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2018/09/18

言わせてもらおう 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 橘 玲 / 新潮新書

Photo少し前の新書ベストセラー、いろいろ過激なことを書いてあるというので今さらながら読んでみた。
(読むにいたった経緯は少々うざったいので省略)

読後の印象は、率直にいえば、1冊の本として論評、主義主張の体裁をなしていないように思われた。

要は、最初から最後まで、他人の論文からのつまみ食い、引用のカタマリで、誰それの何々にこう書いてあるからこれこれ、それそれ、を繰り返しているばかりなのである。自身で実地調査、フィールドワークをした気配はどこにもない。
さらにいえば、著者が引用を重ねる進化生物学とやらの個々の論文はどの程度信用がおけるのか、そこがどうも疑わしい(嘘、というのではない。ただ、人間の心の問題は再現性を確認しづらいだけに、データから導かれた主張にもともとやや推論が多い分野と思われるのだがどうか)。

そんな論文の一部を抜き出し、矢継ぎ早に
・背の高い親から長身の子どもが生まれるよりずっと高い確率で、親が統合失調症なら子どもも同じ病気を発症する
・(犯罪心理学でサイコパスに分類されるような)子どもの極端な異常行動に対して親ができることはほとんどない
・一般知能の8割、論理的推論能力の7割が遺伝で説明できる(知能が環境のみによって決まるという仮説は否定される)
・最新の遺伝学や脳科学の知見は、男と女では生まれつき「幸福の優先順位」が異なることを示唆している(したがって男と女では求められる社会的役割が異なる)
など(実際はもっと放送NGレベルなこともあれこれ)主張されても、大変扇情的で売れるのはわかるが、正しいかどうかとなるとなあ、である。

一つひとつの引用先、あるいは主張、それらの是非についてはここでは問わない。

ただ、著者は、血液型性格判断などを安易に信じるタイプなのかな、と思う。
血液型性格判断が信頼できないのは、その元となるデータが統計として信頼できる/できない以前に、そもそも人の性格の定義が困難、だからだ。
たとえば「几帳面」というタイプ一つ見ても、
・会社では几帳面だが家は汚部屋、な人物ははたして几帳面なのか否か
・普段は小さなトラブルを連発するがいざというときはきっちり仕事のできる人ははたして几帳面なのか否か
・逆に普段は緻密な仕事ぶりなのに、ときに杜撰な結果を残す人ははたして几帳面なのか否か
・自称几帳面なAさんは自称几帳面でないBさんより本当に几帳面なのか否か
等々、数値化して科学的に比較することの難しさがある。

双子の成長や人種、貧しさをベースにしたデータをいくら集めても、こういった評価についての定義、解法がなければ何を調べたことにもならない。
少なくとも本書はそのあたりを明らかにする努力を十分に重ねているようには思われないのだ。

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