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2019/09/23

東雅夫を映す鏡 『平成怪奇小説傑作集(1)』 東 雅夫 編 / 創元推理文庫

Photo_20190923180001 まず、謝罪、訂正。

以前、同じ創元推理文庫の『日本怪奇小説傑作集(3)』を取り上げた際、その収録作選択について次のように書いた。

> もう1つ,ビビッドな現代作品が抜けていると強く感じる原因は,昨今のポストモダンホラーがここに見られないことにあります。

要するに『リング』『ぼっけえ、きょうてえ』『パラサイト・イヴ』等で洛陽の紙価を高からしめた角川ホラー文庫に触れてもいないことを指摘したのだが、続巻ともいえる『平成怪奇小説傑作集』が収録作を「平成」、とくにポストモダンホラーの旗艦ともいえる角川ホラー文庫が創刊された1993(平成5)年以降を対象とするならそれもしごく当然だったことになる。
(言い訳するなら、2005年発行のアンソロジーの感想文に14年後の続巻を忖度、なんて・・知らんがな)

全然謝罪になっていませんね。続けます。

ちなみに、当時の『日本怪奇小説傑作集』へのもう1つの感想は

> 純文学臭というか,芥川賞テイストというか,要するに「文士」「純文」「ご立派」な印象が強すぎ。

というものだったが、その感想は今回の集成についても変わらない。否、むしろ強まった。

典型的なのが編者自ら「伝奇バイオレンスの騎手として華々しく登場」と紹介する菊地秀行の扱いで、収録された菊地の「墓碑銘〈新宿〉」は「リリカルなロマンティストの一面が顔を出」した短篇。
同じくSFや伝奇バイオレンスで名を上げた夢枕獏も、選ばれたのは平谷美樹あたりが採話していそうな実話怪談の類。

つまり、東雅夫は巻末の解説でこそ「平成」初頭のホラー・ジャパネスク勃興を語りつつ、要は自分好みの作品をつまみ上げ、列挙しているだけなのだ。いや、もちろんそれはアンソロジーの選者編者の特権で、決して責められるようなことではない。
ただ、昭和晩期から平成初頭のぐちゃぐちゃぬたぬた触手がずるりのラブクラフトな世界観はその後陰陽師なども取り込みつつ、現在に至るまで映画やアニメ、ライトノベルやアダルトゲームを介してアンダーグラウンドに蔓延し、一つの潮流として世界規模で定着してきたことを顧みると「リリカルなロマンティスト」の一篇などよりよほど重要ではないかという気がするのだがどうだろう。

NHK BSプレミアム「ダークサイド・ミステリー」のラブクラフトの回に専門家の一人として登場してはいたが、実はクトゥルーは苦手なんじゃないか東雅夫さん。

収録作一覧:

  ある体験(吉本ばなな)
  墓碑銘〈新宿〉(菊地秀行)
  光堂(赤江瀑)
  角の家(日影丈吉)
  お供え(吉田知子)
  命日(小池真理子)
  正月女(坂東眞砂子)
  百物語(北村薫)
  文月の使者(皆川博子)
  千日手(松浦寿輝)
  家──魔象(霜島ケイ)
  静かな黄昏の国(篠田節子)
  抱きあい心中(夢枕獏)
  すみだ川(加門七海)
  布団部屋(宮部みゆき)

読み終えて一覧を見返して思ったことは、実はどれも「怖い」「部屋の温度が下がる」とは感じなかったこと。やはりホラー、怪談である前に「怪奇小説」であることが選者には大切だったのだろう。
わざわざ「平成」と銘打った選集に赤江瀑や日影丈吉が出てくるのも世にも微妙な物語。

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コメント

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読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。

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