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2019/05/02

何かをそっと囁いた 『狂気の巡礼』 ステファン・グラビンスキ、芝田文乃 訳 / 国書刊行会

Kyouki不気味な物語』(の、とくに「偶然」「和解」の連作)が思いがけずよかったので、グラビンスキをもう1冊読んでみた。

グラビンスキはポーランドの怪奇作家、『狂気の巡礼』は初期の短篇集『薔薇の丘にて』、『狂気の巡礼』から1篇を除いてまとめたもの。
ハードカバーに窓があいて、そこから表紙の不気味なイラスト(ペン画? リトグラフ?)がのぞく装丁が実に素晴らしい。

内容は、どこかの庭や部屋に赴いた主人公が何かを幻視、実はそれは死んだ……という展開が多く、ややバラエティに欠ける印象もなくはないが、それでも最後の1行であらゆる混乱に終止符を打つ「狂気の農園」、悪意が黒くよどむような「大鴉」など、それぞれ読み応えあり。
ジキルとハイドのグラビンスキ版、「チェラヴァの問題」では作者の論理的、科学的嗜好性読み取れる(ホラーとしては妻がBを撃ち殺すとAも、というほうが自然だと思われるが、そうしなかったことがかえって奇妙な読後感を残す)。

ただ、どうしても書いておきたい難点が2点。

1つは、Webの自動翻訳か、と思われるような訳のまずさ。

たとえば論理的に説明のつかない

  彼の客となって1週間、もう何年も顔を合わせていなかった。(「海辺の別荘にて」)

原書がどうなっているかは知らないが、これなど原文では「何年も顔を合わせていなかった彼のもとに客になって1週間」といった程度の意だったのではなかったか。

また、全体に、抽象的、観念的な名詞を(おそらく原文そのままに)主語、目的語に配してしまうことによる読みづらさが目につく。

  その幻影には実際あらゆる実在の基礎が欠けていることを確信して、私は目を凝らし、努めて知力の正気を保つようにした。(「薔薇の丘にて」)

  嵐になった。自然力が爆発する前に鉄道駅にたどり着こうと私は足を速め、(「夜の宿り」)

「実在の基礎が欠けている」「自然力が爆発」……。このような例は探すまでもなくどの頁にもあふれている。

もう1つは、帯やあとがきでの無理やりな「ポーランドのラヴクラフト」推し。

クラビンスキの作品の特徴は、ざっくりいえば死者、つまりは人間の強い思念が悪夢の実態となって生者を操り動かし、場合によっては死にまでいざなう展開にある。

かたやラヴクラフトの作品は時間、空間を超越した神話的存在が垣間見えたとき脆弱な人間は破滅せざるを得ない、というものであって、その恐怖、魔の存在は人智を越えているのだ。

説明のつかないウゴウゴしたお化けが出てくる、だからラヴクラフト的──などという短慮は避けたい。

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