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2019/02/27

和解への遠い道のり 『不気味な物語』 ステファン・グラビンスキ、芝田文乃 訳 / 国書刊行会

Photo巻末の著者紹介によればステファン・グラビンスキ(1887-1936)は「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」、とのこと。
そもそもポーランド文学とは? と、まずウィキペディアを引いてみた。

ヘンリク・シェンキェヴィチ『クオ・ヴァディス』、イェジ・アンジェイェフスキ『灰とダイヤモンド』、スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』──いずれも名作だが、並べても今一つ共通項が思い浮かばない。これにショパンやキュリー夫人を加えても同様。

そこでグラビンスキだが、『不気味な物語』には12篇の恐怖小説が取り上げられている。

オーソドックスな怪談から散文詩的な掌編まで、いずれも悲劇的な結末にいたる経緯は理解できるものの、総じてやや読みにくく、細部が頭に入りづらい。100年も昔の衒学的文体のためとも推察されるが、主語の位置など、翻訳の工夫次第でもう少しわかりやすくなったかも、と思われなくもない。

  私のぼんやりした視線は歩道の両側に並ぶシナノキの列に沿って移動し、その二列の並木は建物の入口まで続いていた。(「シャモタ氏の恋人」)

  ストスワフスキを救う可能性を私は完全に疑っていた。彼が陥った状態は、快復の道を夢見るにはあまりに限度を超えた形を取っていた。(「サラの家で」)

  こうして姿を変えた住まいは貧困すれすれの奇妙な簡素さという性格を獲得した。(「視線」)

3例とも適当にページを開いて抜き出したものだが、いずれも直訳の度合が過ぎ、日本語としてすんなり流れない。そのため往々にして読み手の理解が妨げられる。
(ただし、こういった比喩や熟語の多いひねくれた文体は、やや古風な翻訳作品にはそれなりに似つかわしく、割合容易に結末を推察できるありきたりな怪談でもそれなりに「文学を読んでいる」気分にさせてくれるというメリットがあって一概に全否定はできない。)

本作に納められた恐怖小説の特徴の一つは、各話とも登場人物のグロテスクな死で終わることにある。
日本の怪談でいえば、日常のちょっとした怪異を語る昨今の実話怪談より、「東海道四谷怪談」や「牡丹灯籠」をイメージするとよほど近い。

もう一つ顕著な特徴は、各話ともやや過剰なエロティック描写で飾られていることだ。
オーソドックスな恐怖小説やミステリなら「○○は△△をかき抱いてキスをした」「その夜二人は結ばれた」程度の遠回しな表現ですませたところを、はっきり「行為」を想起させる内容になっているのである。

もちろんエロティックといっても昨今のポルノ小説ほどではないが、たとえばエロスの香あふれると評されるドラキュラやカーミラに比べても、表記がそれぞれ具体的かつ生々しい。

  私は自制を失った。いきなり彼女を両手でつかんだが、抵抗は感じず、愛の熱情の中、寝台に投げ込んだ。すばやく捕らえがたい動きで、彼女は肩から琥珀の留め具をはずし、私の前で貴重なすばらしい己の躰を露にした。(「シャモタ氏の恋人」)

  「愛する君!」ウニンスキは答え、彼女の胸の魅惑に満ちたつぼみに唇を這わせる。(中略)「母が来るわ」スタハは抱擁から抜け出し、すばやくブラジャーを留める。(「和解」)

  突然、彼女は両足を巻きつけて、彼を抱き寄せた。(中略)屋根裏に短く痛々しい叫び声が響き、それから二回目、三回目が聞こえ、そして静かな長いむせび泣きになった……。(「屋根裏」)

ほかにも、不倫相手にその性愛の技法を教わったのは誰からかと責め立てる(「偶然」)、修道院の廃墟を訪ねて以来怪しい影に追われるようになった主人公が目にする男根の影(「投影」)、等々、多くの作品においてエロティックな行為が(ある意味怪異以上に)具体的に描写され、さらにそれが物語展開上の重要な要素となっている。

これらの作品はどのような場所(雑誌?)に発表されたのだろう。訳者の解説にはそのあたりは触れられていない。エログロナンセンスな作品の並ぶ煽情的な三文誌だったのか、ある程度アカデミズムから評価される堅苦しい場だったのか。
こういったエロティックな要素は、作品そのものを面白くしている場合もあるし(上のウニンスキとスタハの例など、この瑞々しい一連の性愛描写がなかったなら「和解」という短篇の魅力は半減するだろう)、逆に一部の作品のようにあまりに具体的描写にこだわりすぎてもう少し迂遠にしていただけたらと思われるものもある。

いずれにせよ、豪華函入りハードカバーの安価とは言い難い本ではあるが、楽しい読み物ではあった。
とくに鉄道を舞台に奇妙かつ情熱的な不倫とその破綻を描いた「偶然」、その夫婦の次元を超えた(宇宙的?でさえある)和解を描いた先述の「和解」、この連作にはかつで味わったことのない不思議な高揚、否、恍惚さえ覚えた。

──ただ、いくら国内外で再評価が高まっているといって、〈ポーランドのポー〉〈ポーランドのラヴクラフト〉はさすがに言い過ぎだろう。大物の名を出せばよいというものではない。

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