馬の帰還」は、遺憾ながら、NHKでも何度かドラマ化された庄野英二『星の牧場』の美味しいところどりとしか思えなかった。
よくある話というなかれ、少なくともこういった傑作集に推すのは『星の牧場』のモミイチ、ツキスミに礼を失しないか。
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