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2017/10/10

出でよ、闘う文庫解説! 『文庫解説ワンダーランド』 斎藤美奈子 / 岩波新書

Photo親しい作家同士、互いに甘々と褒め合う解説、だらだら粗筋を書き連ねるばかりの解説、断りもなく犯人やトリックをさらしてしまう解説などなど、困りものの文庫解説については本ブログでも幾たびか指摘してきた。
もちろん豊かな作家紹介、鋭い一篇の文芸批評として切り出して読み応えのある解説も少なくない。個人的には岩井志麻子の『魔羅節』(新潮文庫)に寄せた久世光彦の解説など、一等星に値するように思う。

そんな「文庫解説」に着目し、古今の名作を新しいアングルで語ろうとするのが本書『文庫解説ワンダーランド』、しかも著者があの『妊娠小説』の斎藤美奈子とくれば面白くならないはずがない。冒頭から、痛快な勧善懲悪劇とみなされてきた『坊っちゃん』について各界の士が「実は悲劇」「いややはり喜劇」と丁々発止文庫解説上で斬り合う痛烈さ。続く川端康成、太宰治と、各社の文庫解説を比較検討することがこれら文豪の評価を洗い直すことにつながって目から鱗がはらはら落ちて止まない。

ただ、掲載先が岩波の「図書」、まとめたのが「岩波新書」という場のせいか、取り上げた大半が昭和以前の作家、作品で、今さら林芙美子、高村光太郎、サガン、バーネット、柴田翔なんか取り上げてどうするの、いや彼らを扱う是非はともかく、もっと現代作家とその文庫解説を語ってほしい、斬ってほしかった。「教えて、現代文学」と題した最終章に並ぶのが村上龍、赤川次郎、渡辺淳一はまだしも松本清張、竹山道雄、壺井栄、野坂昭如って……。

もう一点、本書は文庫解説を“てこの支点”にその作家、作品の評価を覆す試みなのだが、1冊、1人の文庫解説をもってあたかも当時のその作家、作品の評価がその一色で染まっていたかのごとき解き方がないわけでもなく、若干気になった。

一例。斎藤美奈子は庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』の中公文庫(1973年)の佐伯昭一による「機智とユーモアにあふれた愉しい風俗小説」という能天気な解説を受けて「当時のおおかたの読者の感想も大同小異だったろう」と少々上から目線だが、本当にそうだったろうか?
中公文庫は『赤頭巾ちゃん』の文庫化とほぼ同時に庄司薫が『赤頭巾ちゃん』より10年も前に本名の福田章二名義で発表していたシリアスな文体による『喪失』を刊行、また『白鳥の歌なんか聞こえない』の高見沢潤子の解説(1973年)に「この楽しい青春の書は、神を失った現代の社会がふりむいてもみない、人間にとって大切なもの、大げさにいえば形而上的なものを追求している、深い意味をもった青春の書なのである」と語らせている。
つまり、『赤頭巾ちゃん』はブームになった当時、すでに「愉しい風俗小説」としてのみ語られていたわけではないのだ。
斎藤美奈子は2012年の新潮文庫版の苅部直による解説で庄司薫作品の「佐伯がインテリの悪癖と切り捨てた<観念的、思想的な新現象>を述べた書であり、表層の軽さこそが<独特のてれ>なのだ」という構造が初めて明らかになったような書きぶりだが、これは事実誤認の類だろう。

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