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2019/03/21

続けて、老いについて 『この道』 古井由吉 / 講談社

Photoもう5、6年前のことだが、次男が大学入試の現代国語で「さっぱりわからない」と嘆いた出題があった。プリントを見ると古井由吉の「水」だった。古井由吉は学生の頃から好きな作家の一人で、おおかたの作品は持っているというとあきれられた。

ことほどさように古井由吉の作品は難しい。言葉遣いが難しいし、文節のかかりがわかりにくい。段落としてつかみがたいと困っているうちにそもそもと全体がのしかかってくる。

初期の、芥川賞をとった『杳子』など今からみればまだ可愛らしく、愛おしい。いや、実際、『杳子・妻隠』の文庫以来ファンになってしまったのだが。
それ以来、文庫や単行本を買い求めているが、読了した、といえるのは半分くらいだろうか? 一巡読み通して、読み通せたと思えなくて未読本の棚に戻したものも……まあ、こんな話はどうでもいいですね。

『この道』はその古井由吉の新刊、2017年から2018年にかけて「群像」に発表された8篇からなる。

正直、これは小説と言えるのだろうか、と思う。巻頭の「たなごころ」など、まだ、物語の片鱗らしきものから始まり、病人との対話もある。そのうちどんどん老人の身辺雑誌のような独白が多くなり、最後の「行方知れず」にいたっては書かれた年月日を特定できそうな実際の事件、災害など盛り込み、ブログかSNSに書かれた日記のようだ。

にもかかわらず、細部、あるいは全体から吹きあがる「文学」感が凄い。
八十路の老人が持病の通院の道も怪しく今と昔をこき交ぜた感慨を段落単位でぼそぼそと吐き出している──そう見えて、何か芯のようながある。遠回しに手渡される重み。

文学のテーマの一つが「死」であるなら、『この道』には確かに「死」が語られている。
しかしそれは口やかましく騒ぎ立てられた「死」ではなく、ただおぼつかない足取りで歩いた先の道端に落ちているような「死」。執着とは別のところにある、ないし至った、人生。

ただし、老人性痴呆めいた口ぶりに騙されてはいけない。
「群像」の発表号は規則正しく2ヶ月おきだし、一篇ごとのページ数もほぼ均等。
80歳にして作者のプロとしての手腕は健在なのである。

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