『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ (6)』 青木祐子 / 集英社オレンジ文庫
あー、こんな時間にお呼び立てして申し訳ない。森若さん。経理のお仕事のほうは大丈夫でしたか。
や、月初めなのでなんとか。佐々木(真夕)さん、麻吹(美華)さんもいるし? そうですか。
うん、会議室で話すようなことでもないのでね。あ、部長の了解はとっているので大丈夫。
僕はコーヒーお願いします。ホットで。森若さんは? そう。はい。
経理の話ではないです。森若さんの、副業?っていうか。ほら、青木祐子氏が文庫化されてる。『これは経費で落ちません!』でしたっけ。この出版不況の折、好評とのことでなにより。
あっ、失礼、副業をとがめるとか、そういう話じゃありません。その本の話ではあるんですが。
内密といえば、内密な話かなぁ。
率直に言いましょう、森若さん、困るんです。
今回の、第6巻でしたっけ。その最新刊について、社内でちょっと、声がね。うん。
や、僕もまあ、実は「経理部の森若さん」の仕事っぷりには常々感心していたんですよ。
隠れファンと言ってもいいかな。本人を前に隠れも何もないわけだけど。
ただね、今回のメインのネタというか、テーマっていうんですか。ちょっと、らしくないというか。
このシリーズの魅力って、実は、「これは経費で落ちません!」という一見強硬なタイトルとは真逆に、森若さんが清濁併せ呑んで社内手続きさえきちんと踏んでいたなら多少問題のある領収書でも「経費で落とす」、そのクールな手際のよさにあったと思うんです。
そのやり取りのなかで、落としてもらったほうは微妙に森若さん、いや、実際のところは会社や倫理的に、かな、借りを作り、引け目を感じ、しばらくするうちにトラブルが鎮静化したり、問題人物が消えていったりする。
森若さんご本人は、その間、名指しで相手を非難するでもなく、上司や同僚相手に騒ぐでもなく(そういうの、むしろ苦手でしょ?)、過不足なく求められた仕事を済ませて、週末のネイルや映画鑑賞の時間を大切にする。
これね、化学、バケガクのほうの化学でいうところの「触媒」の働きだと思うんですね。二酸化マンガンとか。
自分自身は変わらず、周囲の物質の変化をしかるべき方向に促進する。
それが、見事だと。
洋画にお詳しい森若さんならご存知かと思いますが、BSプレミアムで放送されたクリスティの『ABC殺人事件』、ありましたよね。ジョン・マルコヴィッチが情けないポワロ役を演じる。
あれも、新しい探偵役を模索する、言うなれば苦渋の作品だと思うんです。警察にコネもなく、相棒もいない、年を取って無力でみじめなポワロ。
ところが、森若さんは、ちょっと意外なアングルから、まったく新しい探偵役を示してくれた。
探偵という言葉がおかしいなら、なんでしょう、事件解決役?
それなのに。
この最新刊ね、これを読むと、森若さんがすっかりキーパーソンになってしまっている。就業時間を越えて周囲に積極的にからんだり、右や左へ人を動かしたり。
それでいいのかな。それでは普通の探偵小説みたいじゃあないか、と。
や、もちろん、天天コーポレーションが副業を容認している以上、社内規定でどうこういうつもりはないんです。
ただ、ね。せっかく新しいヒロインの在り方が、と思っていただけに。
会社の上のほう? いや、上ではない、かな。一部、そう、一部だけなんですけどね。少しばかり、問題か、と。
そもそもこんなふうに話題にされること自体、森若さんとしては不本意だと思うんだけど。
どうなんでしょう。
あと、今日は文庫カバーのイラストの顔でお話いただいているけど、NHKのテレビドラマの森若さんが……。
あれはあくまでテレビドラマですよね。「これは経費で落ちません!」というタイトルでドラマこしらえたらこうなるでしょ、ということで、実はスタッフの大半は原作を読んでないんじゃないか。
いやいや、僕は、むしろ田部未華子さんは嫌いじゃないんですよ。♪な~ん~て~なめらか~のCMとか、もうファンと言っていいくらい。でも、ねえ。
あんなに誰も彼もがぐいぐい前に出たら、それはもう、天天コーポレーションではありません。
うーん、なんだか、せっかくお時間いただいたのに、ちょっとうまく言えなくて。申し訳ない。
そういえば、森若さんのほうからも、何かお話があるとか。
はい。いますね。
はい。
はい。
えっ。
それは・・・。
うーん。
わかりました、戻ったらすぐ調べて。
※本ブログ内の青木祐子作品の私評は以下のとおり。ご参考までに。
『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~』
『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ (2)』
『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ (4)』
『これは経費で落ちません!(5) ~落としてください森若さん~』
『幸せ戦争』
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