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2018年9月の4件の記事

2018/09/27

序列崩壊 『医学部』 鳥集 徹 / 文春文庫

Photoハラスメント、不祥事報道が相次ぐ中、早くも旧聞となりつつあるが、東京医科大の入試について女子受験生、浪人生(3浪以上)に不公平な得点操作がなされていたことがわかった。

是非を問うなら不正操作自体は非に決まっているが、同時に、医大側がなぜそうするに至ったかは考えておかなければならない。端的にいえば、現状、医療部門の現場は皮膚科、眼科など一部を除き極めてブラックであり、女性が女性として結婚、妊娠・出産を迎えるのには適していないのである。
無論、通常の感覚では、職場がブラックならその改善が優先される。しかし、問題はその現場が人の生命にかかわることだ。医者全員が毎日5時に帰り、土日に休んでしまうと、助かるはずが助からなくなる生命がある。それは、現状、医者の数を増やしてどうにかなる問題ではない。

──念のため、東京医科大を擁護するつもりなどもうとうない。受験生に対し、秘密裡に不公平な点数処理をして、それが許されるわけもない。ただ、逆に東京医科大の点数操作を女性差別の一言で非難しても、それで済む問題ではない。
(ちなみに、これは素人アイデアだが、たとえば医療に関する学部が一般に「医学科」「歯学科」「看護学科」「薬学科」に分かれているように、「医学科」そのものを「外科・・・」と「皮膚科・眼科・・・」等にある程度細分化し、募集人員数をコントロールすることはできないだろうか。つまり、男女の比率を操作するのではなく、仕事の質・内容で分けるのである。)

背景に、「医学部」というものはそもそも一般的な大学の学部に比べ、臨床医を育てる職業訓練校の色合いが濃い、このことがある。医学部に入ると、6年目に国家試験に通り、医者になる──極論すると医者によるギルドに所属する、ということである。そのため、医学生は学生のうちから解剖、さまざまな医療の現場を経験するポリクリ、国家試験後もマッチングシステムによる配属先への研修医として訓練期間を経る。

こういった制度、現状について触れ、その問題点を洗った新書が鳥集徹『医学部』である。
その帯にこそ

  モラル低下、大量留年、レイプ事件

と文春砲炸裂!な煽りの赤字が踊っているが、内容は我が国の医学部の歴史的成り立ちから現在にいたるまでの変遷、それに伴う問題点など、さまざまな切り口から医学部の現状をまとめてくれている。
東大医学部の凋落、東大医学部に進んだ学生の適正などをことさら強調しているなど、少しばかり偏りを感じなくもないが、全体を通せばそもそも東大を中心に権威を謳歌してきた旧帝大医学部とその医局に対し、新設の国立大学医学部、また(とくに順天堂をはじめとする)私立医大がここにきて大きく勢力を伸ばしてきた経緯、また一方、医学部偏重の受験傾向が引き起こした問題点を取材をベースにとりまとめ、それなりに公正な書物であるように思われた。
所詮現場を知らない医療ジャーナリストとあなどるのは簡単だが、「外からはこう見えているのか」という観点で医学部在籍、また医学部受験を心がける若い方々に一読をお奨めしたい。

なお、東京医科大の不正入試問題は時期的にも触れられていないが(本書は今年3月発行)、巻末、「外科医として活躍する女性も増えつつある」と紹介された女医の先生が「私は家庭より仕事を選びましたが、外科医をめざす女性医師がもっと増えてくれるといいなと思っています」とあるのは一つの解法ではないかと思う。
カテーテルやAIの導入を背景に、女性外科医が増えれば現場も変わっていくだろう。それが一番の力となるはずだ。

2018/09/18

言わせてもらおう 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 橘 玲 / 新潮新書

Photo少し前の新書ベストセラー、いろいろ過激なことを書いてあるというので今さらながら読んでみた。
(読むにいたった経緯は少々うざったいので省略)

読後の印象は、率直にいえば、1冊の本として論評、主義主張の体裁をなしていないように思われた。

要は、最初から最後まで、他人の論文からのつまみ食い、引用のカタマリで、誰それの何々にこう書いてあるからこれこれ、それそれ、を繰り返しているばかりなのである。自身で実地調査、フィールドワークをした気配はどこにもない。
さらにいえば、著者が引用を重ねる進化生物学とやらの個々の論文はどの程度信用がおけるのか、そこがどうも疑わしい(嘘、というのではない。ただ、人間の心の問題は再現性を確認しづらいだけに、データから導かれた主張にもともとやや推論が多い分野と思われるのだがどうか)。

