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2018/02/20

『神の値段』 一色さゆり、『天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス』 城山真一 / 宝島社文庫

ともに2015年の第14回「このミステリーがすごい!」大賞、受賞作。
雑誌記事を読んだ家人に乗せられて手にしたのだが、粗削りな面も含めて楽しく読むことができた。

『神の値段』 一色さゆり

Kamiあってないような現代美術(いわゆるコンテンポラリー・アート)の「値段」というなかなか難しいテーマに、その作品を扱うギャラリスト(画商)殺しをからめたミステリー。
まず、ギャラリストの若いアシスタントを語り手にしたことが好感を招く。その結果、マーケットにかかわるさまざまな蘊蓄を描いても押しつけがましさにつながらず、新鮮な読み応えが最後まで維持される(原田マハが『楽園のカンヴァス』にて主人公を伝説的な有能キュレーターに設定したがゆえ、全体に上から目線となってしまったのと好対照)。
ストーリーは、墨を使ったインクアートで知られる現代アートの世界的巨匠の作品をめぐり、やり手ギャラリストの女性が殺され、やがて背景にアートビジネスの仕組みが見えてくる、というもの。
その巨匠がなぜ作中にあるようなアートの作り方をしてきたのか、また、それによって決まっていく「値段」とは何かという点については、正直よくわからない。つまるところ、男性便器に「泉」と書いて展覧会に持ち込んだマルセル・デュシャンの作品に付く「値段」とは、ということなのだが、工業製品たる便器に特別な価値があるわけではないので、それに付加価値が付くなら著名人のサインが高価でやり取りされるのと変わらないのか?
この『神の値段』が不徹底なのは、その一方で巨匠の作品に見る者を圧倒する力を持たせてしまったことかもしれない。
ミステリーとしては、(世の書評にもあるように)最後の証拠が弱い。が、本作においてそれは些末なことだろう。

『天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス』 城山真一

Blackタイトルどおり、「黒女神」と呼ばれる天才トレーダーが依頼主の利益を獲得するお話。
興覚めなことを言うなら、いくら天才でも、リスクヘッジを考慮しないこの買い方買わせ方は無理、無謀。素人でもわかることだが、株なんてものは(以下略)。
だが、現実味のない話を読ませるからこそ小説、という逆説もまた真で、その意味でこの作品は正しくよくできた小説である。
興味深く感じたのは、主人公とワトスン役の青年が、ある著名マンガの登場人物2人をなぞって描かれていること。残念ながらその設定は作品全体の面白さや価値にさほど影響を及ぼさないが、それでもかつてはキワモノ扱いだったマンガが文字文化の側に影を落とす、そのことに遠い感動を覚える。
主人公の無敵ぶりや「雨の日に傘を貸さない人間にはなりたくない」という主旋律もやや子どもっぽくてマンガ的といえばマンガ的。だが、それが作品のリーダビリティを助けているのだから、いいのである。

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一点、余計なお世話だろうが、作品の評価とは別のところで、気になったのが作家名。
本名かペンネームかは知らないが、「一色さゆり」は往年の名ストリッパー、「城山真一」は経済小説家を思い起こさせる。ビッグネームをリスペクトして、というならまだしも、単に「調べていない」「気にしない」でこうなら、それはせっかく自分の本を出版する機会に軽薄すぎやしないか。
架空の物語を編むというのは、作品名、作者名含め、一言、一文字にいたるまで最大限に神経を遣い、工夫を巡らせるべき仕事のはず。違うだろうか。

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