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2019年5月の3件の記事

2019/05/27

なんで死んでるんだよっ!! 『インハンド(01)』 朱戸アオ / 講談社 イブニングKC

Photo_8 * 誕生
現在、『インハンド』シリーズで書店で手軽に手に入るのは、
 『インハンド プロローグⅠ ネメシスの杖』
 『インハンド プロローグⅡ ガニュメデスの杯、他』
 『インハンド 01』
の3冊。

『インハンド 01』が2018年からイブニング誌上で連載継続中のもの。
『プロローグⅠ』『プロローグⅡ』はアフタヌーン誌にそれぞれ2013年、2016年に掲載されたもののリニューアル版。以前はそれぞれ『ネメシスの杖』『インハンド 紐倉博士とまじめな右腕』というタイトルでアフタンーンKCから発売されていた(品切れにともないたいそうな高値でやり取りされていたが、テレビドラマ化をきっかけに入手しやすうなったことは善哉)。

ちなみに作者の朱戸アオは「アカトアオ」と読む。サ行の棚に置いてある古本屋さん、そこ違うから。

♂ 男
主人公は寄生虫学の研究者、紐倉哲。紐倉という変わった姓は、ゴルディアスの結び目からかと推察するが確証はない。彼はかゆみ止めの薬品開発による莫大な資産をもって広大な研究所を所有し、うすら笑いを浮かべ、人を見下し、頭脳明晰だが正義より自身の研究を優先する、探偵のカガミのような人物。過去の事件により右手を失っている。「何か自分より弱っている人見たら元気になってきちゃった」は彼の人となりを示す名言。
テレビドラマで紐倉を演ずる山下智久はたいへんイケメンではあるが、とくにそんな「うすら笑い」について少しもの足りない印象を受ける。生真面目すぎ。もっと高田純次でいいと思う。

♀ 女
原作『インハンド』シリーズのヒロインは厚労省患者安全委員会(PSC)調査官の阿里玲から『プロローグⅡ』以降は内閣情報調査室健康危機管理部門の牧野巴に変わっている。テレビドラマで牧野に菜々緒を配したのはこれ以上ない選択肢。TBS、GJ

ちなみに紐倉の研究所にコックとして雇われた雪村潤月は朱戸アオの長編『リウーを待ちながら』(イブニングKC、全3巻)でペストに蹂躙された横走市の生存者。潤月はテレビドラマには出ていないようだが、『リウーを待ちながら』は医療マンガ好きの方はぜひご一読ください。ニ、三週間は浮上できない。

† 死亡
配役以外の、テレビドラマ『インハンド』の印象。
実は、東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸先生(デング熱の紹介でおなじみ)が監修されるというので楽しみにしていたのだが、紐倉が寄生虫専門の学者であるという設定が活かされたのは第1話のみで、あとは原作ともどもごく普通のバイオテロサスペンスドラマになってしまっている。
加えて、第1話では、被害者の誰もが、自らの死を賭しても真相を明らかにしない、というジレンマが作品の最大のキモだったにもかかわらず、ただ犯人側の視点を追ったお涙ちょうだいの復讐譚になってしまった。原作者は怒っていいレベル。

∞ そして無限
作品として、必ずしも全方位的にクオリティが高いとは言わないが、イジワルな探偵、ペダンティックな会話、ほどよく苦味の利いたストーリー展開は捨てがたい。
『ブラックジャック』を起点とする医療マンガにまた一つ「残るもの」をin handできたのではないかと思う。そうあってほしい。

2019/05/06

タイトルリストラ? 『ベスト8ミステリーズ2015』 日本推理作家協会編 / 講談社文庫

8 講談社文庫の「ミステリー傑作選」は、その年度に発表されたミステリ短篇から厳選して編まれた単行本『推理小説年鑑』(現在は『ザ・・ベストミステリーズ』)からさらに抽出して文庫化したもの。1974年発行の『犯罪ロードマップ ミステリー傑作選1』を嚆矢に、一部スピンオフ的なものも含めて現在では90冊、スチール製の本棚2段以上に及ぶ長大なシリーズとなっている。

今回の『ベスト8ミステリーズ2015』の内容を見てみよう。
収録作は2015年に発表された8篇。

  大石直紀「おばあちゃんといっしょ」
  永嶋恵美「ババ抜き」
  秋吉理香子「リケジョの婚活」
  日野草「グラスタンク」
  榊林銘「十五秒」
  小林由香「サイレン」
  大沢在昌「分かれ道」
  若竹七海「静かな炎天」

推理小説界の傾向か、選者の嗜好かは知らないが、女性が活躍する作品が多い。しかも過半数が、展開はいろいろあれど女性が女性と闘うストーリーである(男性が登場しても添え物、せいぜい輪投げの的程度の扱い)。

