〔短評〕 『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』 J・S・レ・ファニュ、千葉康樹 訳 / 創元推理文庫
レ・ファニュの貴重な中・短篇集。
とはいえ、
ロバート・アーダ卿の運命
ティローン州のある名家の物語
ウルトー・ド・レイシー
ローラ・シルヴァー・ベル
の怪奇短篇4作については、「怪」が「妖美」の庭に踏み入ってかつ静謐な『吸血鬼カーミラ』や傑作と名高い短篇「緑茶」と同じ作者によるものと思えないほどありきたりな印象。
逆にいえば19世紀半ば、すでにのちのホラーのさまざまなパターンを自家薬籠中の物としていたレ・ファニュこそはプロフェッショナルなエンターテイナーだったのかもしれない。
なお「ティローン州のある名家の物語」(1839年)はシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』(1847年)のネタ元だったと目される作品。確かにトラブルの鍵となる人物の設定はかなり似ている──作風や主人公の描き方はまるで異なっているが。
巻末の表題作
ドラゴン・ヴォランの部屋
は、カーミラの作者による中篇、と身を乗り出すとがっかりするが、肩の力を抜いて、ロマンを求めてパリを訪れたイギリス人青年の冒険を皮肉たっぷりに描いた犯罪小説と読めば痛快。
千葉氏の翻訳は平井呈一に比べれば古雅風趣では劣るものの、こと本作においては展開の疾走感に見合って読みやすい。
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