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2018/11/26

来訪者だぞ、ワトスン君 『シャーロック・ホームズの蒐集』 北原尚彦 / 創元推理文庫

Photo上質なホームス・パスティーシュ集。

ちなみに、日暮雅通による単行本版解説によれば、
「正典と同じテイストの贋作をめざすものをパスティーシュ、風刺や嘲笑的なもじり、戯作のたぐいはパロディとするのが、現在よくおこなわれている大まかな分け方」
とのこと。作者の北原尚彦も単行本版あとがきの中で
「あくまでそれらしく書くのがパスティーシュで、茶化したりホームズもどきを登場させたりする『パロディ』とは区別されます」
と記している。

厳密な定義はともかく、この『シャーロック・ホームズの蒐集』は、ドイル翻訳家、ホームズ・ファンで知られる北原尚彦によるホームズ・パスティーシュ集である。ホームズとワトスンが登場し、ベイカー街221Bの下宿の階段を登ってやってきた依頼人に応えて事件を解決する。

短篇6作、一読、声が漏れる。素晴らしい。

ホームズ・パスティーシュの作家というと、たとえばエドワード・D・ホックジューン・トムスンが知られるが、ホックの場合、謎やトリックにキレがありすぎて、つまりどうしてもホックのテイスト、クオリティが出てしまって、そこが気になる。
ホックをはじめ何人かのベテランミステリ作家によるホームズ・パスティーシュのアンソロジーも多々あるが、その個々の収録作が短篇ミステリとしてそれぞれよく出来ていてもアンソロジーとして案外面白くないのは、いかにドイルにならったつもりでも、一人ひとりの作家の色がわずかずつにじみ出てしまって、一冊通して読むとドイルの書いたものとは到底思われなくなってしまうからである。

その意味で本書は、一冊通して一人の優れたシャーロキアンが書いていること、プロパーのミステリ作家ではないため自身の色にこだわらず、ドイルが書いた作品の型をそのまま追うことが出来ていることに力がある。
一つひとつの短篇の展開、小道具、ときに本格ミステリとしては緩く、ズルい展開、ときに科学や社会改変への期待が込められ、ドイルの作品集にあっても遜色ないように思われた。

たとえば「憂慮する令嬢の事件」など、本来ドイルの正典には決してありそうもないストーリーではあるが、この登場人物の冷静さ、正義感など、まさしくホームズの物語が発表当時から現代まで愛され続けているベクトルを正しく模写したものと感じられた。
北原尚彦がドイルの書きそうなものを書いたのではない。ドイルが書くべきだったものを北原が書いたのである。

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