『赤い指』 東野圭吾 / 講談社文庫
年明けから個人的にいろいろありまして、今も落ち着いたとは言い難い状況です。当ブログを楽しみに覗きにきていただいた方(がどれほどおられるのか存じませんが)には申し訳ありませんでした。
PCのキーボードに向かうのも久しぶり、でいきなり東野圭吾とは我ながら無謀な気もしますが、ここは短評でさらりと。
阿部寛主演『祈りの幕が下りる時』の映画がヒットと見聞きし、そういえば初期の『卒業』や『悪意』、『私が彼を殺した』などは別として最近の加賀恭一郎シリーズは読んでいないなと思い立った次第。
まず短編集の『新参者』で肩慣らし、それから遡って選んだのがこの『赤い指』です。
家庭内不和にいらだつ平凡なサラリーマンがある夜妻からの電話に急ぎ帰ってみれば、自宅の庭に少女の遺体……といういささかエグい始まり方から怒涛の終盤まで、話の、つまり読み手の転がし方が実に上手い。
冷静に考えてみれば最後に明らかになる真相は「いくらなんでもありえない!」レベルだし、その真相をわずかなきっかけで見抜き、思い通りの大団円に誘う加賀の手腕もいくら名探偵とはいえ「できすぎ」。さらにその事件の外側に描かれた加賀のプライベートも「ないない」。
──にもかかわらず、読み始めるや冒頭からついつい引き込まれ、真相に驚かされ、なにやら凄い人生ドラマに立ち会ったような気分にさらされる。いやほんと頭の半分では「ありえない」ランプが黄点灯しているんだけど。
東野圭吾という作家は、デビュー当時は同期の「新本格」に比べて地味な扱い、ミステリマニアからはさほど話題にされず、宮部みゆきほどには売れず……それがいつの間にかテレビも映画もヒットして、ベストセラー作家となってしまいました。
加賀恭一郎という探偵はガリレオシリーズの湯川学に比べても特徴のない、黒子、狂言回しな印象で、先にあげた初期の作品群についても加賀シリーズとして読んだという認識がそもそもありません。
もしかすると、それがいいのかもしれない。つまり東野圭吾という作家は、一部の特異なシリーズを除き、「謎解き」「意外性」「キャラクター」「人情」「読みやすさ」などをレーダーチャートにまとめると、一つの項目が突出することなく、まんべんなく3ポイントか4ポイント取る、そういった作品を産む技術を手に入れた、と、そんな塩梅ではないかと。
逆にいえば、本作の弱点は、本質的には犯行と無関係な「真相」を終盤にバランスよく配置したことにより、肝心の犯人像やその動機はほとんど捨て置かれてしまったことにあります。通ぶってその弱点を突くのも一興ですが、ここは素直に転がされるのが加賀シリーズの愉しい読み方というものでしょう。
« 「耳袋秘帖」シリーズ 風野真知雄 / だいわ文庫、文春文庫 | トップページ | 『からかい上手の高木さん』(現在8巻まで) 山本崇一朗 / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル »
「ミステリ・サスペンス」カテゴリの記事
- 東野圭吾を悼む(2026.07.30)
- 『一次元の挿し木』 松下龍之介 / 宝島社文庫(2026.03.02)
- 『ハウスメイド』 フリーダ・マクファデン、高橋知子 訳 / ハヤカワ文庫(2026.02.19)
- 『怪物の森 未解決事件捜査官ヴァン・リード』 ジェス・ロウリー、北 綾子 訳 / 新潮文庫(2026.02.16)
- 時計を巻き戻す 『ロイストン事件』 D・M・ディヴァイン、野中千恵子 訳 / 創元推理文庫(2024.12.23)
« 「耳袋秘帖」シリーズ 風野真知雄 / だいわ文庫、文春文庫 | トップページ | 『からかい上手の高木さん』(現在8巻まで) 山本崇一朗 / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル »


コメント