山川方夫『夏の葬列』(集英社文庫)、『親しい友人たち』(創元推理文庫)
最近、ときどき山川方夫を読んでいる。ざっくり、四十数年ぶり。
初めて手にしたのは大学に入ったばかりの頃、池袋東口にあったクラシック喫茶で本を読もうと先輩に誘われて。先輩たちと雑居していたアパートからの道すがら、西口の芳林堂2階で新潮文庫版を買った。『愛のごとく』、あるいは『海岸公園』、どちらだったかは覚えていない。
クラシック喫茶というのは、ひねもすクラシックの名盤をかける店で、その店は椅子、テーブルは一人掛けの一方通行、珈琲の注文は声をひそめ、私語をかわすと叱られる……。
なんて話はどうでもよくて。
山川方夫は幾度か芥川賞候補になった実作のほか、三田文学の編集やそれにともなう江藤淳、曽野綾子、浅利慶太、村松剛らの新人発掘で知られる。享年三十四、交通事故での早世だった。
そういうツウ好みだが地味な経歴、作風のわりに、文壇、出版人に愛好者が多いようだ。そう数字が出るとも思えないのに、文庫も切れ目ない。
なぜだろう? 山川信仰とでもいうか、なぜ山川方夫は読まれ続けるのだろう?
学生当時はともかく、今では一つの仮説を平気で口にできる。
山川方夫は、そのへんの凡庸な文学青年(壮年、老年)にとって、なんとなく、「自分もこのくらいは書けるんじゃないかな、きっと書けそうだ」と思える手頃な物差しなのだ。
日本画家だった父親の死に伴う実家の凋落を描く私小説的作品(「海岸公園」など)は育った環境次第に思われるし、
若者の無軌道を描くやや退廃的な作品(「安南の王子」「愛のごとく」など)は文学青年が誰でもかかる麻疹(はしか)のようなもの、
ミステリ、SFテイストの強いショートショート(「夏の葬列」「待っている女」「お守り」など)は確かにキレがよいし読後感も豊かだが、文学を志すこの身、頑張れば一つや二つくらいは書けそうではないか!
だが、結局、誰も山川方夫にはなれなかった。
山川方夫は青春小説の一つの星のまま、薄暮の空にぼんやりかかっている。今日もどこかで文学青年がそれを見て跳ねる。
ありがたいやら、迷惑やら。
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