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2018/07/10

『牧神の影』 ヘレン・マクロイ、渕上痩平 訳 / ちくま文庫

Photo原題は“Panic”、このPanicのpanがギリシャ神話の「牧神(Pan)」から、と知ったのが一つ勉強。
訳者あとがきで「暗号の発展史と推理小説の暗号」をかなり詳細に学べたのがまた一つ勉強。
(ポーの「黄金虫」に出てくる単一字換字法暗号など、政治・外交の世界では16世紀にはすでに力を失っていた──などなど)

・・・と、勉強にはなるが、それが必ずしも作品の力とならないところがつらい、マクロイ

本書『牧神の影』も、解決における暗号キーの提案、また夜の森に潜む徘徊者の正体、など、推理小説としての謎と解明はなかなか面白い。
ところが、中盤のサスペンス(つまり、まさしくPanicのシーン)、ヒロインのあまりの危機感のなさにページをめくる気がなえる。作り話であるとわかったうえでも、もしヒロインが早々に殺されていたら果たしてどれほどの国家的損失か・・・などと考えるとヒロインのみならず、軍や周囲の者たちの呑気さも正直呆れんばかりだ。
作中に頻出するヴィジュネル暗号を解説するためのアルファベット表も(純粋に暗号に興味がある読み手はともかく)あまりに煩雑で読み飛ばすしかないため、何度も読書の集中が途切れる。いや、すみません先生もちろんこちらの頭が追い付かないせいではありますけれども。

訳者はあとがき中で「後年のサスペンスものでは、途中からしばしばエスピオナージュ的な展開が入り込み、ややもするとストーリーを混乱させる」等々書いているが、「脂の乗った時期に書かれた作品」たる本書においても、いろいろバランスの悪さを指摘せざるを得ない。

というわけで、まあ言ってしまえば良くも悪しくもマクロイらしさ横溢爆裂。読み切ってしまえば勉強プラス面白さで☆の数は標準越えではあるのだけれど、これが創元推理文庫でなくちくま文庫からの発刊であるのもまた納得。

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