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2017/06/17

『恐怖の百物語 第1弾』 関西テレビ放送 編著 / 二見レインボー文庫

Photo1991年4月から9月まで関西テレビ放送で制作・放映されたテレビ番組『恐怖の百物語』を活字化したもの(の改装・改訂新版)。

「はじめに」に「よけいな演出や、テレビお得意のおざなりな分析や解説をいっさい排除して、体験者の実話をただ淡々と聞くだけの番組はつくれないものか──」とあり、木原浩勝・中山市朗両氏による『新・耳・袋 - あなたの隣の怖い話』が1990年の発行だったことを考えると、実話怪談系のかなり早い時期の成果、かつ、のちの実話怪談集や都市伝説群の契機となった怪談集、と考えることができる。
そして、その内容は初期ゆえにみずみずしい恐怖に溢れ、ネタ詰まりからひねった奇譚(=怪談といいつつ怖くない)の多い昨今の実話怪談集に比べ、プリミティブな恐怖に特化した読み応えあるものとなっているように思われる。……ぐねぐね論評しているが、早い話がとてもコワイ。

ただ、「体験者の実話」を謳うなら、それはどうか、と気になる点があった。

本書にはテレビ番組で取り上げた体験談のうち29話がピックアップされている。
本来、29人が怪異に会い、それを語ったなら、その怪異のありようはもちろん、体験者の感じ方も、それぞれ色合いが異なるはずである。

ところが、全六章のうち、第一章「ドライバーを襲う悪霊たち」に取り上げられた5話では、

1). その白い冷たそうな手が、私の坐っている助手席のウィンドウに触れたとたん、私には車全体が冷気で急激に凍りついたような気がして、
2). その一言で、私は全身にサーッと鳥肌を立て、背筋がゾーッと寒くなりました。
3). なんの脈絡もなく、僕の心のなかに〝やばいぞ!〟という叫びが起こったのです。同時に、全身にサーッと悪寒が走りました。
4). (目のあるべき部分に目のない子供たちに見つめられて)全身の血がサーッと凍りついたようになった私は、
5). つぎの瞬間には、冷水を浴びせられたように全身が震えあがっていました。

続く第二章「世にも恐ろしい幽霊屋敷」の5話でも

6). (ドアノックを手にした)瞬間、まるで氷に触れたような冷たさが、指先から全身に走ります。
7). (洋館の玄関に機材を運び入れたとたん)不思議なことに、私の全身をサーッと悪寒が走り抜けました。
8). (引っ越した部屋で)身体全体に寒気が走って、冷たい風が駆け抜けていったのです。
9). 心なしか、あたりの空気は妙に冷たくよどんでいるように感じられました。
10). 朽ちかけた洋館をあおぎ見た瞬間、なぜか私は、心の奥底まで凍りつくような悪寒を感じたのです。

と、ここまで表記こそ違えどいずれの怪談にも「冷気」「悪寒」「寒気」が語られている。
ほかにも、

18). (部室の戸を開けた瞬間)真夏だというのに、ものすごく冷たい空気のかたまりが「ブワーッ!」と流れ出してきたのです。
21). (怪談の戸のほうに進むと)その瞬間、ブワーッ!という、ものすごい勢いの、しかも、なにやら背筋の凍るような冷たくて生ぐさい風を全身に受けて、

など、実は全29話のうち24話でこういった「冷気」「悪寒」「寒気」が恐怖を煽っているのである(例外のうちの1話も、雪山での遭難にまつわる話なので「悪寒」が話題にならなかっただけかもしれない)。

恐怖を煽る表現がこれだけ偏ると、制作担当者によるリライトの傾向、だけとは判断しづらい。実際に体験者がいたのではなく、漠然とした噂をリライトしたのではないか──いや、最悪、制作担当者の創作の可能性まで勘繰らざるを得ない。怪奇小説なら創作はほめられこそすれ、「実話怪談」における創作はいわば怪異の捏造である。
少なくとも読み手に余計な斟酌をさせるくらいなら、これほどまでに「冷気」「悪寒」「寒気」にこだわらず、もっと表現のバリエーションを工夫すべきだった。

──と言いながら、最後にまったく相反することを書くが、「冷気」「悪寒」「寒気」が繰り返される本書を風呂で読んだところ、いくら追い炊きしてもいっこうにいつもの汗にならず、湯船は冷え冷えとしたまま。本を置いて頭を洗うときも背後に誰かいるようで、文字通り寒気が去らなかった。
夏の暑い盛りに怪談、とはきっとこういう効能を言うのだろう。その限りでは「怪談」として良書であるようにも思う。

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