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2019/06/10

毒ある潮目 『悪いものが、来ませんように』 芦沢 央 / 角川文庫

Photo_9 雨。
町中いたるところ、紫陽花(アジサイ)が花盛りだ。

ねえねえ紫陽花の、花に見える一つひとつは実はガクで、いわゆる花じゃないんですって。
そうそう、それに、紫陽花の花の色は土壌の酸性度によって色が変わるそうよ。酸性なら青、アルカリ性なら赤。
あら、それって。リトマス紙と逆? じゃ、もしかして……。

と、突然ご近所の理系奥様語りしてみたが、以降の書評に紫陽花はなんら関係ない。すみませんね。

さて、本題。
最近売れ筋の、芦沢央を何冊か読んでみた(セリザワ・オウと読んで、それは間違い。アシザワ・ヨウである)。

  角川文庫『悪いものが、来ませんように』
  創元推理文庫『今だけのあの子』
  新潮文庫『許されようとは思いません』

『悪いものが、来ませんように』では、不妊と夫の浮気に悩む若妻 紗英と、彼女に近しい奈津子の日常生活をより糸に、夫殺害の真実が見えてくる。
短篇集『今だけのあの子』では、若者たちのさまざまな「つらい」シチュエーションの中に、綱渡りのようなもろくも切ない友情が立ち現れる。
その果ての心温まる友情が描かれる『今だけのあの子』に対し、同じ短篇集『許されようとは思いません』では一転、「許されない」主人公たちがぎしぎしと追い詰められる。

紹介の歯切れが悪いのは当方の文才のなさだけでない、あらすじを書いてしまうと楽しみがそがれる、そんな作品が多いためだ。
たとえば「新婦とは一番の親友だと思っていたのに。大学の同じグループの女子で、どうして私だけ結婚式に招かれないの……」(『今だけのあの子』惹句)、「『これでおまえも一人前だな』入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―」(『許されようとは思いません』惹句)、さあどうする、どうなる。

これらの長短編を読んで、軽妙なサスペンス、上質なエンターテインメントとして楽しむ一方、

  潮目が変わった?

そんなことを感じる。
いや、一人ないし数人の作家を取り上げて言うことでないのは承知している。だが、何か、風向きの変化のようなものが感じられてならない。

7、8年前なら、悪意、嫉妬、憎悪を描くこれらの作品は「イヤミス」と称されて、湊かなえ真梨幸子沼田まほかるらの系譜に並んでいたのではないか。だが、芦沢央の作品はスリリングではあっても、「イヤミス」にはならない。

「イヤミス」なら、作品の構成、キャラクター、文体がもっと汚い。
それは作家の能力が及ばないのではない。描きたい対象にページが耐えられず、ゆがみ、夾雑物にまみれるのだ。「イヤミス」が「イヤミス」たり得たその理由は作者個々に異なっていただろう、だが、それが書かれ、売れた背景には何か、たとえば東日本大震災といった切実な時代の背景があったように思う。

それに比べると、芦沢作品は美しい。伏線からどんでん返しまで、なめらかな流線形の弧を描き、着地も穏やかかつ鮮やかだ。イヤな話、救いのない話にみえて、「目撃者はいなかった」の妻の強い目線など、どこかにまっすぐで流麗なものが描かれる。
決して「イヤミス」が劣るとか、「イヤミス」に劣るとか、そういったことを言いたいのではない、念のため。
ただ、(確かな論拠もなく)何か、この数年の間に変わったものを感じる、それだけのことだ。

でも、奥様、紫陽花って、あんなふうに見えて毒なんですって。
毒による症状はあるのに、毒の原因となる化学物質はまだはっきりわからないそうよ。
じゃあ、たった今、得体の知れない毒の葉が町中で雨に打たれているのね。
そうね。
ステキね。

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