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2018/12/06

〔ネタバレ御免〕 『スマホを落としただけなのに』 志駕 晃 / 宝島社文庫

Photo1980年代、カラスはあることに激しくイラついていた(雑誌にも何度か書いた記憶がある)。
ファミコンはすでに当時の子供たちの必須アイテムとなっていた。パソコンも8ビット、16ビット、32ビットと機能を高め、ビジネスに、ゲームに、右肩上がりにシェアを高めていた。もちろんパソコンが圧倒的な市民権を得るには90年代後半のインターネット普及を待つ必要があったが、それらデジタル機器が生活に何か全く新しいものを持ち込もうとしていることは明らかだった。
……にもかかわらず、人間を、社会を描くことに貪欲であるべき文学は、ほとんど、全くといってよいほど、それらを扱うことがなかった。振り返れば、黒電話、茶の間のテレビさえ、正面から描けなかったのではないか。

『スマホを落としただけなのに』は、その意味で、携帯電話、SMSというデジタルツールの現在を、それも小道具でなく、主たる素材(ある意味、登場する人物より重要なテーマ)として取り上げたサスペンス小説である。その意気は高く評価したい。
描かれた個人情報暴きにかかわる技術的側面も、概ね納得できる。とくに重要な携帯電話、SMSのセキュリティ破りについて、登場人物のやっていることは実は大半がアナログかつアナクロニスティックな作業であり、ハッカーだのクラッカーだのいうレベルの技術がなくとも根気さえあれば実行できるものである。

(これ以降、作中の展開にかかわることを書くので、未読の方はご注意ください。)

 

ただ、全体にあまりにも「偶然」の要素が多い。

たまたま誰かがスマホを落とした。それをよりによって猟奇殺人犯が拾った。
たまたまそのスマホの待ち受けには殺人犯好みの若い、長い黒髪の女性の写真が使われていた。
しかもその待ち受け画面には女性の名前まで書いてあった(ヲイヲイ)。
そのスマホのパスコードは持ち主の誕生日。
その若い女性と殺人犯はたまたま……? なんで殺人犯はその動画を知っていたのか。その動画を知っていたなら、なぜヒロインは彼を、彼はヒロインを知らないのか。

いっぱしの猟奇殺人犯なら、こんな偶然に頼らず、自らの目と足で犠牲者を選んでほしい。

ターゲットとなった女性が、また、実にいろいろ悩ましい。

あなたは現在の恋人について、のほほんと上から目線で語るべきではなかった。
あなたはそもそも間違ってもFacebookなど使うべきではなかった。
あなたは間違っても恋人に生々しい写真を撮られるべきではなかった。
あなたは昔の恋人になど絶対に会ってはいけなかった。
あなたは恋人や知人の触れるパソコンにその動画データを置いておくはずはなかった。
そんなあなたがクライマックスで突然「いい人」扱いだったキープ君を「一番知られたくなかった」人に棚上げしてしまう。動画データも昔の恋人とのキスもどうでもよいことになってしまった。もう、一から十までわけがわからない。

思い起こしてみると、何人も若い女性を殺害し、その隠匿に成功してきた殺人犯の最大のミスは、そんなヘンなヒロインをターゲットにしてしまったことにある。
つまるところ、作者の最大の失敗は、上に書いたあれこれの矛盾点などではなく、映画化を連呼されたその作品タイトルだったのかもしれない。
そう、正しくはこうあるべきだった。
『スマホを拾っただけなのに』

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コメント

この本は、文庫カバーが何種類かあるようですね。
正しくは、もともとの文庫カバー(男が道でスマホを拾うイラスト)に、映画の宣伝のカバー、今回添付した黒字に文字のものや、映画のポスターを用いたもの、をさらにかぶせている。
要は帯が大きくなってまるままブックカバーになっているわけですが、そのタイプは好きです。帯はどうしても破れたり、捨てたりしがちなので。

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