そんな論文の一部を抜き出し、矢継ぎ早に
・背の高い親から長身の子どもが生まれるよりずっと高い確率で、親が統合失調症なら子どもも同じ病気を発症する
・(犯罪心理学でサイコパスに分類されるような)子どもの極端な異常行動に対して親ができることはほとんどない
・一般知能の8割、論理的推論能力の7割が遺伝で説明できる(知能が環境のみによって決まるという仮説は否定される)
・最新の遺伝学や脳科学の知見は、男と女では生まれつき「幸福の優先順位」が異なることを示唆している(したがって男と女では求められる社会的役割が異なる)
など(実際はもっと放送NGレベルなこともあれこれ)主張されても、大変扇情的で売れるのはわかるが、正しいかどうかとなるとなあ、である。

一つひとつの引用先、あるいは主張、それらの是非についてはここでは問わない。

ただ、著者は、血液型性格判断などを安易に信じるタイプなのかな、と思う。
血液型性格判断が信頼できないのは、その元となるデータが統計として信頼できる/できない以前に、そもそも人の性格の定義が困難、だからだ。
たとえば「几帳面」というタイプ一つ見ても、
・会社では几帳面だが家は汚部屋、な人物ははたして几帳面なのか否か
・普段は小さなトラブルを連発するがいざというときはきっちり仕事のできる人ははたして几帳面なのか否か
・逆に普段は緻密な仕事ぶりなのに、ときに杜撰な結果を残す人ははたして几帳面なのか否か
・自称几帳面なAさんは自称几帳面でないBさんより本当に几帳面なのか否か
等々、数値化して科学的に比較することの難しさがある。

双子の成長や人種、貧しさをベースにしたデータをいくら集めても、こういった評価についての定義、解法がなければ何を調べたことにもならない。
少なくとも本書はそのあたりを明らかにする努力を十分に重ねているようには思われないのだ。

2018/09/17

追悼 樹木希林

「昭和64年,すなわち平成元年に亡くなった顔ぶれを見てご覧。経済界からは松下幸之助,芸道から美空ひばり,漫画家では手塚治虫。いずれも昭和の時代を代表する人物ばかり。」、以前、ザレ文にてこんなことを記した。
もとより改元と著名人の訃報に関係などあるわけはないが、今、平成の最後のこの年に、星野仙一、高畑勲、西城秀樹、さくらももこ、そして樹木希林と、一つの時代を築いた方々が次々と亡くなっていく。残念でならない。

樹木希林に関しては、「寺内貫太郎一家」の「ジュリーィィィ!!」で意識して以来(当時はまだ悠木千帆を名乗っていた)、不思議なことに、一度も不快感、不信感をもったことがない。
内田裕也の前には、あの怪優、岸田森と結婚していたのか。
数年前の紅白歌合戦の審査員席で楽しそうに観覧していた姿が思い起こされる。
晩年、不動産屋のCMで、自身癌の闘病中であるにもかかわらず亡くなったおばあちゃんの幽霊役を演じる剛胆さ。
あとから思えば、三谷幸喜の「古畑任三郎」シリーズの犯人役を演ずる機会がなかったのが惜しい。さぞかし哀しみと苦い笑いに溢れた、物凄い犯人を演ってくれただろうに、と思う。
合掌。

2018/09/03

ヒラが浮き足立つなよ 『ハコヅメ ~交番女史の逆襲~』(第3巻) 泰 三子 / 講談社 モーニングKC

3前回紹介して間がありませんが、待望の新刊が発売されたので取り上げておきますね。

3巻では、女子中高生を狙う性犯罪者を追う連作が、主人公から脇役まで全員全ページ全コマキレキレッで、そりゃーもうものっすごい出来です。

ことに、合同特別捜査本部の描写がソリッドでピリピリきます。

  ヒラの刑事は
  ホントよく
  しゃべるな

  その決定打を
  見つけるのが
  てめぇらの
  仕事です

に続く本部捜査一課班長と捜査員たちのやり取りがたまりません。
働き方改革? それどんな食いもんですか。甘いの?

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