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2018/11/22

楽に死ねると思うな 『増補 へんな毒 すごい毒』 田中真知 / ちくま文庫

Photo先日取り上げた『とんでもない死に方の科学』の「世界一有毒な物質を口に入れたら」の項、ポロニウム210やボツリヌス菌の働きがあまりにも峻烈だったので(※)、毒についてもう少し読んでみることにした。

『へんな毒 すごい毒』、単行本は2006年の発行(技術評論社)。
早川いくをの『へんないきもの』シリーズの登場が2004年だったことを思い起こすと、そのブームにあやかったタイトルかと推察される。ただし凡百の後追い本とは違い、内容はおよそ生真面目なものだ。

本文は
  毒のサイエンス
  動物毒の秘密
  植物毒の秘密
  鉱物毒・人口毒の秘密
  麻薬とは何か
  毒の事件簿
  毒と生物の進化
の7つの章に分かれ、それぞれの章でさまざまな毒の由来や毒にかかわる事件を紹介している。
毒性の強さ、体内に入る侵入経路、神経毒・血液毒・細胞毒といった分類、そして動物毒、植物毒、鉱物毒など個々の毒の特性、などなど。

その紹介の仕方は禁欲的なまでに総覧、列記的で、いわばジャンル別に整えた辞書、事典に近い。
一つひとつの毒について、なにから(どうやって)得られるか、どのような化学反応に基づいて体内で毒として働くか、などを数ページで紹介し、すぐ次の項目に移る。ヘビ毒、トリカブトやキノコ毒、青酸カリのように著名なものも、比較的無名なものも、同じ扱いである。
毒による一部の著名事件や人物を扱った「毒の事件簿」の章においても、ナポレオン暗殺、タリウムによる母親殺人事件、トリカブト殺人事件、地下鉄サリン事件など、いずれもせいぜい2~3ページで概略を紹介するにとどまる。

当然、個々の毒や事件については物足りない思いが残るが、逆に、この世界における「毒」の意味が(百科全書的でなく!!)俯瞰して見えてくるのが面白い。さらに最終章「毒と生物の進化」において、俄然、生物の進化における「毒」の存在意義、その重要性、進化の見事な構成が見えてくるのが痛烈だ。

何度も読み返すような本ではないだろうが、常に手元には置いておきたい。
ある日、わけもなく体調がおかしい、心臓が、呼吸が、というとき、どのような毒を盛られたか知らずに死んでしまうより、こういった書物を冷静に調べ、自分が何という毒の、どのような働きによって死ぬのかをきちんと把握して死んでいきたい。それが知識のあるべき姿である。

Knowledge is a deadly friend. (Epitaph)



※『とんでもない死に方の科学』によれば、近年発見されたボツリヌス毒素のH型は「点眼器でプールに一滴落としたあとで、プールの水をグラスに一杯飲んだら絶命するレベル」。しかも「知能や精神になんの影響も及ぼさない」、つまり「麻痺の波が体を下っていくあいだずっと、あなたは何が起きているかを一〇〇パーセント明晰に理解して」「あなた自身も医者も、それをなすすべもなく見ているしかない」とのこと。『へんな毒 すごい毒』では記述時期の関係か、まだこのH型への言及はなく(A型からG型までの7種のみ)、それでなお項目タイトルは「地上最強、ボツリヌス毒素」。

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