誰かが罪を犯し、名探偵がその犯人・動機・方法を推理する、という、いわゆる「探偵小説」の体をなすものは一作もなく、「こんな設定だとなんとこんなことに!」というシチュエーションサスペンスとでも称すべきものが大半。
とたえば社員旅行で三人のオールドミスが罰ゲームを賭けてババ抜きを繰り広げる「ババ抜き」、テレビの婚活番組にリケジョがExcel片手にチャレンジする「リケジョの婚活」、復讐代行業者への依頼を描いた「グラスタンク」、銃で撃たれて死ぬまでの15秒間の錯綜を描く「十五秒」、特殊な刑罰法のもとに被害者の父親が懊悩する「サイレン」など、いずれも設定だけでごはんがごはんがススムくん。

ただ、一短篇としてみると、シチュエーションの説明までの熱量が高すぎて、起承転結の「結」にさほどインパクトがない、起承承承で終わってしまうような作品も目についた。実はいずれもそれなりに「結」には意外性もあり、品質は低くないのだが、「起」が大きすぎてややベタな「結」に驚けない、そんな印象なのである。

さらに、「探偵小説」ほど論理展開に気を遣わないシチュエーションサスペンスでは、ほんの少し冷静になってしまうと大きな穴が目についてしまうことも少なくない。
これほど理詰めでことを進めるリケジョが「彼」に走ったきっかけは? とか、「ババ抜き」や「グラスタンク」のように本人が正直に秘密を暴露することが「結」の要になっているものもある。「サイレン」の終わり方はいっけんショッキングだが、こんな法律が施行されたなら当然予測されるはずで、警察も役所も何をやっているんだか、である。

--------------

おまけ。

最初にも書いたとおり、『ミステリー傑作選』は今回で90冊。そのサブタイトルは、『犯罪ロードマップ』『1ダースの殺意』『殺人作法』といったいかにもミステリアンソロジーめいたものから、最近はそれにさらにアルファベットのキャッチが付いて『Bluff 騙し合いの夜』『Life 人生、すなわち謎』『Acrobatic 物語の曲芸師たち』等々と続いていた。

ここにきて、今回は突然の『ベスト8ミステリーズ2015』。
サブタイトルを検討する労力も惜しんだのだろうか。表紙や帯は変わらず経費、手間をかけているように見えるので、ちょっと不思議だ。
これが今回最大のミステリー。

2019/05/02

何かをそっと囁いた 『狂気の巡礼』 ステファン・グラビンスキ、芝田文乃 訳 / 国書刊行会

Kyouki不気味な物語』(の、とくに「偶然」「和解」の連作)が思いがけずよかったので、グラビンスキをもう1冊読んでみた。

グラビンスキはポーランドの怪奇作家、『狂気の巡礼』は初期の短篇集『薔薇の丘にて』、『狂気の巡礼』から1篇を除いてまとめたもの。
ハードカバーに窓があいて、そこから表紙の不気味なイラスト(ペン画? リトグラフ?)がのぞく装丁が実に素晴らしい。

内容は、どこかの庭や部屋に赴いた主人公が何かを幻視、実はそれは死んだ……という展開が多く、ややバラエティに欠ける印象もなくはないが、それでも最後の1行であらゆる混乱に終止符を打つ「狂気の農園」、悪意が黒くよどむような「大鴉」など、それぞれ読み応えあり。
ジキルとハイドのグラビンスキ版、「チェラヴァの問題」では作者の論理的、科学的嗜好性読み取れる(ホラーとしては妻がBを撃ち殺すとAも、というほうが自然だと思われるが、そうしなかったことがかえって奇妙な読後感を残す)。

ただ、どうしても書いておきたい難点が2点。

1つは、Webの自動翻訳か、と思われるような訳のまずさ。

たとえば論理的に説明のつかない

  彼の客となって1週間、もう何年も顔を合わせていなかった。(「海辺の別荘にて」)

原書がどうなっているかは知らないが、これなど原文では「何年も顔を合わせていなかった彼のもとに客になって1週間」といった程度の意だったのではなかったか。

また、全体に、抽象的、観念的な名詞を(おそらく原文そのままに)主語、目的語に配してしまうことによる読みづらさが目につく。

  その幻影には実際あらゆる実在の基礎が欠けていることを確信して、私は目を凝らし、努めて知力の正気を保つようにした。(「薔薇の丘にて」)

  嵐になった。自然力が爆発する前に鉄道駅にたどり着こうと私は足を速め、(「夜の宿り」)

「実在の基礎が欠けている」「自然力が爆発」……。このような例は探すまでもなくどの頁にもあふれている。

もう1つは、帯やあとがきでの無理やりな「ポーランドのラヴクラフト」推し。

クラビンスキの作品の特徴は、ざっくりいえば死者、つまりは人間の強い思念が悪夢の実態となって生者を操り動かし、場合によっては死にまでいざなう展開にある。

かたやラヴクラフトの作品は時間、空間を超越した神話的存在が垣間見えたとき脆弱な人間は破滅せざるを得ない、というものであって、その恐怖、魔の存在は人智を越えているのだ。

説明のつかないウゴウゴしたお化けが出てくる、だからラヴクラフト的──などという短慮は避けたい。

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